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神鋼のソウルスミス  作者: こぬさん
第一章  陸王の息吹は春の訪れと共に吹き荒ぶ
40/40

戦いの初鐘は終わりを告げる

お待たせしました。

よろしくお願いいたします。

 「要するに小僧を守れ、ということか? それなら先程も申したが我らがこうして結界術で保護を…」


 「違う」


 「違う?」


 「詳しい背景は正直よくわかっていません。ですが、ここからは僕を最後まで生かしきれるかどうか、そういう戦いになります」


 強い口調に魔力が乗る。

 それは4人に緊張をもたらしていた。


 鋼波は腕を組み、猿波は口元に手を当てた。


 「十中八九、いまイザナギを侵し続けている魔法…と呼んでいいかはわかりませんが、黒炎(アレ)に干渉をするとすぐさま向こうにバレるでしょう。貴方達は僕を無事にこのイザナギの魂を侵食し続けている敵の攻撃を解除するまで邪魔をさせないのが絶対条件になります」


 神鋼しんこうは言い終わると4人を見据えた。


 「あのイザナギの巨大な魂魄を干渉出来る程の魔物です。間違い無く死闘になるでしょう。覚悟はよろしいか?」


 神鋼しんこうは強い視線を送った。

 それに全員が力強く頷いた。


 「この命、我が主に捧げております。言われるまでも無く御身はこの私目がお護りしましょうぞっ!」


 「…もちろんですっ! 私だって鍛冶士として準備はしておりますっ!」


 ハイムは無意識に自身が創り上げた模造魔剣の柄を握りしめた。鍔の部分にはめられた魔石が仄かに光る。


 「このまま何もなく進むことなぞ有り得ぬ。そうだろう? 猿波よ」


 「無論。このままあ奴が見逃すとも思えんしな」


 2体の猿は拳を握りしめた。白色の湯気の様なものが僅かに立ち昇っていた。


 「皆さんの覚悟は受け取りました。では…始めましょう」


 神鋼しんこうはそう言うとイザナギの方へ振り返り、魔導錬金モードを立ち上げた。



 根深い…


 改めて金色のオーラが立ち昇るイザナギの命の根源に根を張る黒い炎を見て呟いた。

 恐るべき速度で根を張り続けて行くこの黒い炎に改めて危機感を抱いてしまう。


 「しかしあのように言ったものの…この黒い炎をどうやって取り除きましょうか」


 この状態で触れたら即死し兼ねない程の凶悪な気配を漂わせるあの黒い炎に対してどうやって対処すべきか悩む神鋼しんこう


 思考の海へと深けていった神鋼しんこうの脳裏に、精神にこの魂魄錬成モードの取扱説明書のような情報が駆け巡っていった。


 「なるほど…直接脳裏にダウンロードされた情報というのはとても便利ですね。ふむふむ。そういう機能があるのですか。となると…」


 改めて黒い炎を見る神鋼しんこう

 そして頷いた。


 「外科手術…ですね。魂魄の手術なんて…ゲームでは一番省かれていた箇所をマニュアルで行うことになるとは…血が滾ります」


 口の端を盛大に引き上げる様子を他の人に見られたら相当に引かれること間違いないだろう。

 神鋼しんこうはこれから行う未知の作業に胸を躍らせていた。


 ワールドゲート内では数字と魔導文字のやり取りでしか示されていなかった箇所。

 魂魄錬成を実際に現実世界で行うとまるで外科手術のようなことになるとは思いも寄らなかった神鋼しんこうではあったが、即座にメスのような物と鉗子のような物を具現化させ、そしてイザナギの命の根源へと近づいた。


