文化祭狂想曲~おいしい料理のつくりかた編・3
「お疲れ様でしたー!」
戦いきったという高揚感とともに、みんなで労い合う。優さんの彼氏がいつの間にかやって来ていて、咲君と鉄板を運んでいた。私はボウルやザルなど洗い物をまとめて持つ。
「優さん、これはどこに?」
「それは調理実習室にお願いします。まり子ちゃん先に一緒に行って、案内してもらっていい?」
「分かりました! 美晴さん、こっちです」
同じように洗い物を抱えたまり子ちゃんが優さんに呼ばれて小さく頷く。
「まり子ちゃん、ありがとう」
「何言ってるんですか。こっちこそありがとうですよ! せっかくのデートを潰してしまってすみませんでした。でも、すごくすごく助かりました!」
「この後の打ち上げもぜひ参加していってくださいね!」
と、追いかけてきた部長さんが言う。
「打ち上げもあるんだ。うん、ありがとう。玉野君にも聞いてみるね…… っていうか、で、デートじゃないんだよっ?」
「またまた~」
部長さんも優さんも、まり子ちゃんも、そんなんじゃないのにもー!
そんなことを話しながら、昴学院の調理実習室に案内してもらう。何度も往復して洗い物を運びこみ、分担して洗って片付けていく。
外の水場では、今日レンタル業者が引き取りにくる鉄板を、咲君達が洗っているはずだ。
洗い物を運んでいる最中、生徒会長の蘇芳さんと夏世さんが片付けをしている校内を見て回っているのに遭遇した。鉄板を洗っている一平さんに声をかけて、なにか言い合いをしていたようにも見えたけど、なんだったのだろう。というか、一平さんは料理部の人ではなさそうなのに、自分のクラスや部活の片付けは良かったのだろうか。
みんなと楽しく話をしながら洗い物をしていると、鉄板を洗った咲君と一平さんが調理実習室に戻ってきた。
「ありがとう玉野君、美晴さん。それから、みんなお疲れ様でした! このままここで打ち上げをしましょう」
と、飲み物を用意していると高木先生が両手にケーキの箱を持って入ってきた。後ろから手に包帯を巻いた女の子も入ってくる。鉄板で火傷をした鈴村さんだ。
「先生、しのぶ部長、みなさん、ご迷惑おかけしてすみませんでした!」
ペコリと鈴村さんが頭を下げる。
部長をはじめとした皆さんが、鈴村を心配して声をかけた。
「都ちゃん、大丈夫だった?」
「水ぶくれできちゃってますけど、大丈夫です。しばらくシャーペン持てないかもだけど」
「あれ? 鈴村先輩、左ききだっけ?」
優さんのつっこみに、鈴村さんがぺろりと舌を出した。
「ほら、座って。カフェテリアのケーキ、先生のおごりだぞ」
「わっ、やった」
「玉野と渡瀬さんもほら座って。お前たちが来てくれたおかげですごく助かったよ。結局、文化祭を見て回る時間をやれなくて悪かったな」
「いいんですよ。楽しかったし」
高木先生が心底申し訳なさそうにいう。でも、お料理が好きな高校生たちと協力して屋台をやるのは本当に楽しかったのだ。
「来年は英稜の文化祭に招待しますね。ぜひ皆さんでお越し下さい」
「ああ、ぜひ行かせてもらうよ」
私たちは互いに連絡先を交換し、また会うことを約束した。途中で蘇芳さんと夏世さんも調理実習室に顔を覗かせ、文化祭を見て回れなかったお詫びにとカラフルな綿菓子をいただいた。
秋の日暮れは早い。楽しく打ち上げに参加させてもらっているうちに帰り道はもう暗くなってきていた。危ないからと手を繋いだまま無言で歩く咲君は珍しくはないけど、なんとなく雰囲気が怒っているような、拗ねているような、そんな気がした。
「玉野君、どうしたの?」
「いや、別に」
「そう? 高木先生って結構カッコよかったね」
「そうか?」
さらにムスッとした気配。
「蘇芳会長もすごくすごく綺麗な人だったね。仕事できるって感じだったし。蘇芳会長って三年生なんだって。大学に内部進学する人ばっかりだから、三年生が生徒会長できるんだって」
「……そういや古川会長って呼ばれないのな」
「あ、そうだね。みんな蘇芳さんって呼んでたから移っちゃった」
「……古川会長と何を話し込んでたんだ?」
「えっ、今日のお礼言われただけだよ」
「ふーん」
「女の子も可愛い子達ばっかりだったね」
「……美晴ほどじゃねぇよ」
「ん? なんか言った?」
「なんでもねぇよ。それより、咲って呼ぶ約束だったんじゃねぇの?」
「う、うん。そうだったんだけどね」
優さんたちの前で名前で呼ぶのがちょっと恥ずかしくてね。
言葉につまっていると、手を引かれた。
「さ、帰るぞ」
「う、うん。あのね、咲君が一番かっこよかったよ」
「……ま、とーぜんだな」
ぷいっと背けた咲君の耳が赤く染まっていた。
「おいしい料理のつくりかた編」はここまで。明日からは「Hermit編」です。