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ねこまんまdeハーミット〜共同戦線はトラブルばかり!  作者: 紅葉・ひろたひかる
リミット!~断罪パーティーはひそやかに
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優、スイーツを受け取りに行く(優視点)

優視点です。執筆はひろたひかるです。

 会場に着いたら、もう夏世さんと咲さん、美晴さんが到着していた。

 かっこいいカフェみたいな空間で、夏世さんは会場の準備をスタートしていた。一平さんと夏世さんと三人でソファにかかっていた埃避けの布を剥がしたり机を動かしたり、会場のセッティングをしたり。そんなのを手伝いながらちらりとキッチンをうかがい見ると、咲さんと美晴さんが持参した食材や料理をてきぱきと整理している。


 なんていうか――すごく慣れたコンビネーションでいいなあ。咲さんが美晴さんに指示を出し、それにぱっと美晴さんが反応しててきぱき動いている。そんなに遠くない未来、二人であんなふうにお店を切り盛りするんだろうなあ、なんて妄想してしまった。私には予知能力はないので単なる想像だけど、これはかなり確実な未来なのでは? と思う。いいなあ。

 ちょっとだけあの二人に私と一平さんを重ねて、将来私たちも結婚してあんなふうに二人で料理したりして、なんて妄想して「何考えてるの私」と赤くなってしまった。


 けれど忙しくも和やかだったのはそこまで。パーティーの時間まであと三十分ほどになった頃、咲さんが「まだスイーツが届かない」と気がついた。ほぼ同時に夏世さんのスマホに古川家の二人目の専属運転手・飯田さんから連絡が入った。飯田さんは咲さんのお兄さんと、お兄さんが作ったスイーツを迎えに行っていたはず。


「渋滞?」


 飯田さんの車は、どうやらひどい事故渋滞に巻き込まれ、身動きが取れなくなっているらしい。つまり、パーティー開始に間に合わない可能性が高い。


 私は一平さんを見た。

 どんなに渋滞で動けない状況だって、多少距離が離れていたって、私と一平さんなら取りに行ける。それも一瞬で。

 夏世さんが、咲さんがどれだけ一生懸命準備してきたか知ってる。まだ会ったことはないけれど、咲さんのお兄さんだって今日のためにスイーツの準備を頑張ってくれたんだろう。かなりスイーツ愛の深い人だと聞いている。第一、スイーツの中にはバースデーケーキも入っているんだ、まさかそれがないなんてあり得ない。渋滞のせいで完璧なパーティーの準備を台無しにされるなんて、何とかしなきゃという気持ちがわき上がってくる。そして一平さんも同じ気持ちらしかった。


「一平さん……」


 一平さんと視線が絡む。私は口を開かず思念だけで一平さんに伝えることにした。


【一平さん、二人で取りに行こうよ】

【だな。テレポートするところを見られなきゃいいわけだし。咲も美晴ちゃんも、このあたりの地理には詳しくないって言ってたから、俺たちが戻ってくるのが早すぎるとか気がつかないだろ】


 そう、私と一平さんはいわゆる超能力者。離れた場所に一瞬で移動できるテレポートが使える。ひとりだと荷物が持てないかもしれないから、二人で一緒に転移すれば多分スイーツを持って来られるだろう。

 夏世さんによると、今車が立ち往生しているあたりは事故や渋滞が起こりやすい交差点らしく、少し進まないことには迂回路もないらしい。その辺りの人から見えない場所にテレポートして、スイーツを受け取って、また隠れてからテレポートして戻ればいいだろう。

 美晴さんが一緒に行くと申し出てくれたけどそれは丁重に断って、ごめんね、と内心で謝りながら一平さんと二人で会場を後にした。


 テレポートしちゃえばすぐ取りに行けるんだけど、それだと文字通り一瞬でスイーツを取ってきたと丸わかりなのでよくない、と一平さんの提案で、行きは徒歩で行くことにした。立ち往生しているのは会場から徒歩で十分強かかるあたりらしい。私もこのあたりの地理にはそれほど詳しくないので、スマホの地図を頼りに一平さんと二人で早足だ。その間に事の経緯を蘇芳さんにテレパシーで連絡を入れる。


 ビルの建ち並ぶ道をどんどん歩いていくと、車の列がつながってきた。本当だ、渋滞してる。ほどなくして少し先に見える交差点で、パトカーが停まっておまわりさんが誰かと話しているのが見えた。あそこが事故現場なんだろう。さっと透視してみてもけが人はいなさそうだったので、ほっとした。

 さて、そうしたら飯田さんの車は――あった。交差点の向こう、こっちに向かってくる側の車線で動けなくなっている。


「一平さん、交差点の向こうだよ。ええと、先頭から四台目の黒い車」

「あれだな。よし、行こう」


 なんとか交差点を渡り、飯田さんの運転する車にたどり着いた。大きなぴかぴかの車は、古川家のガレージで見かけたことがあるやつだ。助手席側から窓をノックするとすぐにこっちを振り向いて「あ」と飯田さんの口が開いたのが見えた。助手席の窓が開く。


「一平くん、池田さん」

「飯田さん、お疲れ様です」

「荷物受け取りにきました。あ、遼さんですね。初めまして、麻生一平です」


 後部座席で大きなクーラーボックスを押さえながら座っているのは大学生くらいの男性。この人が咲さんのお兄さん・玉野遼さんか。専門学校の一年って言ってたから、蘇芳さんや夏世さんと同い年なのかな。私も「池田優です」って挨拶をした。


「挨拶はそのへんでもういいだろう。これを運びに来たんだろう、運べそうか?」


 そう言って遼さんは押さえていたクーラーボックスを優しくたたいた。クーラーボックスは大きめのものが二つだけど、かなり大きいね!


