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神鋼のソウルスミス  作者: こぬさん
第一章  陸王の息吹は春の訪れと共に吹き荒ぶ
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大賢者グリモア

TIMBERBORN面白すぎる

 『戦いってのはな、出端が大事だ。わかるか小僧?』


 いつも俺を子供扱いにする長く白い髭を蓄えたお爺さん、グリモアが毎回吐くいつもの台詞せりふだった。


 俺がMMORPG<ワールドゲート>にハマってから初めてのゲーム内フレンドだった人だ。

 まだ黎明期であった頃、どういう方向性にキャラクターを成長させるかまだ決めて居なかった頃に出来た数少ないフレンドの一人で、俺に戦闘技術を叩き込んでくれた師匠と言っても過言ではない。


 当時の俺は大まかな方向性は決めていたものの、生産職と言うキャラクターを育てるにはどうしたら良いのか悩んでた時代でもあった。


 元々人付き合いが苦手だったこともありゲーム内では早々に孤立してしまうのは想定内だが、数年経ってもゲーム内でのフレンドが5人という孤立っぷりは当時の俺からしてみると想定外だったのだろう。


 だからこそゲーム内での仲間内でしか手に入ることが出来ない『生きた情報』と言う物が手に入り辛い環境にあった俺は全てにおいて出遅れ感が否めなかった。


 特に戦闘技術と言う部分は相当に後れを取っていた。

 

 才能が無い、そう言えば分かりやすいのだが素材収集には戦闘がどうしても回避出来ない面があり、これはぼっちプレイヤーにとっては相当のハンデとなり俺に重くのしかかっていた。


 そんなある日のことだった。


 B級ダンジョンを素材収集のため訪れていた俺は中層部で死に掛けていた。

 きっかけは単純なトラップに引っかかってしまったのが原因だった。

 そこからリズムが悪くなり、結果としてモンスタートラップに引っかかってしまい、大量のモンスターに追われる羽目になったのだ。


 俺の頭の中には死に戻りだな、と諦めモードだったのだがそこにひょっこりと現れたプレイヤーがグリモアさんだった。


 「ふん…雑魚が…」


 そう言うと白髪に長い髭を蓄えた老人風魔法使いキャラクターのグリモアさんは魔法すら使わず手に持っていた杖で数百体は居たモンスターをあっさりと退けたのだ。


 「………あ、ありがとうございます…」


 お礼を言う俺にグリモアは頭の先から爪先まで一瞥すると、


 「小僧、お前どうみても戦闘特化じゃねぇだろうよ。何故ソロでダンジョンに潜っとる?」


 「実は…」


 そこで初めて明かした自身の現状を話すグリモアさんは思いっきり笑ったのだ。


 「あっはっはっは! おめぇ…馬鹿じゃろうよっ!」


 そう言うとグリモアさんは休憩用結界を張り、俺に手招きをした。


 「まぁ小僧。取り敢えずこれ飲んで回復せい」



 それからちょいちょいダンジョン内で会うことが重なり、それがきっかけとなり、そしてグリモアさんからある依頼を受けることになる。


 「新しい…杖の新調…ですか?」


 「そうよ。そろそろアップデートしたいと思ってな」


 「なるほど。今使っているその杖を見せてもらってもいいですか?」


 「おうおう。じっくりと見てくれ」


 そう言い手渡された杖を拝見し、驚愕してしまう。


 「……これ…初心者向けの杖じゃないですか…」


 「そうよ。このゲームで装備品は最初に貰ったやつをつこうておる。長年愛用しておるから手に馴染むし使い勝手が良いしの。これと同じ感じでパパっと作って欲しくてのぅ」


 グリモアさんと知り合って半年程経つが、それだけ時間が経てばこのグリモアさんがどういう人かは既に知っていた。


 【 大賢者(・・・)グリモア 】


 この大賢者という二つ名がつく程に高名なプレイヤーで、今後公式がランキングシステムを一新する際に間違いなくトップランカーとしてランクインするだろうと言われていた。


 当時のグリモアさんと言えば攻防隙が無いプレイヤーで、何度も公式が開催しているゲーム内イベント【 超越者ランキングバトル 】で優勝したことは一度や二度では無かった。

