大魔導士グリモア
マトリフ師匠は名言メーカー!
「聞いたか? 公式がランキング制の改革に乗り出すそうだぞ」
「来週から変更するそうだ」
「てことは今やってる血盟戦や超越者ランキングバトルの仕様も変更されるのかな」
VRMMORPG【ワールドゲート】の大幅な仕様変更に伴い、細かな部分が見直されることになった。
その中でも昔から噂されていたランキング指標を大幅に変更するという部分にプレイヤーは敏感に反応してた。
これまでのランキング制は基本的に超越者ランキングバトルでの順位を表したものであった。
ランキングポイントを1vs1マッチで稼いだり、あるいは血盟戦でのトータルポイントを足した総合計で順位付けを行っていたのだが、公式はそれを大幅に手を加える事にした。
「ふーん…大方の予想通りこの二つは廃止か…そして新たに加わったのが領土戦?」
公式はまず超越者ランキングバトルと血盟戦を廃止し、それを統合した新たな仕組み、【 領土戦 】を新設した。
これはワールドゲート内で大まかな国を設定し、どこに属するか、または属しないかを各プレイヤーが判断することが出来るのだが、その中でも国に属すると様々なメリットが与えられるようになっていた。
そしてこれまで血盟同士の戦いからもっと大きな規模での戦闘、いや戦争を行うことにより万単位の集団戦へと舵を切ったのだ。
これには恐らくだが増えすぎたプレイヤーからの要望なのだろう。
膠着した状況をより混沌へと向かうことにより変革を促したい公式の意図が見え隠れしている。
そしてもう一つの話題となったのが公式が認める【 神階位 】の新設であった。
これはこれまでの功績を公式内で議論し、認めたプレイヤーにだけ階位設定される仕様となっており、その数は128階位あった。
これまでは強さにのみ視点が注がれていたが、今後は様々なワールドゲート内における貢献という部分にもスポットライトが当てられることになるそうだ。
そして第1回目に見事神階位を果たした二人が目の前にいた。
「おめでとうございます?」
「ありがとう」
「ふん…何が神階位だ。くだらん…」
口調は真逆だがグリモアさんの表情は嬉しさを噛み締めるような何とも言えない表情をしているのを見て俺は苦笑してしまう。
「リンドウは49神階位でグリモアさんが3神階位ですか…まぁ順当といえば順当かな?」
「ふん…まぁくれるのなら…もらっておくが…」
「グリモアは1位だと思ってたんですけどね。流石に覇王へ僅かにですが公式は評価されたということですか」
「あの我儘坊主に1位の座を渡すことになるとは…」
「まぁワールドゲートってアメリカ企業が開発運営してますからね。当然自国のプレイヤーを優遇したい気持ちってのはどうしようもないんじゃないですか?」
「まぁいい…今度の領土戦でぐうの音が出ん程にボコボコにしてやろう…くっくっく…」
「本当にやりそうで怖いですね…」
籠り笑いをするグリモアを傍目に神鋼はリンドウへと話を振って行く。
「しかしリンドウも49神階位かぁ…日本人で二番目じゃん!」
「あはは…まぁこの神階位に認定されたのは嬉しいけど、もっと上を狙って行こうかと思う」
「シングルランキング入り狙ってるの?」
「あぁ。今後この神階位がどのように上げ下げ、または認定外になるかは分からないけどどうせなら頂点を狙いたいじゃないか」
「くくく…お主に筆頭の地位は渡さんぞ…」
燃える二人を見ていて本当にこの二人仲良いな、と思いつつお茶をすする。
世界で1億人を超えるプレイヤーが居るこのゲームで、その中でもトップオブトップ、即ち頂点にいる128人のプレイヤーを公式が認めて、更に目の前にトッププレイヤーが2人も居るこの状況に何となくだが違和感を感じつつあった。
(その点俺はしがない生産職、かぁ。随分と差を離されたものだなぁ)
そして再度お茶をすする。
現時点ではまだ始まったばかりのこの大幅変更だが、この時はまだ自分が神階位入りすることは想像だにしていなかった。
それから少ししてグリモアさんが再度僕の拠点へと足を運んで来る。
「小僧っ! いるか??」
「どうしました??」
「うむ…実はのぅ…」
珍しく悩みを抱えて来たグリモアさんに俺は少しだけ身構える。
これまでの経験上、この人の悩みは物騒なのだ。
スケールが違う悩みの仕方をするため凡人の俺には少しどころか相当に荷が重かった。
「……二つ名が気に入らない…??」
「うむ。【大賢者】と呼ばれるのがのぅ…」
グリモアさんは間違い無く全世界で1億人のプレイヤーが居る中でナンバー1の魔法使いだろう。
