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第2話 Ristorante Venezia

『待ち人来たらず』......そんな状況で心が暖まる訳が無い。思い出したかのように、私は凍える手でポケットからスマホを取り出してみた。特に着信も無ければ、新しいLINEも届いていない。


 琢磨君は遅れる時、必ずその旨をLINEで知らせてくれる人......だから何も届いて無いって事は、もうすぐ来るって事なんだろう。今はただそう信じるしか無かった。


 彼の誕生日を祝うイタリアンレストランは多少の遅刻を見越して20時30分で予約しておいた。結果論になるけど、20時にしないで良かったと思う。


 私がスマホ画面から目を上げると、笑顔を浮かべたカップル達がちょうど目の前を通り過ぎて行ったりもする。そんな男女を恨めしそうな目で見ている自分に気付き、思わずハッとしてしまった。


 私なに劣等感を感じてるんだろう......琢磨君の遅刻は別に今に始まったことじゃ無いんだから、もう少し待ってれば『ごめん、ごめん』と手を振りながら、変わらぬ笑顔を見せてくれるに決まってる。大丈夫よ......心配しなくたって!


 ところが......そんな私の期待を他所に、いつまで経っても琢磨君は姿を見せてくれなかった。電話を掛けても出てくれないし、LINEを送っても既読にすらならない。そんなこと、今まで一度も無かったわ。


 寒い......とにかく寒かった。身体は冷え切って、指先の感覚が既に無くなりかけてる。でも本当に体温を失っていたのは身体じゃ無くて、その内に秘める心だったのかも知れない。


 琢磨君......どうしちゃったのよ? もしかして......私のこと、嫌いになっちゃったの? そんなマイナス思考が心を支配し始めると、ついつい目頭に熱いものが込み上げて来てしまう。


 でも絶対に泣きたくなかった。もしここで泣いちゃったら、本当に琢磨君が私の前から消えてしまうような気がしてならなかったから......


 そんな悪い予感と言うものは、得てして的中してしまうもの。気付けば、時刻は20時40分。もうここに来てから1時間も経過したことになる。あと20分もすれば、本日2回目のカラクリ時計の演舞が始まる時間だ。


 琢磨君......来てくれないの?


 そんなこと認めたくは無かった。でも、認めなきゃならないのかも知れない。もう帰ろうか? などと思いつつも、もし私が帰った後に琢磨君が来たらどうしよう......などと、私が判断を決めかねていたその時のこと。


 トゥルルル、トゥルルル......突如コートのポケットが揺れ始めたの。


 たっ、琢磨君?! 


 慌て過ぎてスマホを落としそうになる私。心臓がひっくり返る! なんて現象は、きっとこんな時に起こるものなのだろう。


 起死回生の一撃とばかりに、私はスマホのディスプレイに目を近付ける。ところが......それは期待するその人からの着信じゃ無かった。


『Ristorante Venezia』......予約しておいたイタリアンレストランからの電話だ。


 ハァ......レストランに連絡しとくの忘れてた。きっと予約の時間になっても現れないから、確認の電話をして来たんだろう。深い溜め息と共に、一度はフルカラーになった私の表情が、再びモノクロームへと戻っていく。


「はい......」


「今日はもう満席で、予約していないお客様も多数お越し頂いています。今来て頂けないと言う事でしたら、キャンセルと言う扱いにさせて頂きたいのですが......」


 正直なところ、この後琢磨君が来てくれるとは思えなかった。自分が待ち続けるのは勝手だけど、レストランに迷惑を掛ける訳にはいかない。


「すみません。キャンセルでお願い......え? あ? ちょ、ちょっと待って!」


 ブルブルブル......その時、今度は何と、LINEの着信が訪れたのである。


 たっ、琢磨君?!


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