 PvPで不利な後衛職であるにも関わらず遠近なんでもござれ、という位に熟練した戦闘技術はワールドゲート内のお手本と言われる程だった。


 グリモアさんの装備品はとても気になってはいたが、まさか初心者向けの汎用品を愛用していたとは思っておらず、この人は純粋にプレイヤースキルで世界のトップへとのし上がったのだな、と改めて敬意を抱いたものだった。


 そんなグリモアさんが装備品のアップデートをしたい、そう切り出したのその言葉から俺は違和感を感じていた。


 杖を返して一呼吸置く。

 そして俺は気になっていたことを言葉にして聞いてみたのだ。


 「グリモアさん…何か…壁にぶつかっているんですか?」


 俺の問いにグリモアさんの表情が少しだけ強張ったような気がした。


 「何故…そう思うんじゃ? 小僧」


 「……装備品にこだわらない、ある意味レアなプレイヤーが装備品にこだわり始める時って行き詰まった時、ですよね」


 再び沈黙が訪れた。

 そしてグリモアさんは大きなため息を付いて頭を掻いた。


 「小僧の言う通りよ。一人だけ…勝てない奴がおっての。名をリンドウ、と言う」


 「えっ? リンドウですか??」


 まさかの名前に俺は驚いてしまう。


 「ぬっ? 知っておるのか? まだ知られては居らぬプレイヤーかと思っていたが…」


 グリモアさんにリンドウとはかなり前から素材採集の依頼を出している数少ないフレンドだと告げるとバツの悪そうな表情を見せた。


 「奴と出会ったのは血盟戦クランバトルの時よ。儂が奇襲をし、本陣を目の前にした時に奴が現れたんじゃ。最初はさっさと片付けて、という感じじゃったのだがのぅ。まさか足止めされるとは思わんかった」


 その時は決着が付かずに終わったがそこから何度も戦場で相まみえるようになってから何回も足止めされるようになり…つい最近では負けることも多くなり…と言う具合で今に至るそうだ。


 「まさかリンドウがグリモアさんと対等に戦えるレベルだとは思わなかった…あいつ最近頻繁に装備品の補修依頼してくるがそう言うことだったのか」


 小競り合いレベルだと本人は言っていたが、よく考えたら小競り合い程度で補修が必要な柔な武器防具は渡してないもんな。


 「お主も鍛冶士界隈では名の知れた鍛冶士だと聞くでは無いか。儂からの依頼はリンドウを倒せる武器、これを受けてくれまいか」


 リンドウを倒せる武器…そんなピンポイントな武器なんて作ったことは無い。

 だが俺は無意識に笑みを見せていた。


 リンドウも最近妙に強い爺さんがいるから武器防具のアップデートの依頼を受けたんだけどライバル同士の装備品作成依頼か…面白いかも。


 そう思った俺は快諾した。


 「グリモアさんが壁を乗り越えられる武器の作成、承りました」


 「おぉ! 受けてくれるかっ!!」


 そして2週間後。

 グリモアさんは青い顔をして突っ立っていた。


 「小僧……これは一体どういうことじゃ? 儂はリンドウを倒すことが出来る武器、それをオーダーしたのじゃが」


 「えぇ。その可能性を高めてくれる武器。それが今右手と左手に持っている【 双魔の杖 】です」


 【 双魔の杖 】


 黒く長い杖と白く短い杖の二対一式で運用するこの武器はとある目的を持って制作された。


 だがグリモアは手にそれぞれ長い杖と短い杖を持たせているが魔法が一向に発動しないことにイラ立ちを覚えていた。


 「色々と調べたんですけど、グリモアさんが負ける時って近接戦闘が原因ですよね?」


 「うむ…そうじゃ。魔法という特性上、どうしても距離を取った方が有利であるからな」


 「俺も最初はそう思って威力向上だったりそういう方向性で考えていたんですけど、リンドウにグリモアさんがバトルしている時の映像見せてもらったんですよ。その時に気付いたんですけど、リンドウとの戦いで敗着の原因になったのって…近距離戦闘が原因だったんですかね?」


