#1.囁……き?
「……それでご褒美、何が良いですか?」
殺風景な教室の中にある無機質な折りたたみ長机とパイプ椅子。これらで構成される質素な部室を与えられてるのが俺ら、写真部だ。その部に所属しているのは、高校2年の俺と俺の前で悔しそうな顔をしている彼女――高校1年の鈴木優香の二人だけ。
その彼女にちょっと待ってほしいと告げ、思考を張り巡らせる。
毎日の手入れの大変さが伝わってくるほどに輝く黒髪をなびかせる彼女はなぜこんな写真部に居るんだってくらい高いスペックを持っている。定期試験では当たり前のように学年1位を取り、スポーツテストでも全国平均を上回るという。それでいて毎日の努力は欠かさない。そういった背景からこのような高スペック女子になったのだろう。
そんな子がなぜこんなにも悔しがっているのか。それは、先日あった写真コンテストで優香が入賞。俺が大賞を取ったからだ。
俺と優香は以前、こんな約束を交わしていた。
『次のコンテストで勝った方は相手になんでも要求できる』
それで今俺は優香に何をしてもらおうか悩んでいる最中ってわけだ。
本当はもう決まってたんだが、今になって本当に良いのかと我に返ったというか……
「『耳元で囁いてほしい』なんて言えないよなぁ……」
俺は生粋のASMR信者だ。寝る時起きる時暇な時……いつもD○SiteやB○○THで購入したASMRを聞いている。耳かきや耳なめなど、数多いASMRの中で俺が気に入っているジャンルは『囁き』だ。
シンプルイズベスト。ASMRの最も有名なジャンルの一つであるこのジャンルは、まるでその子が自分のすぐ横で囁いてるかのように錯覚してしまい、一瞬で人をダメにしてしまう罪深いものだ。初めて聴いたときはいい意味で鳥肌が立った。
最初はただ単純に『囁き』だけのものを聴いていたのだが、最近のお気に入りはマッサージや膝枕されながらの囁き。王道ジャンル+人気ジャンル=? そう、神。
これがリアルで再現できれば……そんな思いつきで出たこの案だが、さすがに――
「さ、囁きですか……?」
え、まさか。
そんなこと……と誤魔化そうとするが時すでに遅し。
「先輩いつも声大きいんですよ……」
……終わった。俺の人生終わった。こんなの「うわ、先輩そんな趣味あったんですか……? ちょっと私そういう人……」って言われるパターンだよ……
「ま、まあ先輩がしてほしいなら? してあげなくも、ないですけど……」
しかし、俺の敏感に仕上がった耳に飛び込んできたのはあたかも信じられない彼女の返答だった。
準備しようと立ち上がる優香。
その背中に向かって無理に……と言おうとするが、「自分から言っておいて何言ってるんですか……」と聞く耳を持ってくれなかった。
まさかOKもらえるなんて思っていなかったが、まあこんな美少女から実際に囁いてもらうなんて、今はこの幸せをじっくりと噛みしめるとするか。
最後までお読みいただきありがとうございます!
第3作品目となる本作はタイトルの通りみなさんが後輩ヒロインに『囁いてもらう』というお話です。
最初の方に1度主人公のセリフを挟ませていただきましたが、これ以降はセリフはない予定です。
みなさんの癒やしに少しでも貢献できたならば幸いです。
今後のお話にもご期待ください!