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ねこまんまdeハーミット〜共同戦線はトラブルばかり!  作者: 紅葉・ひろたひかる
すれちがいレクタングル
13/47

確かについていきたいと思ったんだけど(一平視点)

一平視点、執筆はひろたひかるです。

「合宿?」


 学校からの帰り道。つるべ落としの日は暮れて、空には大きな星がひとつ輝いている。

 商店街を彼女の優と歩きながら、俺こと麻生一平は聞き返した。

 季節はもう冬に差し掛かり、とてもじゃないけど合宿なんてやるシーズンじゃない。そもそも料理部が合宿って、どうして。頭の中に浮かんだのは料理部顧問の高木先生。こっそり女子生徒、それも料理部の一年、藤田南美と交際しているんだから、ひょっとして二人で行けるから合宿を考えたんじゃ――


「あのね、文化祭に来てた玉野さんと美晴さん、覚えてる?」

「あ、ああ。よく覚えてるよ」

「あの二人とうちの部のしのぶ先輩がね、あの後やり取りして合同合宿をすることにしたらしいの」

「そうなんだ」


 なんだ、高木先生発案じゃなかったのか。こっそり胸をなでおろした。


「玉野君たちか。いい奴らだったよな。あっちは何人?」

「ええとね、最大で十一人って言ってたかな。全員来られるかどうかはわからないけど」

「そんなにいるんだ。いつから?」

「冬休みに入ってすぐ。十二月二十六日から二泊三日だよ。ほら、学校の合宿所があるでしょ、あそこを借りられたの」

「スポーツ系のクラブが合宿するあそこか」


 確かにあそこなら大きなキッチンがあった筈だ。今はスポーツもオフシーズンで空いていたのだろう。


「うん。それでね、みんなでおせちにチャレンジするの。日持ちするから一平さんにも持っていくね」

「楽しみにしてるよ」


 優は真面目に料理が上手い。今から楽しみだ。俺の返事に優はにっこり笑った。やばい、可愛い。

 赤くなっているだろう自分の顔をごまかすために俺は必死で話題を探す。


「あ、あー、それじゃあ合宿所は女の子ばっかりだな。あ、玉野君と高木先生はいるか」

「そんなことないよ。あのね、玉野さんたちの英稜高校の料理倶楽部はね、男子率高いんだって」

「え?」

「今回来るメンバーも、玉野さん含めて半分くらいは男子らしいよ。すごいよねえ」


 今、とんでもないことを聞いた気がするんだけど?

 俺の優が他の男子生徒と、ひとつ屋根の下――


「優! 俺も一緒に」

「やぁだ一平さんったら。無理だよ、部活なんだから」


 けらけら笑ってるけど、優、俺真剣なんだけど。むくむくと湧き上がる不安と嫉妬心を捌ききれない。


「あ、じゃあ私ここで。また明日ね、一平さん」


 どうしていいかわからないうちに優は手を振って行ってしまった。


 どうしよう。

 マジで、どうしよう。




「合宿! 合宿行きましょう森下先生! 寒稽古です! 年末の稽古納めです!」


 翌日の稽古で俺は空手部顧問の森下先生に噛みついた。言うだけ言ってみるならタダだ、と思ったのだ。だからまあ本気と冗談半々くらいの気持ちで日程から場所から細かく提案した。

 森下先生は小柄だがいかつく、初見ではビビる生徒が多いが、話してみると面倒見のいい先生だとわかる。だから俺も好きだし部員たちからも慕われているのだ。

 森下先生は目を丸く見開いた。ちょい怖い。やば、怒らせたか?


「いいな! それ」


 しかし森下先生はとんでもなくノリノリだった。そういうの好きそうだもんな、森セン。

 そこからはあれよあれよという間に合宿が決まってしまった。もちろん他の空手部員にめっちゃ睨まれた。


「麻生おおおお! 何てことしてくれたんだ!」

「寒稽古なんて地獄の中に地獄しかないじゃないかあああ!」

「そもそも何だ、その直近の日程! 合宿費どうすんだ!」


 空手着の襟首を捻り上げられる。苦しい。


「ま、まあまあ、今回な、料理部と一緒だから」

「―― なに?」

「だから、料理部も合宿所で一緒に合宿する予定なんだって。何か差し入れとかもらえる

 かもしれないぞ」

「おまえ、それでか」


 当然優とつきあっていることは周知の事実(そりゃそうだ、しょっちゅう抜け出して試食食べに行ってるからな)なので、俺がこんなことを言い出した理由はすぐに察せられてしまう。火に油が注がれてしまったようでますます険悪な空気に。俺は慌てて話をそらす。


「それにな、文化祭に来てた渡瀬さん、覚えてるか? 彼女たちとの合同合宿らしくて」

「渡瀬さん! あの天使が!」

「おまけに合同合宿ってことは、渡瀬さんの学校の料理部がわんさか来るってことだよな」

「ひょっとしてこれは麻生に感謝するべきなんじゃないか」

「料理部の飯、旨いしな」


 ちょっと風向きを変えることに成功したようだ。


 空手部のみんなににらまれたり感謝されたりしながらも合宿の準備は進んでいく。

 そうして期末テストが終わりもう試験休みに入る頃になった。だが俺にはひとつ疑問がある。


  ―― 優、全然あれ以来合宿の話に触れてこないなあ?