 「なんじゃと…?」


 「ちょっと戦闘映像を共有しますね。ちょっとここの部分見て下さい」


 そう言うと神鋼しんこうは戦闘映像をグリモアへ見せ、解析結果を説明し始めた。


 「そもそもグリモアさんって近距離戦闘めっちゃ強いんですよ。だからリンドウに狙われたのはここ。詠唱です。ここもそう、あの攻撃もそう、全て詠唱時間の中断や延長を意図的に誘導されてるんですよ」


 「……なんと」


 まさかの指摘にグリモアは黙り込む。


 「だから今回は魔法の無詠唱に挑戦してみました。それが今渡した二個一運用の杖です」


 今でこそ当たり前の技術、魔法の無詠唱技術だったが世界で初めてお目見えした瞬間でもあった。

 ワールドゲート内での魔法は基本的にステイタスUIに登録することから全ては始まる仕様となっている。


 登録した魔法は行使する際に魔導文字が凝縮した部品が立体的に出され、それを決まった順序で組み上げることで効果を発揮する仕組みとなっている。それをゲーム内では【 詠唱 】と呼んでおり実際に祝詞みたいな歌詞を読み上げる訳では無い。


 熟練したプレイヤーはこの魔導文字を凝縮した部品を早く組み上げることがとても上手く、個々人でカスタムした魔法を組み上げやすい調整を施した上で使用していた。


 目の前にいるグリモアさんもそのカスタムにおいてはトッププレイヤーに相応しい調整能力、及び組み上げ能力が高く、複雑多岐な部品をいともたやすく戦闘中に組み上げて使用して行くのだ。俺には無い戦闘センスの塊であるグリモアさん、リンドウ両氏に幾度となく嫉妬したのは秘密だ。


 話は戻るが、それを発動の仕方から根本的に変えてしまおうという意欲的な作品がこの【 双魔の杖 】であり、実はこの杖、コントローラーとして機能するよう開発してあった。


 「……おい…これ使うなら普通に詠唱した方が早いんじゃねぇか」


 「何言ってんですか。シミュレーション上では通常詠唱と比べて十分の一以下に時間が圧縮出来る可能性があるんです。頑張って使い方マスターしてみてください」


 「………」


 それから2か月が経った。

 俺の工房にリンドウが訪ねて来たがどうも文句がある口ぶりの様子だ。


 「お、おい! 神鋼しんこうっ! あのお爺の武器!! お前の作品だろっ!!」


 どうも話を聞くと血盟戦クランバトルでここ最近音沙汰のなかったグリモアさんと戦う機会があったそうだが、成す術も無くあっさりと敗れたそうで。


 「なんだよあの詠唱スピード! ってかあれ詠唱してんのか?? 即時速攻喰らったぞ! それも魔法でだっ!!」


 どうやら上手く使いこなせるようになったようで製作者としては満足、といった所でしょうか。


 その時、満足げで機嫌の良いグリモアさんが俺の工房にやって来た。それも鼻歌交じりで、だ。


 「小僧っ!! ついに雪辱を晴らしたぞっ! ……お主? 何故ここに?」


 「爺さんっ!!」


 そこから小一時間程居座った二人だったが、そこからあの悪名高い【 黒の剣 】が生まれるきっかけになるとはこの時は想像すらしていなかった。

【※ここまで読んで頂いた皆様へ大事なお願いがあります※】


ここまで読んで頂きありがとうございます。

拙作ではありますが、少しでも「面白い!」や「続きが気になる!」等々


と心の中に少しでも抱いて頂けましたら


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