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ねこまんまdeハーミット〜共同戦線はトラブルばかり!  作者: 紅葉・ひろたひかる
すれちがいレクタングル
20/47

夜は明けて、もう合宿最終日(美晴視点)

美晴視点のお話です。執筆は紅葉です。

 合宿三日目の午前中、私と優ちゃんと麻生さんは最寄りの警察署に来ていた。昨夜の強盗を捕まえた件の事情聴取のためだ。高木先生は管理人さんに車を借りて、私たちを連れてきてくれた。


「昼めしを食べそこねてしまったな、どこかに寄っていくか?」


 と、エンジンをかけながら高木先生が言う。車のデジタル時計は午後一時になっていた。確かにお腹は空いているけれども、お財布の中には小銭しか入っていない。食べていく流れになったら困るなと考えていたら、優ちゃんも同じだったようだ。


「先生、私そこまでお財布の中にお金入ってないです」

「高木先生のおごりですか?」

「バカ言え、麻生。仕方がない、何か残っていることを期待して帰るか」

「あっ、ちょっと待って先生。俺、本当は空手部の奴らとバスで帰る予定だったんですけど、帰りはどうしたらいいですか? それと俺の昼めし調達したいんで、コンビニに寄って欲しいです」

「一平さん、私のおせち分けてあげるよ?」

「ありがとう、優。俺も優が作ったおせちを食いたいけど、そしたら優の分が少なくなっちゃうだろ? あ、でもちょっとだけ味見させてくれな」


 後部座席に並んで座る優ちゃんと麻生さんは昨夜、しっかり仲直りができたみたい。今


 もとても仲良くぴったりと肩をくっつけている。


「昨夜、森下先生と話し合って、麻生は料理部と一緒のバスで帰ることになっているから大丈夫だ」

「良かったー。ありがとうございます」

「一平さんと一緒のバスで帰れるの嬉しい」


 微笑み合いながら恋人繋ぎをしている二人の姿は、少しあてられちゃうよね。




 それからコンビニに寄ったあと、私たちは合宿所に戻った。麻生さんは、本当に一人分なのかなという量のお昼ご飯を買っていたのだけれど、それを食べた上で優ちゃんにもおせちを分けてもらって食べるのだろうか。

 合宿所に入ると、食堂から賑やかな話し合いの声が聞こえた。


「ただいま」


 声をかけながら食堂に入ると、皆が笑顔で迎えてくれた。咲君と目が合う。みんなの前には一人分ずつおせちを盛り付けたお皿があった。どうやら食べながらのディスカッションをしていたようだ。しのぶさんが席を勧めながら言う。


「先生はこちらにどうぞ。美晴ちゃんは玉野君の横ね。優ちゃんと麻生君はこっちでいい? みんなの分も取り分けてあるよ。もちろん麻生君のもあるよ」

「わぁー、しのぶ先輩ありがとうございます。お腹ぺっこぺこ。私も運びます」

「私も運びますね。ありがとうございます」


 優ちゃんとしのぶさんと一緒にキッチンに向かう。私たちのお昼ご飯は、しっかり冷蔵庫の中で保管をしてくれていたようだ。

 大きめの四角いお皿に、色々なお料理が一口ずつ乗っている。ピンクのかまぼこは、真ん中の切れ目にツナマヨが詰めてあり、上にイクラが三粒トッピングされていて可愛い。斜めにカットされたアスパラガスは三本セットで生ハムで包まれて三つ葉の茎で結ばれていて門松みたいだ。聖護院カブのお漬け物はスモークサーモンと重ねて畳まれており、細い昆布で結ばれている。薄切りのカブから、うっすらとサーモンのオレンジが透けて見えてきれいだ。他に牡蠣のベーコン巻き、柚子をくりぬいた中に牡蠣グラタンが入ったもの。干し柿にクリームチーズを詰めたもの、私たちが作った合鴨のスモークもあった。五色の小さなアラレがくっついた丸いお団子が二つ串に刺さっていて可愛い。これは何だろう。


「それは江波班のエビしんじょうを揚げたものだ。美味かった」


 咲君が隣でお料理をひとつずつ教えてくれる。残念だけど見ることができなかった完成したおせちのお重は、写真に撮ってすでに食堂に持ち込まれたホワイトボードに貼られていた。どれもきれいに詰められていて、どこかで買ってきたと言っても信じてしまいそうな出来映えだ。

 エビしんじょうを一口食べてみると、カリカリした衣の中に、ふわっとした食感のえびの旨味の強いお団子が隠れていた。二つの食感が楽しく美味しい。


「優が作ったやつが一番美味しい」


 そう言いながら、麻生君がおせち料理をパクパクと食べていた。隣で優ちゃんが恥ずかしそうにしているのが見える。私と咲君は苦笑しながら肩をすくめあった。雨降って地固まるって言うけど、本当だね。

 グループディスカッションは白熱した。伝統的なおせち料理のレシピや、おせちに使われる食材の験担ぎの意味、今回のレシピで難しかったところや、美味しいと思った料理などをグループ内でまとめて全体で話し合ったり発表したり。普段作って食べて終わりな部活内容が多いから、今回すごく研究してるって感じがするね。

