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ねこまんまdeハーミット〜共同戦線はトラブルばかり!  作者: 紅葉・ひろたひかる
文化祭狂想曲
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文化祭狂想曲~おいしい料理のつくりかた編・2

 そうしている間に校内の人出が増えてきたようだった。


「とりあえず買い出しに行った人と、保健室に行った人の担当を手伝えばまわりそうですか?」


 腕まくりをした咲君が尋ねる。フランクフルトを焼いていた女の子は二年生で料理部の部長だったようで、ホッとした顔をみせた。


「ひとまずそうしてくれると助かります。先生と藤田さんが帰ってきたら…… あ、急いでキャベツの千切りを大量にしなくちゃ」


 それがあった、と部長さんが額に手の甲を当てた。


「大丈夫ですよ、先生が戻ってきたらキャベツの千切りは僕たちに任せてください、な、美晴」

「う…… がんばる」


 キラキラ笑顔の咲君に、それ以外になんと答えられようか。

 焼きそばを焼く優さんの隣で咲君はお好み焼きを焼き、私は藤田さんの代わりに売り子をすることになった。


「根津まり子です。よろしくお願いします」


 一緒に売り子をする女の子は一年生だったみたい。私の方がひとつ年上のはずなんだけど、身長は負けていた。ま、それはいいとして。包装の仕方や、値段などを確認し

 ていく。


「美晴! ブタいち、イカいちあがり!」


 フードパックに入ったお好み焼きを咲君から受け取り、トッピングの希望を聞いて輪ゴムをかけて割りばしを付ける。


「蘇芳さん、お待たせしました」


 キラキラ人間離れな美貌にブタ玉って、ちょっとミスマッチかも。どこかの御曹司っぽいのに味覚は意外に庶民派なのね。蘇芳さんはしっかりお代金を払い、激励をして夏世さんと共に屋台を離れていった。

 蘇芳さん達がいなくなったのを皮切りに、次々と注文が入る。夢中でまり子ちゃんと次々と注文を捌いていく。気付けば、いつのまにか咲君がいる鉄板の前に昴学院の女の子達が群がっては話し掛けていた。むぅ。昴学院の生徒じゃないから珍しいのかな。

 きっとそう。


「玉野さんて美晴さんの彼氏なんですか?」


 こそっとまり子ちゃんが聞いてきた。


「えっ、ううん。違うけど」

「あ、そうなんですね。なんか息が合っているし、なんていうか夫婦感出てましたよ、玉野さんと美晴さん」

「夫婦感…… そ、そうかな」

「でも心配ですよね」


 料理中の咲君は二倍増しにカッコいいからね。と、真剣な顔でコテを操る咲君に視線を向ける。


「美晴さん、お客さんです!」

「はっ、お待たせしましたー」


 さっきから運動部って感じの男の子達が、焼きそばやお好み焼き、フランクフルトを大量に注文してくれる。食欲がすごいね、高木先生が戻ってくるまで材料もつのかな。


「さっきから美晴さん目当てっぽい男子ばかり接客してる美晴さんを、玉野さんも不満そうに見てるんですけどね。これで付き合ってないのかー」


 というまり子ちゃんの呟きは耳に入っていなかった。


「なんだか遅くない? 高木先生と南美」


 突然、優さんが顔を引きつらせて言いだした。私は夢中で売り子をしていたから気付かなかったけれど、確かに少し時間がかかっている気もする。材料の減り具合を気にしながら調理している優さんならなおさら不安に感じるだろう。

 咲君はパーカーを脱いで、いつの間にか黒いTシャツで鉄板の前に立っていた。優さんの不安が伝播しているこんなときに不謹慎かもだけど、二の腕の筋肉がカッコいい。


「ヤッホーマートって遠いの?」

「ここからだと片道徒歩四十分ってところかな。車で行ってるからもう戻って来ててもいいと思うんだけど」


 部長さんが心配そうにキャベツのストックを見て言う。ザルに盛り上げたキャベツは、残り一山。しかももう三分の一は減っている。予想以上にお好み焼きも焼きそばも売れている。本当なら嬉しいけど、今はヒヤヒヤしながらのキャベツゼロへのカウントダウンをしている気分だ。


「どうします? 玉野さん」


 と、優さんが咲君に意見を求めた。


「うーん、キャベツを使わずに別メニューを作るなら、オムそばか、焼きそばのラップサンドかな。でもそしたらキャベツが戻って来たときに材料のバランスがなぁ」

「キャベツが戻ってきたときに、小麦粉がなくなってたら、とんぺい焼きっていうのもアリかも」


 と、私。


「どれも美味しそう!」


 部長さんが手を叩いた。


「そしたら次に卵が足りなくなるだろ」

「まったく、南美を連れ回して何してるのかしら」

「まあまあ優、キャベツが売り切れてて遠くのエオンまで行ってるのかもしれないし」

「わざとじゃないわよねぇ」

「おや、心外だなぁ」


 みんなで話し合っていたら、背後で愉快そうな高木先生の声がした。

 大玉のキャベツが入った袋を両手に提げている。斜め後ろに立つ南美さんは両手でキャベツが入った袋を抱えていた。


「高木先生! 間に合わないかと思った!」

「南美おかえり! 高木先生に変なことされなかった?」

「こらこら、人聞き悪いこと言わないでくれないか池田さん。さすがにTPOはわきまえているよ」


 微妙に不穏な言葉が混じっていたように聞こえたのは気のせい?


