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神鋼のソウルスミス  作者: こぬさん
第一章  陸王の息吹は春の訪れと共に吹き荒ぶ
33/40

樹界廻誕

よろしくお願いいたします。

 紅い目から熱き武威が垂れ流しされ、巨躯からは己が身を焦がすほどに圧倒的な強者たる存在感オーラが打ち破られた北門付近を満たしていた。

 それに当てられた兵士やブレイバー達は身を竦めその原因へと凝視することしか出来ないでいた。


 「あ、あれは…やべぇ…」


 マディは周囲をちらりと見やるも瓦解された門の欠片や死屍累々と化した横たわる人々しか見えない。


 一撃だ。


 数十人の精鋭達が居たにも関わらず一撃で戦闘不能に陥ってしまったこの状況にこの先の生が潰えた、そう悟ってしまった。


 「ネリサ…ヨウ…すまん…」


 目を瞑り、そして身を小刻みに震えさせることしか出来ないマディは悔しさのあまり歯嚙みをした。


 この門が早々に破られたということは圧倒的な物量の前にこの拠点は屈した、そういうことだ。

 それを理解したからこそ、北門の防衛に当たっていた皆は同じ気持ちを味わったに違いない。


 周辺を指揮する部隊長は既に瓦礫の下に飲まれておりどこにいるかも分からない。

 そして皆は確信する。

 次は…我が身、だと。


 最も激化したこの北門周辺がまるで嵐の前の静けさのように静寂を保っていた。

 皆は虚を突かれる程の武威を感じてしまった故の戦場によくある現象、そう思っていたに違いない。

 だがそれが数秒、数十秒も続けば人々は不審に思う。


 何故、あの魔物は突っ立ったままなのか。


 疑念が周囲を満たす。

 マディはあのオークジェネラルが見ている方向を何気なく視線を追って見ると、遥か先を見据えているように見えた。


 「あ…あいつは…何を見ているんだ…」


 視線の先をよく目を凝らして見ると不思議な現象を視界に捉えてしまう。

 この周辺で高い建物と言えば給水塔くらいしか思いつかない。視線の先を追うと給水塔が目に入るのだが、そこから何かがこちらに向かって空中を歩いている様な、有り得ない光景を目の当たりにしてしまう。


 マディはもう一度よく目を凝らして見ると空中を歩いているわけではない。

 もっと不思議な光景を目の当たりにしてしまう。


 何と、その何者かの足元が下から生えてくる何かに支えられて、厳密に言えば足元に人が乗ることが出来る足場が進行方向に向かって次々と作られてい行くのだ。


 その光景はまるでいと高き玉座から下々の元へと下る王の階段を模しているように錯覚させられてしまう。それほどまでに不思議な光景だったからだ。


 マディはその何かが朧気ながらも徐々に見え始めた時、ただならぬ気配を感じ取ってしまう。

 濃密な魔力の波動、そうとしか言いようのない存在感は目の前に立っているオークジェネラルすら超えているようにも感じた。


 だがマディの顔は更に有り得ない、そう言った表情を作っていくことになる。

 はっきりと視界に捉えれば捉える程、狐につままれた、そんな表情を深く、それは深く作られていった。


「………ヨウ??!」


 マディは有り得ない以上に何故、我が愛息がこんな怪物の前に歩み出て来るのかと言う気持ちとそれを更に上回る気持ち、即ち息子を守らねば、という何物にも変えられない尊い気持ちが圧倒的に勝ってしまう。


 そしてあの怪物とヨウの間までおおよそ10歩の距離となる。

 直ぐにでも間に割って入り息子を逃がさねば、そう行動に移ろうとした時であった。

 荒れ狂う魔力の嵐が周囲を吹き荒んでいった。


 「グるるるルゥ…ッ!!」


 「本物の魔物は…随分と大きく、そして存在感が半端ないですねぇ」


 な、何を能天気な…ことを…


 そう思うもこの二者の間には誰にも入ることを許されない独特の殺気が満ちた空間が出来上がっていた。それ(・・)にマディは本能的な恐れを感じ立ち入ることが出来ないでいた。