 みんなで食器や食堂を片付けたあとは、退所前のお礼清掃だ。レンタルしてもらったシーツを集めたり、トイレを清掃したり。もちろんメイン活動の場だったキッチンは念入りにお掃除した。空手部の人たちはお昼になる前に退所していったので、午前中のうちに武道場の他に男子用のお風呂も掃除していってくれたのだそうだ。だけど、女子用のお風呂は掃除しなくちゃね。麻生さんは高木先生に直接、男子トイレの清掃と食堂の床掃除を頼まれていたみたい。みんなで分担するとこちらもあっという間だ。

 最後まで冷蔵庫に入れさせてもらっていた全員分のお弁当箱に詰めたお土産のおせち料理を、食堂のテーブルに出して冷蔵庫の中も拭きあげる。お弁当箱を各自鞄に入れたら、みんなで管理人さんに合宿中お世話になったお礼の挨拶をした。合宿所を出ると、玄関前には昴学院の送迎バスがもうスタンバイしていた。



 二つの高校の料理部の交流を深めるという目的は大成功だったようで、帰りのバスの中は、まるでこれまで一緒に活動してきたひとつの部のようだった。


「みんな乗ったかー」


 私のうしろからバスに乗り込んできた咲君がみんなに声をかける。しのぶさんが座席から立ち上がって、バスの中の人数を数えてオッケーを出した。

 バスの後ろにまり子ちゃんたちの姿を見つけて行こうとしたら、途中で二つ空いた席の横で咲君に腕を引かれた。


「美晴、一緒に座らないか」


 懇願するような目で言われて顔が熱くなる。いいけど、みんなが見てるから少し恥ずかしい。ほら、そっちに行くと思って待ってくれていたまり子ちゃんが、急にニヤニヤし始めちゃったよ! 一日目の夜の女子会で咲君と付き合い始めたことを言っちゃったから余計にね。

 熱い頬を押さえながら、咲君のエスコートで奥の窓際の席に座る。


「し、失礼します」

「はい、どうぞ」


 ううっ、何を話そうか。


「合宿お疲れさま」

「咲君もお疲れさま」


 微笑みあった後、咲君がしみじみとしたため息をついた。


「マジで美晴が無事で良かった」

「うん」


 本当に生きた心地しなかったからね。私を庇って優ちゃんが犯人さんに捕まった時は、怖くて、頭の中が真っ白になって、動けなかったし声も出せなかった。

 そんな気持ちを察したみたいに咲君の指が私の指に絡まる。ぎゅっと繋いだ手から伝わる体温が気持ちいい。安心する。こてんと咲君の肩に頭をもたれさせた。咲君は手を繋いだまま、人差し指や親指で撫でたり、手を持ち上げたりして遊んでいたのでされるがままにしていた。

 そういえば、合宿の準備でバタバタしていてそれどころじゃなかったけど、私、つい五日前に咲君とキスしたんだ。触れるだけのキスだったけれど。つい咲君の唇を見つめてしまう。男の子の唇も柔らかかったんだよね。当たり前なんだけど。もう一回キスしてみたいなぁ。でも、そんなこと言えないし、自分からもできないよ。そんなことしたら恥ずか死ぬ。っていうか、こんなこと考えている時点で私、どうにかしちゃってるよね。


「美晴」


 名前を呼ばれてハッとした。頭を上げると、少し覆い被さるように身を乗り出した咲君がいた。顔が近い。繋いだ手が持ち上げられ、座席の背もたれに押し付けられる。私を囲うように窓ガラスにも手をついた。そのまま無言で唇が重なる。しばらくして離れていくそれを名残惜しげに目で追ってしまう。ねぇ、でも、ここはバスの中だよ、みんなに見られちゃうよ咲君!


「誰も見てねーよ」


 耳許で囁く声に、咲君の匂いに、ドキドキが治まらなかった。




 バスは一時間半ほどで英稜高校に着いた。


「いろいろあったけど、合宿楽しかったね。玉野君、美晴ちゃんありがとう」

「しのぶさんもお疲れさまでした」

「また、何か一緒にやりたいね」

「そうだな」

「素晴らしいおせち料理の研究レポートができたんだもの。どこかに発表したい!」

「どこで発表するんだよ」

「ふふふ……農林水産省が後援していて、食品関連企業がスポンサーについてる高校生お料理甲子園っていうのがあるのさ」

「お料理甲子園」

「そう! 高校生といえば、甲子園! 甲子園に行きたいか──!!」


 なにやらハイテンションなしのぶさんがいきなり叫んだ。楽しかった合宿の余韻が残っていて、思わずその場にいたみんなで「おー」と拳を挙げたら、咲君から冷静なつっこみが入った。


「それ、大陸横断ウルトラクイズのノリだから」


 笑い声が上がる。本当にいい雰囲気だ。

 握手を交わし、昴学院のみんなは再びバスに乗って昴学院に帰っていった。

 ハプニングは色々あったけれど、本当にまた一緒に活動できたらいいな。

 そう思える三日間だった。

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