「少し多めに買ってきたよ。蘇芳から予想以上に売れているって連絡が入ったからね。

 卵もお好み焼き粉もソバも追加で少し買ってきた。それから保健室からも連絡が来て、鈴村さんは病院に行かせたよ。玉野と渡瀬さんが手伝ってくれてたのも蘇芳から報告されている。せっかく文化祭に来てもらったのに悪かったな。とても助かった。ありがとう」

「いえ、そんな」

「何をおごってもらうか考えときます」


 と、咲君がおどけて返事をすると、高木先生は「腹がちぎれるくらいおごってやる」と笑って頷いた。


「それじゃ、玉野君と渡瀬さんはキャベツの千切りをしてもらって、お好み焼きはどうしよう」

「俺がやろうか」

「先生が? 先生、料理できたんですか?」


 スーツの上着を脱いで、ワイシャツ姿になった高木先生は、腕まくりをし、ネクタイの裾をワイシャツのポケットに入れた。それから高そうな腕時計を外してスラックスのポケットに入れる。やる気まんまんの先生の姿に優さんたち料理部の皆さんは驚いているようだ。


「任せてくれ」

「これから注文が混むだろうから、先にいくつか焼いときました。ブタが乗ってるのがブタ玉、青のりが付いてる方がイカ玉です」


 大きな鉄板の半分にずらりと焼き上げたお好み焼きが並んでいる。空いたところで次のお好み焼きを焼いてストックしておくらしい。確かにお好み焼きは焼くのに時間がかかるから、これから来るお昼時にはこれくらいのストックは必要だと思う。自分たちの文化祭でも焼き上がる枚数より注文が入る方が多くてさばくのが大変だったからね。

 咲君が高木先生に説明をしているうちに、調理室に包丁とまな板やボウルなどを取りに行ってくれていたまり子ちゃんが帰ってきた。

 さっと外側を洗い、キャベツを半分に切る。それから上下に切り分け、中の葉を半分の厚みになるように分けた。トトトトッと軽快なリズムでキャベツを刻み、あっという間にキャベツは半分が千切りに。私はというと、特訓の成果もあって、咲君ほどではないにしても、必死に刻んでいく。


「ほら、左手」

「あっ、猫の手」


 どんどん千切りをしながら周りも見えているのか。咲君の注意に、さっと指を引っ込めた。


「それから、もうちょい細く切れるか? ほら、こんなふうに」


 と、咲君が後ろに立ち、両手に手を添える。包丁を一緒に持ち、猫の手の左手を重ねてキャベツを押さえる。


「ひぇ!」


 咲君の不意打ちの行動に、思わず変な声が出た。

 うろたえているうちに、両手は操られて、まな板の上には千切りが山になる。

 いつまで続くの、この体勢。もーダメ。心臓がバクバクうるさいよ。


「と、こんなもんかな。分かった?」

「ひ、ひゃい」

「ん、じゃ、がんばれ」


 咲君はさっさと自分の持ち場に戻り、再び鮮やかにキャベツを刻み始めた。

 刻んだキャベツはザルにいれ、ボウルを重ねて水で洗う。時間がないので、小分けにサラダスピナーで水を切る。戻ってきたら咲君の隣には千切りされたキャベツが山のよう。うーん、私、千切り要員に要らなかったかも。

 咲君が刻んだキャベツをザルに入れては、教えてもらった水場でキャベツを洗う。水切りしたキャベツを高木先生の所に運ぶを繰り返した。

 高木先生はというと、先生が店番をしているのが珍しいのか、昴学院の生徒が鉄板の前に群がっていた。男の子もいるけど、圧倒的に女の子が多い。


「高木先生、なんで手伝ってるのー?」

「お好み焼き買うから今度デートしよーよ」


 なんて冗談交じりの声がかかっている。保護者のマダムからも声をかけられ、なかなか対応に忙しそう。

 料理部の屋台は好評でお客様が途切れず、フランクフルトの焼き係を交代したり、売り子を交代したりしながら、私達は結局「これで昴学院文化祭を終了します」という放送が流れるまでお手伝いを続けた。


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