 周囲には突っ立っている多くの兵士やブレイバー、魔狩人達も同様の思いを抱いていた。

 この場に相応しくない魔物と子供。

 一体これから何が起こるんだ、とこの二者から目を離すことが出来ないでいた。


 「うーん…現実の魔物はあの世界の遊びとは違うモノだと思っていましたが…」


 思案顔になる神鋼しんこうにスイッチが入ったのかオークジェネラルは武威の入り混じった雄叫びを周囲に放った。それに当てられた周囲の人々は硬直状態に陥ってしまう。


 そしてオークジェネラルの右手に持っていたバトルアックスを勢いよく振り上げると、ヨウ目がけて両断する勢いで直上から重い一撃を放った。


 周囲はあまりの速さに何が起こったのか分からないでいたが、とても甲高い音だけは周囲に鳴り響く。

 そこで何かにぶつかった、そう認識するに至る。


 「グ…グるるるルルルッ!!!」


 オークジェネラルは手に残る痺れに思わず唸り声を上げた。

 目の前には太い木の枝がまるで遮るかの様に我が渾身の一撃を受け止めているのだ。

 木の一本や二本は幹ごと切り飛ばすくらい造作もないことなのだが、目の前の木の枝は金属並に硬く、僅かに切筋を残すだけにとどまってしまう。


 「魔硬樹です。その程度の斬撃では切り飛ばすことなぞ到底不可能です」


 神鋼しんこうは相手に聞こえる程度の声で話すと、そのまま一歩、二歩と相手との間を詰め始めた。


 「大魔導士グリモア式戦闘法、其の壱。戦う前から…ハメ倒せ、です」


 遠くから「儂はそんなこと教えとらんぞ!」と聞こえたような気がしたが無視して更に間合いを詰めていく神鋼しんこう


 「あなたはそもそも迂闊にもこの僕の間合いに入り込み、何も策を取らなかったことがそもそもの敗因です。魔物にもあの世と言う場所があるのでしたらそこで反省すべきですね」


 敗因。


 まだ両者は剣を交えた訳でも無しに神鋼しんこうはそう言い切った。

 オークジェネラルに人の言葉が通じる訳では無いのだが、言い知れぬ不安を本能で感じ取ってしまう。


 「もう終わっていることに気付かない哀れな生物よ。我が眷属の糧となれ」


 言い知れぬ不安が極大にまで広がった直後、オークジェネラルは身体の自由が利かないことに気付いてしまう。


 「ウゴッ! ウゴガッ!!」


 「ようやく気が付きましたか。鈍ちんですねぇ」


 オークジェネラルの足元には木の根が張り付いており、いつの間にか身体へと浸食を開始していた。


 「さぁ樹界よ。顕現せよ」


 樹界廻誕(じゅかいかいたん)


 これぞワールドゲート最強と言わしめた大魔導士グリモアが「お前は本当に性格が悪い。ひん曲がっとる」、最強剣士の名を欲しいままにした親友のリンドウからは『これは泥だ。泥仕合生成魔法だ。本当…これでいいのか?』と言わしめた神鋼しんこう必殺の魔法、【 樹界廻誕(じゅかいかいたん) 】が世界を書き換えて行く。


 「目に見える範囲は全て…僕の世界です」


 急に靄がかかったかと思いきや、急激に晴れていく。

 まだ夜中ということもあってか拠点内に焚かれた松明や魔導灯くらいしか光源が無かったが、その場に居る全員が、魔物も含めた生きとし生ける者全員に緊張感が走っていく。


 「これは…夢、か?」


 周囲は木々に覆われ、まるで森の中に放り出されたようだと人々の脳裏に焼き付いていく。

 だがよく見ると第126拠点内、それも北門付近が木々に浸食されていることに気付き始める。


 すると神鋼しんこうの後ろに侍っていたショウマが口を開いた。


 「主…これは…どうなっておるのでしょう?」


 ショウマは周囲をせわしなく見渡す。


 「言葉で説明するのは難しいのですが…僕が…大魔導士グリモアのブートキャンプから逃れるために開発した自然系魔法です。とは言っても木樹系統しか操れませんが」


 神鋼しんこうは人差し指をクイッと曲げると、地中から木々が付き出して形を変え始める。

 そして神鋼しんこうは満足気に木で作られた椅子に座って足を組んだ。


 「これはまだ僕が神鋼しんこう装備を開発していなかった時に重宝した魔法なのですが…何せ僕は戦闘が嫌いでしてね。だから全て自動で終わらせてくれる魔法を開発したのです」


 「勝手に、ですか??」


 要を掴めないショウマを苦笑交じりで神鋼しんこうは見やる。


 「まぁ…理解しなくても大丈夫です。何せこの魔法を使わせてしまったら最後…誰も僕を傷つけることは出来ませんから。グリモアさんも。リンドウでさえも」


 したり顔で周囲を見る神鋼しんこうの視界には最早オークジェネラルが入っていない。

 何故なら生きたまま木々に浸食されてしまったからだ。既にオークジェネラルの目の色は消えてくすんでいた。そして急速に干からびて活き、そのまま木々に吸収されていった。


 「この世界では僕に敵意を持った者の命の保証は出来かねます。皆様、そこでじっとしておいてください」


 呆けた顔を見せる兵士やブレイバー、魔狩人達にそう言い放つと皆一様に何回も頷いた。


 「さて。まだ外には生ゴミが大量に残っています。さっさとこの子達のエサとなってもらいましょうか」


 神鋼しんこうは手をかざす。そしてかざした手を真下に振り下ろした。


 「蹂躙、です」

【※ここまで読んで頂いた皆様へ大事なお願いがあります※】



ここまで読んで頂きありがとうございます。

拙作ではありますが、少しでも「面白い!」や「続きが気になる!」等々


と心の中に少しでも抱いて頂けましたら


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