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4.神子の願いは拒否できない(4)

結果は腰を抜かすどころか皆がひっくり返る勢いで驚いた。

冴の呼び声に応えるように現れたのは紛れもなく神。

形容しがたいその存在は、実際に見たことはなくても誰もが神だと理解した。

特にこの国の王たちは一際強い神気にあてられその場で気を失ったので、目を覚まさせるために冴が扇子で頬をバシバシ遠慮なく叩いて鬱憤を晴らしていた。

そして、目覚めた王たちを待っていたのは神からの叱責の嵐。

降臨に際して神は人の形をとっていた。その中性的で神秘的な顔を歪ませて王たちを詰る。


「神子を通して全てを見ていたよ。よくも私の顔に泥を塗るようなことができたね」

「っ⋅⋅⋅⋅⋅⋅」

「神子が望んだのは結婚だが、一時の結婚の事実があれば契約完了などと愚かな考えをする者がいるとは嘆かわしい」

「⋅⋅⋅⋅⋅⋅」

「私が神子選定にどれだけ苦労しているか分からないだろう?最近の神子候補は要望が複雑かつ多すぎるから叶えられるのかどうかを精査するのも大変だし、人1人忽然と消えると元の世界の者達が血眼になって捜索するんだ。今回だって634人目にしてやっと召喚の承諾をもらったというのに!断られた633人は私と会ったことを忘れるよう記憶操作もしないといけなくて大変なんだよ?人の精神弄るのは神力も結構必要でね。そうして召喚した神子の願いを踏みにじるとは⋅⋅⋅⋅⋅⋅」

「⋅⋅⋅⋅⋅⋅」


王たちは言い訳をしたいかも知れないが、それを見越した神に声を封じられておりただ聞くことしかできない。

途中からただの愚痴ではないかと思うような発言ばかりだが、それを制止する者はいなかった。


「まぁ、いつの時代も神子召喚の際は多少の問題は起こったけど、これほど酷いのは初めてだね。今までの神子、全部見ていたけどあいにく降臨できなかったから歯がゆい場面もあった」


その言葉にピクリと反応したのは冴たちの式に列席した他国の王族だ。何かやらかした自覚があるのか額に汗を浮かべている者がちらほら見えた。

これ以上火の粉が降りかからないことを祈り息を殺す。

それらを一瞥し小さくため息を漏らした神は厳かに告げた。


「良いか、神子である冴とそこの獣人の結婚に異を唱えることは許さぬ。今後二人にちょっかいを出すこともだ。そして改めて全ての国の者に申す。神子の願いを拒否することも歪曲することも絶対にしてはならない。今回はこれで去るが次はないと思え」


