初陣
気が付けばPVが1万を超えていました!
読んで頂いた皆様へ感謝を。
成功した。
俺は光の屑がまるで天に昇るその光景に目を細めて呟いた。
先程まで横たわっていた黒髪の青年の姿はそこにはない。
いま、ここに居るのは俺、神鋼たった一人である。
そして何となく空を見上げた。
「新生…再誕…新たに生まれ変わるのです」
神鋼は誰に言うでもなく、暗がりの空に向かって投げかける。
すると空から光の粒が落ちてきた。
最初は1粒、2粒と。
そして次第に落ちて来る光の粒は増え、落ちた先、即ち俺の目の前にまるで人の形を作るかのように落ちて来るのだ。
そして何百、何千、何万と落ちてきた光の粒はハッキリとした人の形を取り、色が着き始めて行く。
ぼんやりとした舞光が周囲に満ち、そして黒髪の青年の輪郭を作って行く。
「……俺は…」
黒髪の青年は呆けた顔でそこに立っていた。
欠損していた右腕は復活している。
それに気付いたのか驚いた表情で自身の右腕をさすり、そして俺の方を向いた。
「おめでとうございます。あなたは打ち勝ったのです。運命の女神に祝福を頂いたのです」
そう、この転生術式が成功した時のエフェクトを俺は知っていた。
ワールドゲート内ではこのお試しチャレンジが流行った時に成功した者がネットに上げた動画を見たことがあるのだ。
消失後の復活。
失敗時であればご丁寧に自身の視界には『お使いのキャラクターは消失致しました。メイン画面に戻ります』というウィンドウ表示がされそのまま消えたままである。
傍目からはいきなりキャラクターが消え、ステイタス諸々が全て消失されてしまうのだが、いきなりパッと消えてしまうので当時はあっさり消失とか言われてた記憶がある。
成功した時は徐々にキャラクターが消えていくがステイタスはそのまま残り続け、少しだけ時間が経った後に復活という手順を遂げるようになっていた。
ちなみにこの転生術式を作ったプレイヤーが言うには「そんなエフェクト、俺は知らない」だそうで。
何故そんなエフェクトが発生したのかはワールドゲート内の新七不思議の一つに数えられることになったのは余談である。
黒髪の青年は呆然と俺を見ていた。
そして無くなっていた右腕をしきりにさすっている。
「生まれ変わった心境はどうですか?」
生まれ変わり。
その言葉に黒髪の青年はハッとした表情を見せた後、いきなり跪いて頭を垂れた。
「神の御使い様だとは露知らず、失礼いたしました。改めてお礼申し上げます。新たな…このような力を与えて頂き…ありがとうございましたッ!!」
跪いたまま深々と頭を垂れる黒髪の青年に神鋼は驚き、そして視線をせわしなく右左と動かし始めた。
「……何か色々と誤解があるようですが、まぁいいでしょう。それよりも身体の方がどうですか? 何か異常はありませんか?? 例えあったとしても僕には何も出来ませんが」
「お、お陰様で…体調が良いというか良すぎるというか…何か新たな力が全身がら溢れ出ているようです」
「それは良かったです。そう言えばお名前をまだ聞いていませんでしたね」
「そ、それは失礼をいたしましたッ!! 私の名前は【ショウマ】と申します。以後、お見知り置き頂けたらと思います」
「ショウマさん、ですか。改めてですがこちらはヨウと言います。こちらこそよろしくお願いいたします」
そして神鋼は魔導錬金モードを立ち上げ、目の前にいるショウマのステイタスを解析した。
「ほぅ…とんでもない伸び率、ですね」
そこに記されているステイタス値は自分以外では見たことがない数値を叩き出していた。
************************
Name:ショウマ LV:1 Age:17
Job:剣士
License:魔狩人
Braver Rank:無し
HP:456
MP:0
Aura:558
ATK:252
DEF:125
STR:126
VIT:152
DEX:98
AGI:117
INT:35
SPI:178
MAG:0
LUK:666
GIFT
金剛不壊
豪運 ※NEW!
