蹂躙
よろしくお願いいたします。
樹界廻誕
この魔法が初めてゲーム世界にお目見えした時、プレイヤー達から大不評を買った。
グリモアから、そして親友のリンドウまでも悪評を評せずにはいられない程にだ。
何がプレイヤー達の癇に障ったのだろうか。
神鋼は悩みに悩んだが結局答えは見つけられなかった。
だが皆が「卑怯だ」だの「出てこい! この引きこもり鍛冶士っ!!」だの言っていたことだけは覚えている。俺には何故危険な真似をしてまで戦場に出て来なければ行けないのか理解が出来なかった。
きっかけはリンドウとグリモアが領土戦に参加していた時であった。
両方に新作の武器を渡しており、そのテストも兼ねて神鋼も参加したのだがあくまでも傍観者としての参戦であった。
領土戦は進み、そして新作武器のデータも十分な量が取れたため戦線から離脱しようとした時であった。こちらに向かって複数の光弾が飛び込んで来た。
即座に防護障壁を展開してやり過ごしたのだが周囲を敵勢力に囲まれて居ることに気付いた時にはもう離脱すら難しい状況にあった。
リンドウに助けを求めるも戦闘狂と戦っている最中で抜け出せない状況にあり、敵軍中で孤立してしまうことになってしまう。
「これはこれは…随分とまた希少な方がこの領土戦に参戦で」
ニヤニヤとした顔色にはまるで美味しい獲物を発見した、とばかりの意図が透けて見える。
「ちょっと野暮用がありましてね。もう帰るのでそこをどいてもらっても良いですか?」
「ほうほう! もうお帰りになるんですねぇ…だったら送って差し上げますよ」
その言葉に全員が武器を抜いた。
「さぁっ! おめぇらっ! 鴨が手早い決着をお望みだそうだっ! 死に戻らせてやれっ!!」
神鋼一人に対して数十人が襲い掛かるこの状況に「僕を倒すだけならこんなに要らないのではっ?」と軽口を叩くも、「お前は一番油断がならねぇっ! 何をしでかすかわからねぇからなっ!」と酷い返しをされてしまう。
神鋼は全力で守りに徹し、その間に開発したばかりの大魔法、【 樹界廻誕 】の発動準備に入っていた。
そして発動した直後、草原フィールドに突如として森が現れる。
領土戦の最中に突如として広大な森が現れたことにプレイヤー達は困惑の色を隠せなかった。
当初は何が起こったのか、これは公式の新規イベントなのか判断が付かず領土戦は一時ストップしてしまい、戦場は不気味は静けさと困惑の声に溢れていた。
一方、侵入したプレイヤー達は全員が死に戻っており、そこから詳しい内容が両陣営にもたらされることになる。そしてリンドウは、グリモアは詳細を聞き、顔を手に当て空を見上げた。
なんでも『神鋼が立てこもっている』ということが分かったからだからだ。。
この時は初お目見えであったが故に事前の情報は何もない状況は無い。
だからこそやってはならない選択肢を選び続ける結果となってしまう。
「お、おい…あの森…どんどんでかくなってねぇか?」
「なんか死に戻った奴が言うにはレベルダウンしている者がいるって話だぞ…」
「あの森の中は全包囲が敵に囲まれてると思えって…なんだそりゃ??」
領土戦の最中にこのイレギュラーが発生し、両陣営合わせて正式に一旦戦争の中断とすることとし、これに対処してから再開、そう決められたのだが…ここからがワールドゲート内屈指の大事件の幕開けとなることはまだこの時誰も想定だにしていなかった。
「あの引きこもりめ…儂が炙り出してくれようぞ」
グリモアが盛大に極大魔法を放った。周囲はこれで終わりだな、そう安堵していたが…魔法が着弾した直後、盛大に破壊音と燃え盛る豪火が舞起こりそして消えた後には急速に森が魔法によって焼き消えた以上に拡大していった。
「なんじゃとっ?!」
グリモアが顔を顰める。
「お爺…あれ魔力を吸収してないか?」
リンドウが指摘し、グリモアが「うむむ…あの小僧め…」と唸った。
「それも吸収した魔力でどんどんでかくなって行くな…あの木々に攻撃を仕掛けると不味いかもしれない」
「となると接近戦で仕留めるしかない…か?」
そう呟くグリモアにリンドウは「連絡とって解除させましょう。正直この領土戦に邪魔ですから」と即座に神鋼へコールしたが…どんどん顔色が曇って行った。
「小僧はなんと?」
何となくだが嫌な予感がしていたグリモアは手早く聞くも…
「……あり得ない…あいつ、まだ試したことのない魔法だそうで、時間が来るまで解除出来ない、だそうだ」
「……小僧…帰ったらお仕置きだな」
そう言うとグリモアは森の中へ乗り込む準備を始めようとした。だがリンドウがそれを止める。
