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ねこまんまdeハーミット〜共同戦線はトラブルばかり!  作者: 紅葉・ひろたひかる
無人島バケーション!〜ホラー展開はおよびじゃありません〜
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エピローグ(咲視点)

本編最後のお話は咲視点です。執筆は紅葉です。

 サバイバルツアーから戻った翌日の夜。一平から電話がかかってきた。無料通話のできるアプリを介した通話だと、電話料金を気にしなくて済むから助かるな。


『寝てたか?』

「いや、学校の課題をやってた。どうしたんだ?」


 夜になっても部屋の空気は蒸し暑い。窓を開けているから、虫の声がよく聞こえた。電話の向こうで、一平が炭酸の入ったペットボトルのキャップを開けた音が小さく聞こえた。俺もグラスを手に取り、麦茶を一口飲む。

 しばらく言い淀んでいた一平が口を開いた。


『……今回のサバイバルツアーだけどさ、やっぱり誘って悪かったなって思ってさ。

 渡瀬さんや咲を危ない目に合わせちまったし、安全安心なキャンプみたいなもんって言って誘ったのに……俺、ドッキリもどんなドッキリに遭うかは本当に知らなくて』


 何を言い出すかと思えば。気にしすぎなんだよ、一平は。


「俺も何度も言うけど、あれは一平のせいじゃねぇよ。あそこの島にあんなもんが封印されていたって、開発会社の河合さんも、モニターを頼んできた一平の家族の人も知らなかったんだろ。美晴たちがあの巫女さんに、祠を見つけても手を合わすなって忠告してたんだってな。情報共有していなかった俺らも悪いけど、そんなので封印解除できるようにするなっていうんだ。祠を見たら手を合わすだろう? 日本人のDNA舐めんな。俺もうやたらめったら手を合わせねぇことにした」

『ははっ、帰りに寄った神社のばあさんにも怒られたしな。まあ咲が無事で良かった。うわ、思い出したらまた鳥肌立ってきた』

「俺の方こそ、悪かったな。その、取り憑かれている間? 一平たちに迷惑かけちまって」

『まあ、な。それこそ仕方なかったんだよ。……咲、取り憑かれてる間って、どんな感じだったんだ? 得体の知れないものに取り憑かれてる感覚とかあったのか?』


 一平に問われて、俺はあの日の事を思い出しては、胸の中でモヤモヤとしている事を話してみることにした。


「正直なところ、覚えてないんだ。祠から離れて一平の後ろを泳いでいた時に、急に頭の中で俺のとは違う声が聴こえてきて、さっきまで見ていた景色を見て、物珍しく感じるような感覚があってさ……その後は、朝、無線機の音で起きるまで記憶がないんだ。なあ、美晴や巫女のばあさんが言ってたあの化け物の話って本当なのか? 俺は二重人格で、たまたまあの時に俺の中のもう一人の俺が出てきて、人格が変わったってことはないのか? 俺はお前たちにどんな迷惑かけたんだ? なんか聞くに聞けなくてさ。教えてくれるか、一平」

『残念ながら二重人格とかではないと思うぞ。あの後、お前は殿様みたいな話し方になってな、料理をまったくしなくなった』

「殿様?」


 笑いを堪えているように震えている一平の声に自然に眉間に力が入る。


『ああ、「腹が減ったぞ、飯を持って参れ」みたいな感じ』


 なんだよ、それ。思ってたより、ショボくて残念じゃねぇか。


『で、優が面白がって「咲様こちらに御膳をご用意いたしました」とか言ったらさ、「大儀じゃー」とか返事するんだよ。何でいきなり殿様ゴッコが始まったのかと思ったぞ。で、全く料理をしなくなったから、皆でおかしいなって話をしてたんだけどさ、渡瀬さんがお前が寝不足で来たって情報をくれて、まあ疲れてたんだろうなって』

「そんなことで納得したのかよ」

『まあ、まさか咲があんなことになってるとは思わなかったから、変だとは思ったけどさ。で、俺が優にあげたサコッシュをお前が欲しがって、むりやり奪おうとしたりさ、優に封印の巫女だとかなんとか叫んでた』

「封印の巫女って、ラノベかよ」

『それな、俺も同じこと思った』

「……池田さん、ケガは無かったか? その、むりやりサコッシュを奪おうとしたんだろ、俺」

『ああー、大丈夫だ。俺が守ったし』

「本当にすまない」

『気にすんな。あの時のあれはお前じゃなかったんだから。で、俺、その時に優たちにあの神社のばあさんに忠告受けてたこととか聞いて、あー祠あったわとは思ったんだけど、咲が手を合わせてたことは知らなくてさ。鏡を奪おうとお前が……じゃなくて、咲の身体に乗り移った化け物が俺に掴みかかってきて、俺の身体も奪おうとしてきてさ、そんな時に渡瀬さんが呪文を唱えてって紙を広げてめっちゃ恥ずかしい呪文言わされた』

「本当にすまん」

『まあ、大丈夫だ。で、それは結局封印の呪文じゃなくて、なんか訳の分からない坊さんを召喚……? する呪文でさ。いや、話しながらもまだあの時の光景を理解できてないんだけどさ』

「おう、まあ、その辺は美晴と池田さんにもざっくりとは聞いているんだ。二人が『別に迷惑ってほどのことはかけられていない』と言葉を濁すから、どんな迷惑かけていたかのか聞きたかっただけで」

『おう、そうか。まあ、あの光景が集団催眠でもないなら、化け物はいたってことになるんだろうし、咲が二重人格ってことは否定できると思うぞ』

「そうか」

『で、俺が背負って管理棟までお前を運んだ』

「一平に迷惑かけてばかりじゃねぇか! なんか今度埋め合わせするよ」


 俺がそう叫ぶと、電話の向こうで一平がゲラゲラ笑ってた。本当にイヤミがなくて気持ちのいい男だよ、まったく。


『んじゃさ、お前んちの食堂で旨い定食おごって』

「ああ、もちろんだ。次は二人で自転車で旅しねぇ? テントとシュラフ積んでさ」

『面白そうだな。もう道端で変な祠見つけても手を合わせんなよ』

「分かってるって。で、結局あの銀鏡島のアドベンチャーリゾートどうなるか聞いてるか?」

『家族の話では、もうちょっと島の調査をしてから開業するってさ。食材は持ち込みの希望を聞いて対応するけど、ドッキリは無しでってことになったらしい』

「まあ、終わってしまえば面白かったけど、心臓に悪いからな」


 おっと、気づいたら美晴からおやすみメッセージが入っていた。三十分前か……もう寝たかな。いつのまにか二十二時五十分になっていた。珍しく長電話をしたな。


『すまん、優からメッセージ来てた。ちょっと電話してくる。またな!』


 どうやら一平の方にも池田さんからメッセージが来ていたらしい。


「おう、またな」

「無人島バケーション!」はこれにて本編完結です。

この後番外編を3話掲載して連載完結となります。

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