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第8話 写真

 もしかして、このマスターなら本当にタブレットを見付けられるかも? 同時にそんな期待感が生まれたこともまた事実だった。なので私は襟をただし、率直に聞いてみた。


「ならばお聞きします。タブレットはどこに有るのかしら?」


「そんなの簡単だ。タブレットを持ち去った奴の所に有るに決まってる」


「ハァ?」


 全く、上げたり、下げたり......とにかくこの人と話してると疲れる。一瞬でもこんな人に期待を寄せた私がやっぱバカだったと思う。こんな所に居座っててもやっぱ時間の無駄......再びそんなジャッジを下した私は、無言で席を立つと財布から一万円札を取り出す。


 お釣りを貰う時間すら惜しかったから、「お釣りは要りません」そんな一言を発し、ブリーフケースと『Paul Smith』を手に持って見せた。すると、


「サーバーへ繋げる為のパスワード、ブリーフケースの暗証番号、そしてマドモアゼルのタブレットを立ち上げる為のパスワード、以上3つを全て知ってる、又はそれを知る為のヒントを持ってる奴がまず容疑者として上げられる。


 更にはその中でマドモアゼルのタブレットを持ち去る動機がある奴が犯人ってことになるだろう。一本づつ紐を解いていけば、必ず犯人が浮かび上がって来る訳だ。


 世の中で起こっている現実には、全てそれが起こった『理由』が存在する。その『理由』と言うヒントを逆算して考えていけば、解決出来ない問題などは存在しない。まぁ、信じる信じないはあなた次第......ってとこだがな。ハッ、ハッ、ハッ」


 きっとこの人は持論を述べた後に大笑いするのが癖なんだろう。多分、悪気は無いんだと思うけどね。


「あなたこそ今の仕事向いて無いんじゃないの? 探偵やられたらいかが? あら、お気に障られたらすみません。私も思ったことは何でも口にしてしまう質なもんで。腕利きのマスターさん」


 さっき言われたことをそのまま返してやった。その時、自分が微笑んでいたことも自覚してる。理由はどうあれ、この状況下において、脳にアドレナリンが分泌されたことは自分でも驚きだ。


「これは一本取られたな。ハッ、ハッ、ハッ。じゃあ、始めるとしよう。事件の紐解きをな。因みに俺には影山喜太郎かげやまきたろうって名前がある。ゲ○ゲの鬼太郎とは字が違うから間違わないように」


「なら私も桜木結衣さくらぎゆいって名前が有るもんで。マドモアゼルは止めてちょうだい。なんか歯が浮いた気がするもんで」


 一体これから何を始めようとしてるのか不明だったけど、そんな私のカウンターに対して、声高らかに笑っている。いずれにせよ、私のタブレットを見付け出すことに、よっぽどの自信が有るんだろう。


 人間の心理とは実に不思議なものだと、つくづく感じ入ってしまう。数十分前に出逢ったばかりで嫌みばっか言ってるこの喜太郎なるマスターに、いつの間にやら私は心を開き始めている。


 もしかしたらこの時点で既に、私はこの人の秘めたる魅力に引き寄せられていたのかも知れない。


 因みにもう一つ......自分のことばかり考えてて、全く気にして無かったけど、さっきから全く客が入って来ていない。と言うよりか入って来る気配すらない。


 大きなお世話かも知れないけど、この店は大丈夫かと少し心配になって来てしまうもう一人の私がそこ居た。でもまぁ、私の心配することじゃ無い。私はここで働いてる訳じゃ無いんだから......


 そんな余計な心配を他所に、喜太郎さん(一応年上だから『さん』を付けておくことにする)はカウンター越しに真剣な眼差しを私に向けている。私もそんな喜太郎さんをまともに正面から見てしまった。今日初めてかも。


 別にこの喜太郎さんに興味が有る訳じゃないけど、何か少し勿体無い気がしてならなかった。近くで見れば、堀が深くて中々のイケメンなんだけど、イマイチ不揃いな髪型、整理されてない不精ヒゲが、イケメンをイケメンに見せなくしてる。


 本来は純白であるべきワイシャツも、所々黄ばんでる。しかも近くで見れば、どこか疲れててパリパリ感が全く感じられなかった。もちろん大きなお世話だから、別に口にはしないけどね......


 そんな喜太郎さんのすぐ後ろには、小さな写真立てに若い女性の写真が飾られていた。遠目で見る限り中々の美人だ。奥さんなのか、彼女なのかは分からないけど、内助の功として旦那(彼氏)の手が行き届かない所こそフォローしてあげなきゃダメだと、またしても余計なお世話を考えてしまう私がそこに居たりもした。



  ※ ※ ※ ※ ※ ※



「それじゃあ紐解きを始めるぞ」


 そんな喜太郎さんの声掛けに、空想の世界から憂うべき現世へと私は舞い戻って来たのでした。


「お、お願いします!」


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