 森下先生が「料理部には俺から話を通しとく」って言っていたから、高木先生から伝わっていると思うんだけど。試験で会えなかった日もメッセージアプリでやり取りしていたけれど、優はいつもの調子で毎日何があったかを話すくらい。かといって俺から合宿の話を振るのはちょっとためらわれる。だって怒らせる気がするからなあ…… ならやるなよって話だけど、でもな、まさか森センが本気で実行すると思わなかったんだよなあ…… 。


 試験休みでやっと会えたので、覚悟を決めて直接優に話してみよう、という気持ちになった。優は知っているけど別に怒っていないのか、あるいは全く知らないのか―― うわ、怖っ。後者だったらめちゃくちゃ怖い。

 ランチに入ったパスタ屋で食後にコーヒーを飲みながら俺は恐る恐る切り出した。


「あ、あのさ優、合宿―― のことだけど」

「合宿? 私が明日から行く合宿のことだよね。あれ? 空手部も合宿あるの?」


 うわああああああ。悪い予感が当たった!


「いやその」

「どうかした?」

「俺達も合宿やるんだけど」

「うん。いつ?」

「料理部と…… 同じ日程で…… 」


 ううう、耐え切れない。


「その、高木先生から何も聞いてない?」


 俺はおとなしくすべてを白状した。話していくうち、にこにこ俺を見ていた優の目がどんどん怖くなってくる。


「ということなんだけど―― 」


 優はそれに返事をせず、スマホを出しておもむろに電話をかけ始めた。


「あ、しのぶ先輩、すみませんお休みの日に」


 どうやら相手は料理部部長の薬師寺しのぶのようだ。優が耳に当てているスマホから「ええっ! 初耳だよ!」と声が漏れ聞こえてくる。こりゃあ森下先生、高木先生に伝え忘れてるんんじゃ―― 優が通話を終え、スマホをテーブルの上に置いた。


「今、しのぶ先輩から高木先生に確認してもらってる」

「―― やっぱり話が来てなかった?」

「うん」


 そこで会話が止まる。ああ、いたたまれない。少しして口を開いたのは優の方だ。


「一平さんは知ってたんだよね? 教えてくれればよかったのに」

「その、まさか聞いてないと思わなくて…… 半ば冗談とはいえ俺が言い出した話だから何となく言いづらくて」

「今回は合同合宿なんだよ? うちの料理部だけじゃなくて美晴さんたちも来るのに。もう、何でそんなごり押ししたの」

「その―― 」


 そこへ優のスマホが着信を告げる。画面には「しのぶ先輩」の文字。


「はい、池田です―― はい、はい、えええ!」


 驚きの声の後少し話して電話を切る優。笑顔の消えた彼女の表情に、俺の背中は自然と縮こまってしまう。


「高木先生に電話したら驚いてすぐ森下先生に確認してくれたんだって」

「はい」

「そしたら森下先生が『ありゃ、連絡忘れてた』って」

「森セン…… 」

「でね、私達がキッチンを使うでしょ? そうしたら空手部の人たちは使えないじゃない。おまけにこんな年末だから調理師の手配もつかなかったらしくて」


 私立の学校の合宿所だ。ふだんはちゃんと調理師も常駐している。が、今回は手配がつかなかった、と。年末だもんな。なるほど。それじゃ俺達空手部はどこかに食べに行くか、買いに行くか。まあいずれにしろ料理できる奴は空手部にいないからキッチンが空いてても無理だよな、と考えていたらぼそっと優が言った。


「森下先生から『材料費少し多めに負担するから、空手部のぶんも食事を作ってくれないか』と言われたそうです」


 ひゅ、と背筋が冷えた。優さん、なぜ敬語。怖いからやめてください。


「―― 」

「しのぶ先輩は『大人数の調理の練習になるから』ってオッケー出したそうです」

「―― 」


 なんでそんなことになったんだっけな? はい、俺が言い出したせいです。だらだらと冷や汗をかいていると、優がコートとバッグを持って席から立ち上がった。


「ゆ、優、あの」

「ごめんね、先輩といろいろ相談することになったから帰るね」

「は、はい」


 優はさっさと店を出て行ってしまい、後に残された俺はただただ呆然とするばかりだっ

 た。

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