 「今から命の根源に巣食う病巣、悪魔の触手除去手術及び魂魄修繕を行います」



 「こちらから見るとただ突っ立っているようにしか見えんがな」


 鋼波は目を瞑ってただただ突っ立っている神鋼しんこうを見ながら言葉を発した。

 本当にあの悪魔の攻撃から回復させることが出来るのだろうか。そう思った時、イザナギの巨躯が身震いを行った。


 「おぉぉっ?!」


 「こ、これは?」


 「分からん…が…小僧が何か干渉を開始した、ということか?」


 そして雄叫びにも似た声をイザナギは上げ始める。

 その声は苦しんでいるような、甲高い声が周囲へと鳴り散らして行く。


 「随分と派手にやっているようだな」


 「そのようだ」


 猿波と猿鋼はその目でイザナギのチャクラが目まぐるしく変わっていくのを確認して頷いた。

 あの小僧しんこうは間違い無くイザナギの精神へと干渉している。


 「王種王級の精神に干渉できる幼子、か。随分と狂っておる」


 「だな。あの悪戯小僧にも通じる部分、だな」


 「では我らも仕事をきっちりとるとしようか」


 「あぁ」


 二体の猿は深い笑みを零す。

 二人から発する強者たるオーラの波動を感じ取りハイムとショウマは猿波と猿候を見る。


 「なんかやるの意味が違う気が…」


 そんなことをハイムが言った直後、猿波と猿鋼は上空へ視線を移す。


 「お前達…来るぞ」


 青空から黒い染みが滲み出て、そしてそれが黒い靄へと移り変わっていく。

 見た瞬間にハイムとショウマは顔を顰めさせた。

 何故ならその黒い靄はありったけの殺意を周囲に振りまいていたからだ。


 「し…ショウマさん…アレが敵、ですか」


 声を震わせながら問いかけるショウマは頷いて答える。


 「相手にとって不足無し、だな。そうだろう? ハイム」


 「えっ?」


 ハイムはショウマを見て察する。あぁこいつ師匠にも似た所あって頭の中のネジが一、二本ほど緩んでるんだっけ…と思い直し、そして恨めしい視線で空を見上げた。



 『ドコの害虫がガロス様の邪魔をするかと思いきヤ…ニンゲン二匹に…アレは…古代種カ…』


 黒い靄が徐々に形作られ、そして人型のシルエットを形成していった。


 『コノ…クソ虫共めガ』


 手には大鎌を携えている。

 身の丈は猿波と同じ位はあり、身体は黒で覆われていた。


 「あ、あれが…悪魔種…」


 呆けるような眼差しでハイムは見ていた。

 その時、パァンと音が鳴り響く。


 「フンッ…あ奴を直視し過ぎだ。魂を取り込まれるぞ」


 猿鋼は柏手を一拍打ち鳴らしていた。


 「我らも聞いたことしかないが…悪魔種は魂を自在に操る術があるらしい。特に…あの魔眼には気を付けよ」


 ショウマは頷くと身体から白い靄を立ち昇らせていた。


 「ほぅ…お主もオーラを操れるのか。…まぁ…よいか」


 猿波は言いかけた口を閉じた。

 立ち昇らせているオーラはまだ弱く、研ぎ澄ますことも出来ていない。つい最近覚醒したのだろうと容易に想像がついたが水を差すことはしなかった。何せこれから死闘が待ち受けているのだ。ここで戦意を失わせることもないだろう。