これは同じ神階位入りを果たしたリンドウも認めていた。
そもそも神階位制度が始まってまだ少ししか経っていないがほぼ99%戦闘職がランキング入りしており、その中でも圧倒的に近接系戦闘プレイヤーがランク入りしているのだ。
そんな大賢者グリモアを一言で言い表すとすれば、【戦闘狂】この一言に尽きるだろう。
魔法使いプレイを身上としたグリモアはPvPで不利な遠距離職業であるにも関わらず、あの世界最強プレイヤーの一人として数えられているリンドウと唯一互角に戦うことが出来た人だった。
それどころか大幅な仕様変更前ではリンドウ率いる血盟<STAR BREAKERS>相手に一人で戦争できた稀有なプレイヤーだった。
そんなグリモアに公式が送った称号は<大賢者>だった。
数少ないソロプレイヤーで上り詰めた狂人への皮肉なのか、はたまた純粋なまでの敬愛なのかは分からない。
そんなグリモアさんに俺は過去に聞いたことがあった。
『なんでそんなに戦闘が好きなんですか?』
それを聞いたグリモアさんは腹を抱えて大笑いしながら答えた。
『こ、小僧、そりゃあお前がなんでそこまで鍛冶士に賭けているんだ? って聞いているのと同じだろうが』
その答えを聞いて俺は『あぁ、この人は同じ人種なんだな』と妙に腑に落ちたことが今でも昨日のように思い出す。そんな狂人に戦闘が不得意な俺は散々仕込まれたことを思い出す。
『戦闘は苦手なんですよ。僕には鍛冶の道があるんで別に必要ないですけど』
『うるせぇっ! 小僧っ!! 付いて来いっ!!!』
そう言って何度も何度も最難関のダンジョンで自然と眠りに落ちるまでしごかれた俺は、耳がタコになるまで聞いた台詞を思い出す。
『戦いってのはな、出端が大事だ。わかるか小僧? 先手必勝って言うだろ? 戦いってのはな、最初に仕掛けた者が有利なんだよ。将棋でも、囲碁でもそうだろ? 勝負ってのはな、先手有利なんだよ。それだけに敵が現れた瞬間、どれだけその瞬間に最適解を導き出して、それを実行するかにかかってんだよ』
『すいません。良くわかりません。あとお腹が空いたので帰っていいですか?』
そんなやり取りを毎回、飽きもせず、128神階位に上り詰めた後もよくグリモア式ブートキャンプでしごかれてたなぁ。結局俺はグリモアさんのこと嫌いじゃなかったんだよな。あの強引なとこも含めて珍しく馬が合ったというか。
だが、戦闘と切っても切り離すことが出来ないこのグリモアさんは、公式が送った二つ名<大賢者>に相当の違和感を感じているそうで…そもそも結構前から自然とプレイヤーから言われてたじゃないですか、公式も空気読んだんですよ、そう言いかけ言葉を飲み込んだ。
「いいじゃないですか。そもそも二つ名が公式に表示されるのって神階位入りしないと無理じゃないですか。いま全世界1億人を超えるプレイヤーはその栄誉のために日々戦争に明け暮れるわけで。その中でもほんの一握りが保持する<二つ名>。何が不満なんですか??」
そう言うと神鋼はまたお茶をすする。
「偉そうじゃねえか。なぁ? 賢き者だなんて」
俺はその言葉を聞いておや? と首を少しだけ傾げた。
「なぁにが大賢者、だ」
吐き捨てるように言うグリモアさんの表情は苦悶に満ちていた。
「でもグリモアさんはあらゆる魔法を使いこなすじゃないですか。攻撃系はもとより、回復に補助系…あれだけ違う系統の魔法プログラムを発動させるなんて世界でもごく僅かじゃないですか。だったら賢者の称号は意外と悪くないと思いますけどね」
「ふん…言葉面が気に入らねぇ…そもそも俺に合う二つ名じゃねえんだよ。第一、覇気がねぇじゃねえか」
覇気、ねぇ…そう言えばこの人頭の中は99%戦うことしかなかったもんなぁ…
「だからな、小僧っ! 俺は世界中の誰が聞いても恐れをなし、ビビッて、もう最後だ…っていうカッコイイ二つ名を考えたんだよ」
俺は何となくこれ、ヤバイやつじゃね? と視線を逸らす。
そんなこちらを構うことなくグリモアさんは立ち上がった。
「世界に一人しかいねぇ。世界の頂点に居座る魔法使いの二つ名だ! それが…」
<大魔導士グリモア>
俺の戦闘における師匠が考えた独自の二つ名でもあり、そして世界に広まることは無かった最強魔法使いの真なる二つ名。
俺は今、その師匠グリモアを思い出し、給水塔の柵の上へと足を踏み出した。
「まぁ…僕は鍛冶士なんですけどね」
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