「お爺、待ってくれ。まだ続きがある。なんでも先ほどお爺の魔法でゲージが溜まったからここから始動するって言っていた…何か…嫌な予感がしないか?」
『始動する』
この言葉に二人は盛大に顔を顰めさせた。
「「総員っ! この場から離れろっ!! 大至急だっ!!」」
その直後、森は急速に拡大を始めた。まるで川から溢れる濁流のごとく盛大に木々が生い茂っていった。
これが後に語られることになる、【 引きこもり、都市を破壊する事件 】のことの始まりであった。
この時の神鋼を止めるために各国の精鋭が急造レギオンを作り、そのメンバーはさながら世界選抜か、と言わんばかりの領土戦からお祭り騒ぎとなって行く。
それに公式も便乗し、神鋼を討伐すれば貴重なアイテムをプレゼントする、と煽りまくった結果、時間を追うごとにどんどんと参戦者が増えて行った。そして開戦してからゲーム内時間、39時間後に魔法が解け終戦となった。
参戦したプレイヤー達はおよそ数万、非戦闘員や観覧する者を合わせると周囲に数十万ものプレイヤー達が押し寄せ、そして被害を受けて行った。
「この引きこもりっ!! 早く出てこいっ!!」
「神鋼っ! まずはお前が出て来るんだっ!」
そう親友達に諭されるも、
「今出てきたら物凄く怒られます…全てを灰にして怒られない環境を作ってから出て来ますので放って置いて下さい…」
「阿保かっ!!」
「お前はどこのラスボスだっ!!」
とやり取りしたとかしないとか…
この樹界廻誕は神鋼というプレイヤーを別の意味で世界に知らしめた大魔法として、その後公式からも【 触るな危険! 】というある意味レッテルを貼られるに至ることになる。
元々あまり戦いの場に現われることの無いプレイヤーだったのだが、領土戦等で確認された場合は厳戒体制を取られてしまい、更に戦闘という行為から遠ざかる一因となった事件であった。
そんなゲーム内でもある意味禁魔法と認知されていた魔法が現実世界で行使された場合、果たしてどうなるのだろうか。
今、答えが神鋼の前に現実として現れていた。
(範囲設定…北門からおよそ1キロと設定)
神鋼は門に取りついている魔物や、森からの進路方向へ範囲を絞って樹界廻誕の領域を設定する。
(むむむ…これは魔力消費が激しいですね…さっさと魔物をエネルギーとして変換させねば)
ゲームとの違いを感じながら今、現時点で操作出来る範囲で領域を広げ、そして魔物を捕食して行く作業へと注力していく。
「な…なんてこった…これは…現実、か?」
北門の上で呆ける兵士がそう呟いた。
先程まで死闘を繰り広げていた北門付近は木々が生い茂り、その木々がまるで生き物のように魔物を取り込んで行くのだ。
そんな兵士達をよそに神鋼は操作に苦戦していた。
(エネルギー効率がかなり悪いですね…これは魔物の質が悪いことが原因でしょうか)
ゲーム時と比べても相当に効率が悪い。
圧倒的な速度で周辺の魔物を取り込んで行くものの、思ったほど領域を維持するための魔力が増えない状況に少しだけ焦りが生まれる。
そしてこの魔法は神鋼の精神をガリガリと削っていく。
これはゲーム時をオート操作とすると、現実世界では完全マニュアル操作となったからだろう。
細かい操作を要求され、気を抜くと樹木達が荒れ狂うのだ。もしこのまま神鋼が中途半端に意識を失ってしまうと暴走する恐れがあるこの状況に相当神経を使いながら行使していた。
だが、周辺探知しつつ樹界を操作していた神鋼は魔物が急速に減りつつあることも察知していた。取り込む速度が圧倒的であるため、餌となる魔物が枯渇してきたことに少しだけ安堵しつつ、人で対応出来る数まで減らすことを目標に繊細な樹界操作を行っていった。
そして約30分後、魔物は周辺一帯から姿を消した。討伐し尽くしたのだ。
「あ、主…我が主の…偉大なる御力、感服しました」
小刻みに震えるショウマは恐らく感動しているのだろう。
自分が生涯仕えることになる主の偉大さを感じて感動に打ち震えてるのを尻目に神鋼は困り顔を見せた。
「………この樹木達は…どうやれば召喚元の魔界へと帰ってくれるのでしょうか」
【※ここまで読んで頂いた皆様へ大事なお願いがあります※】
ここまで読んで頂きありがとうございます。
拙作ではありますが、少しでも「面白い!」や「続きが気になる!」等々
と心の中に少しでも抱いて頂けましたら
広告下↓の【☆☆☆☆☆】からポイントを入れて応援やブックマークして下さるととても、それはとても嬉しいです。
ぜひこの拙作のモチベーションを維持して頂くためにも、何卒宜しくお願い致します。