 「異世界の寄生虫如きがこの世界に何用ぞ」


 猿鋼は言葉に力を乗せ牽制する。

 だが悪魔は微塵も揺らぎはしない。


 『クソ虫如きが生意気な口を利きよル。小賢しイ』


 手に持つ大鎌を天空へと掲げると黒い靄が集まって行く。

 そしてその黒い靄は地上へと落ち、そしてその姿を徐々に確定させて行った。


 『食い散らかセ。我が眷属、闇の回廊獣ヨ』


 『オォォォォォォッ!!!』


 暴風が口から放たれる。あまりの風の強さにハイムは飛ばされそうになるもショウマが咄嗟に掴み辛うじてその場に居続けることが出来た。


 「な、なんだぁ…あのバケモノは…」


 目の前には大きなミミズに口を付けた魔物が鎮座していた。


 「あれは…グランドワームか?」


 「姿形は似ておるが…体表の色が随分と黒いな。あれも異界の魔物か?」


 猿波と猿鋼はオーラを周囲に展開していく。

 研ぎ澄まされたオーラはそれだけで存在感を周囲に知らしめていた。

 それを見てショウマは短く「ふむ」と言葉を切る。そして――


 「……参考になる」


 ショウマも見よう見まねで同じようにオーラを解き放つ。

 だが猿波と猿鋼に比べて随分と力が弱く、ただ周囲に巻き散らかしているようだった。


 「小僧…それでは直ぐにオーラが尽きてしまう。ただ解き放つのではない。その場に押しとどめ、そして圧縮していくのだ」


 「圧縮…こうか?」


 撒き散らされていたオーラが徐々に小さくなって行き、そして僅かだが煌めき始める。


 「中々難しいな」


 だが猿鋼はショウマを見て少しだけ驚きの表情を見せていた。


 「まだ覚醒したての小僧が出来る業では無いのだが…」


 こいつは伸びる、そして少しだけ口の端を吊り上げた。

 そしてすぐに表情を元に戻す。


 「生き延びることが出来たら少しばかり修行をつけようぞ」


 猿鋼の言葉にショウマは凝視する。


 「それはありがたい…が」


 「それまで死ぬなよ? 小僧」


 「あぁ」



 『フンッ。小賢しイ。まことに持って小賢しイ。ガロン様の邪魔をするだけでなくこうして時間稼ぎに労じるとハ。蹂躙シ、そして一遍も残さず喰ってしまエ。そしてその魂魄をガロン様に献上するのダ』


 『オオオオオォォォォォォォッ!!!!』


 先程とは比べ物にもならない雄叫びを上げ闇の回廊獣は巨躯をうねらせる。


 「来るぞっ! 猿波っ!!」


 「分かっておるっ! 猿王仙術っ!! 永久沼(とこしえのぬま)っ!!!」


 猿波は両手を大地に付けるとその周囲に見慣れぬ文字がまるで術式のように走って行った。

 すると前方の地面に変化が起きる。

 大地がぬかるみ始め、その上を闇の回廊獣が通った直後にその巨躯を地面が飲み込んだ。

 泥が周辺一帯に撒き散らされていくが、空に飛び散る泥の粘度が通常よりも強く見える。


 『グワァァァァァオッ!!!』


 「猿鋼っ!」


 「あぁっ! 猿魔の装!!! 硬軍っ!!」


 猿鋼の身体に歌舞伎で見たことのある隈取りが全身に現れていく。


 「喰らえっ!! 化け物っ!」


 闇の回廊獣が粘度がとても強い泥沼にハマり込み、身動きが取れない中で猿鋼は回廊獣の上空を取る。


 「双極衝波っ!!!!」


 勢いよく突き出された両拳が闇の回廊獣の巨躯へと叩き込まれる。


 『グゥゥゥギャオォォッ!!!』


 衝撃が闇の回廊獣の巨躯を波打たせる。通り抜けた衝撃が頑丈な皮膚を容易く裂けて行った。

 そして同時に泥沼へ更に沈み込んでいく。巨躯をあっさりと飲み込んで行く沼にショウマとハイムは目が点となっていた。


 「お前如きにそこまで時間は取れないからな。ハメ手を使わせてもらった」


 「猿波の永久沼(とこしえのぬま)にあそこまで嵌まり込んだらもう二度と現世へは抜け出せぬ」


 猿波と猿鋼は上空の悪魔を見て手招きをした。


 「次はお前だ」


 その言葉に悪魔は『クックック』と身体を揺らし笑った。


 『このクソ虫共ガ…調子に乗り過ぎだろウ』


 その直後、大地から土砂が大量に噴出していく。


 「なんだっ?!」


 『この阿保共ガ…大地系の魔法に空間系を混ぜ込んだのだろうガ…我が眷属はその程度でワ…止まらんゾ?』


 地中から飛び出してくる闇の回廊獣は大きな音を鳴り響かせて地面へと着地した。


 「まさか…術ごと喰らったのか?」


 「なんという規格外っ!!」


 そして闇の回廊獣は直ぐ様反撃に転じる。体表から複数の触手を形成させ猿波と猿鋼へと襲い掛かる。


 だが――


 「お前ら俺がいることを忘れて無いか?」


 振り払われた剣線が触手を切り飛ばして行く。


 「あんたら…油断し過ぎだろう」


 そう言ってニヤリと笑う。


 「くくく。小僧すまんかったな」


 「一端の口を利きよって」


 猿波と猿鋼の口元が僅かに緩む。


 「挨拶は済んだし、本番と行こうじゃないか」


 闇の回廊獣と二体+一人は対峙した。

 そしてその時、ハイムは神鋼しんこうの元でへたり込んでいた。


 「こ…この戦いに…鍛冶士が割って入る? む…無理だよぅ…」



【※ここまで読んで頂いた皆様へ大事なお願いがあります※】


ここまで読んで頂きありがとうございます。

拙作ではありますが、少しでも「面白い!」や「続きが気になる!」等々


と心の中に少しでも抱いて頂けましたら


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