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*この投稿はフィクションです。
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まだ、待ち合わせの時間には、三十分以上早かった。
スマートフォンの時計を確認しながら、中薗大地はどう、時間を潰そうか考えた。
初対面の外園小百合との、意外と盛り上がった会話と、外の暑さで、喉が乾いたので、ソレイユタウン内のスーパーに向かった。
自動販売機もあったけれど、ペットボトルの飲みたいものが、そのスーパーに売っているのは、再三の買い物時に知っていたし、何分かあとには来る、立花真知子の分も買っておこうと、思ったのだ。
スマートフォンをボディーバッグにしまうと、自動ドアが開くその中に足を踏み入れた。ひんやりとした、冷気が中薗大地を包み込んだ。Tシャツ一枚では、寒いくらいだった。
冷凍食品売り場は特に寒いので、避けて通った。朝から、買い物客が多い日だ。店内では、
「今日は、ポイント三倍デー!」と、軽快な音楽と共に、何度も繰り返していた。
チノパンの後ろのポケットから、長財布を取ってレジで、二本のペットボトルと、ガムの代金を、払う。
出入り口を出たときだった。
「ちょっとキミ。それ、まだ、未払いの商品があるよね?」
振り返ると、スーパーのハッピを着た、二十代の男性が、足早に近寄ってきた。
何のことか分からずに、それでも、手にもったスーパーの袋を、持ち上げて、これの事かと、アピールする。
「その背中のバッグ。見せてもらえますか?」店員は、敬語と威圧とを使い分けながら、近づくと、背中に回した、ボディーバッグを指差す。
前に回すと、少し開いた、ファスナーの隙間に、少しだけ顔を出した、長細い箱が見えた。
S&B生わさびと、書かれたそれは、中薗大地の知らぬものだった。
「ちょっと、こちらまできてもらえるかな?」
「えっ、いや、これ知らないですよ」
「うん、みんな、そういうんだよね。とにかく、来てよ」店員の声のトーンが上がったのがわかった。
立花真知子は、ソレイユタウンの、広い駐車場を挟んだ、スーパーの真向かいの、ファミリーレストランの前にいた。
普段なら、たくさんの車の影に隠れて、遥か先の、スーパーの出入り口なんて見ることはなかったが、その日は、中薗大地をこちらから先に見つけて、駆けつけながら挨拶するんだと、密かに企んでいたので、キョロキョロしていた。
息を切らして、「待った?ごめんね。おはよう、あっ、こんにちは、か。あははっ」と、台詞の練習も怠りない。
スマートフォンに、連絡がないか確かめて、目をあげると、車の間から、二人の男が言い合ってるのが見えた。
「大地、じゃね?」思うまもなく、足はそちらに向かって、徐々に速度をあげていた。
外園小百合と中薗美海も、昼の買い物をしに、スーパーに向かっていた。家から歩いて、すぐのところだ。
「近いから便利だね」外園小百合が、言うと、
「うん。便利便利」と、外園小百合と、繋いだ手を振りながら、中薗美海は、はしゃいでいた。
「あっ、魚屋のお姉ちゃん」中薗美海が、空いた左手で、スーパーの入り口に走ってきた、Tシャツに、半袖の薄いブルーのパーカーに、アイボリーのミニのキュロットスカートの、立花真知子を発見した。
「おーい、魚屋さんっ」中薗美海が、大声で呼び掛けると、気付いて、今度はこちらに走ってきた。
「なんか、今、大地が店の人と、言い合ってて、連れてかれたんですけど」
「マジ?」中薗美海が、外園小百合を見上げる。
「行ってみよ」三人は、店内に、入った。
つづく