皆が膝をついたまま頭を下げる。

それを満足げに見た神は小さな光となって冴の前で浮遊した。


「さて、神子よ。これでお前と私が交わした個別契約は完了だ」

「はい!」

「神である私とあれだけ交渉し、困ったときに1度だけ神を降臨させるという契約を勝ち取ったのはお前だけだ。結果的に神子を救うことが出来たのだから良いがな」

「ありがとうございます」

「ハハハ⋅⋅⋅⋅⋅⋅割りに合わない仕事だったよ」


目の錯覚か。光の玉なのに疲れた顔に見えた気がした。


「あの!私からもお礼を言わせてください。サエを失わずに済んだこと、心より感謝申し上げます」

「ああ、二人とも幸せに。ではな」


優しい声音でアルデールの礼に応えた神は1度冴とアルデールを囲むように回ると光の筋を残し勢いよく空へと昇っていった。




結婚式を挙げて一週間が経った。

その間、王たちのやらかした後処理などで関係各所が蜂の巣をつついたような騒ぎとなった。

アルデールも引っ張り出されてしまい事情説明や慣れない執務に追われてしまい、残された冴は一人暇な時間を持て余していたのだが漸く落ち着きを取り戻したようだ。


半ば城に拉致されるように連れていかれたアルデールは昨夜無事解放され、久しぶりに自室で寝ることができ溜まった疲れとストレスを解消することができた。


アルデールは忙しさで会えずにいた冴に早速朝から会いにきていた。

いつものようにテーブルを挟んで対面するようにソファに座る。


「まだ隈が濃いですね。もう少し休んでいても良かったのですよ?」

「貴女の姿を見ていると疲れも吹き飛びますから大丈夫です。奥様」

「っくぅっ!」


そう言ってもまだ疲れが残っているのだろう。気怠さが漂う少しやつれた顔がなんとも妖艶だ。

そんな姿で奥様と呼ばれた冴はノーガードで殴られたようなものでダメージが計り知れない。

いつになれば慣れることができるのか、贅沢な悩みだがこれ以上は命に関わりそうで怖い。


「もっと早く貴女に伝えなくてはならなかったのですが、遅くなってしまいすみません」

「あぁ、そういえば⋅⋅⋅⋅⋅⋅」


襲撃に合ったときに話があると言っていたことを思い出す。

結構思い詰めた様子だったので心配していたはずなのにすっかり忘れていた。

もう願いが叶った今、多少の面倒事や心配事が増えても冴は気にしない。


アルデールの様子を見るとそわそわと少し落ち着きがない。

余程言いにくいことなのだろうか。

それなら秘密にしておいてくれても構わないのだが。

黙って待っているとアルデールが徐に片方だけ残っていたケモミミを掴み引っ張った。


「あ⋅⋅⋅⋅⋅⋅え?」


ケモミミが取れた。


正確には外されたと言うべきか。

アルデールの手には片耳だけ付いたカチューシャが握られていたのだから。


「偽物だったのです。耳も尻尾も」

「耳も尻尾も⋅⋅⋅⋅⋅⋅」

「気づいているのかもと思っていたのですが」


首を振る冴にアルデールはこれまでのことを話しはじめた。


冴が求めたのは獣人というよりも、ケモミミと尻尾を持ち冴と結婚できる者であれば良かった。

ただ、その条件を満たすとすればこの世界では獣人となる。

獣人の国を頼らずに神子の願いを可能にするにはアルデール以外いなかった。結果、冴を国に縛るには出来損ないのアルデールを宛がうしか無かった。


ただ、ここで問題が一つ。

アルデールには冴が求めるケモミミと尻尾が無かったのだ。

アルデールは幼い頃よく毒を盛られていた。その盛られた毒がどう作用したのか分からないがケモミミと尻尾を蝕み、当時は切除するしか幼い命を助ける方法がなかった。


だから兄である王から冴との婚約を厳命されたとき、耳と尻尾をどうにかしろと言われ無理だと拒否したのだが無駄だった。

苦肉の策として作られたのが偽物の耳と尻尾である。


「バレたら貴女を失う。そう考えるとどんどん言えなくなって、結婚までしてしまいました」

「⋅⋅⋅⋅⋅⋅」

「私は最初から貴女に求められる資格が無いのです」

「⋅⋅⋅⋅⋅⋅」

「あの、サエ。⋅⋅⋅⋅⋅⋅怒ってますか?怒ってますよね⋅⋅⋅⋅⋅⋅」


押し黙り顔を伏せている最愛の人を寂しげに見つめる。

やっと言えたという罪悪感からの解放と、とうとう言ってしまったという悔恨。

やはりもっと早く伝えるべきだったのだ。

そうしたらこんなに冴を怒らせることにはならなかったはず。

そしてもしかしたら⋅⋅⋅⋅⋅⋅。


「っく!はあっ!!!」

「サエ!?」

「なんて健気なの!!イケメンが私のためにわざわざ偽物を作って装着してた!?コスプレ!?毎日ケモミミカチューシャを着けるイケメン!!萌えるっっ!!⋅⋅⋅⋅⋅⋅あ、」


固まっているアルデールに気付き我に返ったが遅かったようだ。

心の声が漏れ出てしまった後だった。


「ふっ!はははっあはははっ!」

「あの、アルデール様?」

「いえ、すみません。まさかこう来るとは。ふふふ」

「あぁ、穴があったら入りたい⋅⋅⋅⋅⋅⋅」


赤くなった顔を両手で隠し消え入りそうな声で嘆く姿が堪らない。

執事のカールトンが言っていた通りだ。

冴はこんなことで怒るような人ではない。そんな彼女だから好きになったのだ。

心の声が漏れてしまうのも、絶叫してしまうのも全てが愛しいと思ってしまう。


「えーと、アルデール様。確かに私はケモミミと尻尾を持つもふもふ様を報酬に願いました。でもそれは既にアルデール様と出会うきっかけに過ぎなくなっています。アルデール様を深く知った今、ケモミミがあっても無くても私にはどうでも良いことです」


本音で言えばもふもふを堪能できないことは残念である。

だが、それよりもアルデールを失いたくない。


「綺麗なオッドアイも、怒りを宿した時の紅い瞳も、獰猛さを孕んだ鋭く伸びた犬歯も!全てが好きです」


力説したが、何故か途中からアルデールは不満げな表情で冴を見ていた。

冴が首を傾げると「やれやれ」と軽く首を振ったアルデールが立ち上がり、冴の隣に座った。

そして、冴の耳元に口を寄せて甘く囁く。


「全て私の外見がお好みのように聞こえますが、まぁいいでしょう。私も貴女の全てが好きです。この白い首元に私の犬歯を突き立ててみたい。その時貴女はどんな声を聞かせてくれる?あぁ、食べてしまいたいほど貴女が好きだ」

「ぎゃうん!!」

「ん?サエ⋅⋅⋅⋅⋅⋅?しまった。やり過ぎたみたいだ」


甘噛みのように首にキスをすると奇声を上げた冴が動かなくなった。

キャパオーバーだったらしい。気絶していた。

アルデールはその体を優しく抱き寄せる。


「ふふふ、貴女に出会えて本当に幸せです。私の種族は狼の系統ですからね、一生貴女だけに愛を捧げます」



その後、アルデールは正式に公爵位を与えられた。

そして神子である冴の秘密の能力を使い、不可侵条約が結ばれている森の一部を開拓し公爵領としてそこで暮らした。


夫に溺愛されながら4人のケモミミっ子に囲まれて。


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