「この中にケースに収めたスイーツが入れてある。今回は全部で五種類。洋梨のタルト、りんごのバターケーキ、さつまいもと栗のモンブラン。あとはレモンのムースとバースデーケーキだ。バターケーキに添える用のヨーグルトクリームも入っているが、これは俺がサーブするときに仕上げとして盛り付けるのでそのまま冷蔵庫に入れておいてくれ」

「わかりました」


 保冷バッグの片方を遼さんが持ってきていた台車に積み、もうひとつは一平さんが手で持っている。台車に積んだ方の保冷バッグには崩れると困るケーキ類が入っているらしい。多少動かしても問題のないものは一平さんのバッグね。

「じゃ、遼さんは飯田さんと後から来てください。俺たち、先に会場に搬入しています」

「ああ、頼んだ」


 ぺこりと頭を下げて、私は台車を押して歩き出した。ケーキを持っているからさすがに走るわけにいかず、大通りを少し歩いてからすぐに細い道を曲がった。

 これで車からは私たちが見えない。あとはもうちょっと死角になる場所を探して、テレポートして帰るだけ。あたりを透視して、人がいなさそうな場所を探した。


「一平さん、そこの角を曲がった先は誰もいないよ」

「おう、そしたら角を曲がってすぐ跳ぶか」

「うん」


 一平さんが私の先を行き、先に角を曲がる。曲がった先はビルとビルの間の裏道で、昼の営業をしていない店舗ばかり。午前中はまだ閑散としている。

 けれど私ははっとして足を止めた。後ろから人の気配が近づいてくるのだ。


「一平さん、待って」

「池田さん、荷物を俺が――」


 慌てて制止したけれど間に合わず、一平さんがテレポートでその場から消えたのと、角から遼さんが顔を出したのはほぼ同時。ううん、遼さんの方がわずかに早かった。

 つまり、遼さんははっきりと一平さんが消えるのを見て――


「あ」


 遼さんが固まった。そして私の方を向いて、また一平さんが消えたあたりを見て――


「今、麻生くんが消えたように見えたんだが?」


 見られちゃった! どうしよう! さあっと血の気が引く。


 別に私たちが超能力者だってことは話しちゃいけないことじゃない。でも、人と違う力を持っていることで忌避感とか恐怖を感じる人もいるし、あるいは嘘つき呼ばわりする人もいるだろう。怖がられるのは、私たちも怖い。

 なので基本的に隠しているんだけど、なぜだろう。目の前の人にはそういう警戒感が働かない。普通ならもっと警戒するんだけど、私の中の何かがそんな必要はないって訴えかけてくる。

 じっと遼さんを見る。


 ――そっか、恐怖とか興味本位とか、そんなんじゃなくて単純に疑問に思っていることを知りたいって目をしているからだ。


 ちょっと迷ったんだけど、急いで戻らなきゃいけないのも事実。私は腹をくくって口を開いた。


「あの、超能力ってわかります? テレポートしたんです」


 言った! 言っちゃった!


「テレポート? それは何だ?」

「ええと、離れた場所に一瞬で移動しちゃう能力なんですけど……」

「ほう、便利だな。ひょっとして池田さんも使えるのか? そのテレ――なんとか」

「テレポート、ですよ。ええまあ、使えます」


 あれ? なんか拍子抜けだなあ? 私は肩に入っていた力を少しだけ抜いた。


「あの、遼さん、疑わないんですか?」

「疑う? なぜ」

「こんな怪しい能力だから。現実離れした話だし、嘘だって思われるんじゃ」

「怪しいも何も、現実に目の前から麻生くんが消えたんだから本当にそういう能力を持っているんだろう。それとも何かのトリックだと疑って欲しいのか?」

「違います!」

「ならいいじゃないか。俺は早いところケーキを納品したい。時間も迫っている。君は時短する能力を持っている。万々歳だ」

「は――」


 時短扱いされたのは初めてだ。一気に力が抜けて、押していた台車に寄りかかる。おっと、危ない! スイーツが載ってるんだった!


「俺が代わろう」


 遼さんが台車のハンドルを引き取った。


「そもそも女の子に重いものを持たせるべきじゃないと思い至って追いかけてきたんだ。俺が押すから、池田さんは俺と台車を移動させてくれ」


 遼さん、肝っ玉太いなあ! ほっとしたのも相まってちょっと笑ってしまった。

 と、そこへ。


「優、どした? なかなか跳んで来ないから迎えに来た――」

「あ、一平さん」


 一平さんが戻ってきた。そして私と一緒にいる遼さんを見て固まってしまった。

 さあ、いい加減早く戻らないと。パーティー開始に間に合わなくなっちゃう!


「話は後でね。遼さん連れて早く戻ろう」

「え、って優、いいのか?」


 戸惑う一平さんに遼さんがさらっと返す。


「心配するな。誰にも言わないと誓おう。そうだ、咲も知っているのか?」

「いえ」

「ならば咲にも黙っている。さあ、時間は有限だ。急いで移動しようじゃないか」


 訳がわからないという顔をする一平さんと平然として見える遼さんを連れて、私は会場のあるビルへとテレポートするのだった。



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