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ママ、again  作者: 田中浩一
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*この投稿はフィクションです。


3


中薗大和(なかぞのやまと)は、自らのファイティングポーズを見せるため、子供達の前で、言いはなった。

「今度の日曜日に、今、お父さんが交際している、外園小百合(そとぞのさゆり)さんが、来る。よろしく」

まるで、初夏の晴れ渡る青空のような笑顔だった。

二人の兄妹は、みあっていたが、

「結婚するの?」と、中薗美海(なかぞのみゆ)が訊ねる。

結婚したら、今、お兄ちゃんと交代でしている、炊事洗濯、家事全般から、お兄ちゃんはわからないけれど、少なくとも、あたしは解放される。と、思った。

「それは、まだ、わからないけど」とたんに歯切れが悪くなる、中薗大和だった。

中薗大地は、違った。中学生になって、上の、大人な三年生を見るにつけ、考え方が、がらりと変わっていた。

妹と、なんとかかんとか、家のことはやれていたし、今更、自分達の生活リズムを崩すような人が現れても、困る。特に、自分の上に、もう一人、大人が増えるのが、ウザかった。

頭の中での決め台詞は、

「母さんは、一人なんだよ」だった。


七月の暑さは、中学二年生になった中薗大地のいる、教室にも容赦なく、熱気を伝えていた。

金曜日。明後日には、親父の新しい、「女」が、くるんだ。憂鬱きわまりなかった。

家に帰りたくなくて、一人、教室に、いた。

「どうしたの、中薗大地ぃ~、なんか、悩みでもあんのか~」立花真知子だった。

「関係ないよ」中薗大地は、にべもない。

「関係あるさ~、だって、あたし、クラス委員長だっしぃ」ずかっずかっと、寄ってきては、中薗大地の机の上に座る。

「お前なぁ」思わず椅子の背もたれに、のけ反る。

そういえば、立花真知子とは、気がつけば、同じクラスで、なぜか、いつでも、学級委員長だった。

中薗大地が、職員室に呼ばれるときには、となりに必ず、立花真知子委員長がいて、最低でも一言は、

「中薗大地は、深く反省してます」とか、「今この時点から、更生します」なんて、警察官かって、台詞をはいた。

いつだったか、立花真知子が冗談のように言ったことがある。

「どうしようもなく、悪いやつでも、救われる方法があるんだ。それは、そいつのことを、心から思うやつが、メッチャ強い権力を握ってること」。


教室で、女子と二人きりなんて、誰かに見られたら、恥ずかしくて、中薗大地は、机の影に隠れるように、床に座った。

すると、その横に立花真知子も、座った。

「帰んなくていいのかよ?」

「中薗大地が帰れば、帰るさ」

「変なやつだな」

「おたがいさまーウォーズ!なんちゃって」

「笑えね」

「聞く?」立花真知子が、差し出したのは、イヤーフォンのかたっぽ。

「委員長が、ウォークマンとか持ってきて、いいんですか?」笑いながら、その、かたっぽを、耳にさす。

優しい、男性の歌声が、流れていた。

「だれ?」

「オオザカレンヂkeisuke」

「知らない」

「あたしも、フェイスブックの友達から、知ったんだ。詞と、メロディが、好き」

「うん。なんか、いいね」


母がいなくなって、ずっと、頑張ってきた。やれることはやったんだ。いまさら、新しい母親なんて。

でも、お父さんだって、美海だって、きて欲しいと、望んでるみたいだし。

じゃあ、今までの俺の頑張りって、なんだったんだろ?

涙が、出た。

優しい歌声のせいなのか、やるせなさ過ぎて、疲れちゃったのかな。

それとも、立花真知子が、いつもそばにいてくれて、包んでくれるから?

中薗大地は、自分の涙を、拭ってくれる、暖かい手に気づいた。

目があったけれど、立花真知子は、何も言わなかった。


外側に、頭を傾げたら、揃ってしまった。

今度は内側に。

これも、揃って、駄目。

二人は思わず、クスッと笑って、それでも、諦めないで、中薗大地の人差し指が、立花真知子の、こめかみに、あてがわれ、彼だけが、頭を傾げた。

二人は、キスをした。

窓の外から差し込む夕陽に、二人がシルエットになるまで、ずっと、ずっと。


つづく

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