Skill
オーラバトラーLV1 剣士LV1 剣術LV1
剛力LV1 疾走LV1 精神耐性LV1
身体活性LV1 健康体LV1
************************
「従前のスキル構成は知りませんが…これ…レベル1にも関わらずとんでもないステイタス値を叩き出していますね」
基礎になった数値は分からないが、そこら辺のブレイバーのステイタスでは比較にならない程に向上していることからこれは相当のレアケース、即ち大当たりを引いたのだろう。新たにGIFTも獲得しているし。
「新たに【豪運】というGIFTを取得していますね…なんか…とても嫌な予感がするのは気のせいでしょうか」
ステイタスUI上に表示された【豪運】部分をタッチするも特に何も表示されることは無かった。【金剛不壊】も同様に先程のような解説が出ることもなかった。
「あの時表示されたのはなんだったんでしょうねぇ…まぁ【奇運】でなかったことを喜ぶべきですか」
神鋼が一人確認を行っていた所、突如としてショウマが声を上げた。
「ヨウ様ッ! いや、我が主、ヨウ様ッ!! 我が忠誠をお受け取り下さいッ!」
「い、いきなり…ど、どうしたのですか??」
困惑する神鋼を無視するかのようにショウマは帯剣していたショートソードを手に持って鞘に収まった状態で剣身を握り、それを地に着けた。
「我が剣は我が主の剣となり、行く手を阻む何者をも払う光とならんッ!! 我が魂は我が主の覇道を征く御身の盾と成るッ!! 全てを我が主に捧げ、全ては我が主のために振るわれるッ!!!!」
「……はっ?!」
5歳児に跪いて『宣誓』を行うこの状況に神鋼は今しばらくの時を必要とするのであった。
それから数刻の間、神鋼とショウマは忠誠の受け取りについて「受け取る」「受け取らない」という不毛な論議を続けていた。
「だからショウマさん、、そもそも僕の覇道ってなんなんですか…慎ましく魔導理論について研究をする、という目標から対極の位置にあるじゃないですかそれ」
「我が主、私のことはショウマ、と呼び捨て下さいッ! それでは周囲に示しが付きませぬッ!」
「いやだからですね。聞いてました? あなたの人生ですから好き勝手生きて下さい、そう言ったじゃないですか」
「何を仰いますかッ! 我が主がこの世界の神によって遣わされたその意味、私はこの身で理解いたしましたッ!! であればその覇道を征く剣となり、そして盾として私は生まれ変わったのですッ!!!」
「……ホントに暑苦しいですね…」
そんな不毛なやり取りを続けていた時も終わりの時を迎える。
遠くから人々の声が響き渡るのだ。怒声が一層大きく、激しく大気を震わせて行く。
大気が激しく震え、二人の耳朶に注意を引かせる程の音量で飛び込んで来た。
「……なんでしょうか。この重々しい雄叫びにも似た声は」
「主、どうやら北門の方から聞こえて来ます」
ジト目でショウマを見るも、これは只事では無い、そう思った二人は北門への方へ再度視線を向けるのであった。
「全力で押せッ!!!!」
「おぉぉぉぉ!!!!!!!」
北門から激突音が鳴り響き、北門を守っている兵士やブレイバー、魔狩人数十人が必死で門の扉を押さえ付けていた。
「門上の奴らは門に張り付いているオークを引き剥がせっ!!!」
「駄目だっ!! ここからは死角になっているっ! それ以上に魔物の数が多すぎるッ!」
現場を指揮する央軍の部隊長は即座に門から距離を取った場所に兵士やブレイバー、魔狩人を集め半包囲体制を構築していく。
「ありったけの柵を持って来いッ!! 弓隊と魔法部隊は後方待機っ!! 門が破られたタイミングで集中砲火を行うっ!! 準備急げっ!」
せわしなく動き回る人々の動きに一層の緊迫感が満ちて行く。
その直後だった。
鋭い打撃音が打ち鳴らしたかと思いきや門の隙間から勢いよく剣威が吹きすさび、門ごと吹き飛ばされていった。
門が破られた。
その現実に全員が必死になって向き合おうとするものの、どこかで諦めの表情をする者もちらほらと見え隠れしていた。
「くそっ! 籠城初日じゃねぇかよっ!!! これが破られたら最後だぞっ!!!」
「そんなこと言う暇があったらさっさと配置に付けっ!! もう破られるぞっ!!」
そんな死地となった北門周辺を給水塔から様子を伺う二人がそこには居た。
「我が主…これは…相当に不味い状況ですね」
「主じゃないのですが…それはともかく、不味いレベルでは無いですねぇ。北門が破られたらもうこの拠点は終わりでしょう」
『終わり』…その言葉にショウマは苦渋の表情を見せた。
「我が主にお願いしたいことがあります。大変厚かましいお願いではございますが…あの北門を守護する皆の元へと援軍に向かうことをお許し頂きたく存じます」
強い目の色をしたショウマは主であるヨウの側へと跪いて頭を垂れた。
普段であれば「まぁ勝手にどうぞ」と言っていた神鋼であったが、この時の様子がどうもおかしい。
「………主…あの…」
「却下です」
『却下です』…その言葉にショウマは驚き、そして困惑の色を浮かべた。
「い、いやですね? このままではどうしようも…引いては我が主の身の危険も…」
そう言うショウマに神鋼は手で制した。
「はぁ…まぁ…こういう世界に生まれた以上は…ですよね」
神鋼は北門を見据えていた。
「なんだか…ここ数日、随分と濃い、それはとても濃い時間を過ごした気分です。それこそ前世の人生を簡単に超える、そんな濃密な生を味わった気分です」
「あ、主…?」
困惑の色を隠せないショウマに神鋼は目を合わせ、そしてニヤリと笑みを浮かべた。
「まぁいいでしょう。こういう人生も悪くはない。ハイムもショウマも纏めて面倒を見ましょう。そう言うことでしょう? この世界へと飛ばした誰かさん??」
そう言うと神鋼は空の果てへと視線を向けた。
「ショウマ。あなたが今後、人生の全てを賭けて忠誠を誓うこの僕の力の一旦を見せましょう」
そう言うと神鋼の周囲に濃密な魔力が立ち込めた。
「おぉぉ…この力…」
その時、北門から大きな激突音が響き渡り、そして轟音が鳴り響いたかと同時に兵士達が吹き飛ばされていった。
「ぐぉぉぉっ!」
「これだけの人数を一撃かよっ!!」
「門周辺の奴らを早くどけるんだっ!」
「お、おいっ! 魔物が雪崩れ込んでくるぞっ!」
混乱の声と同時に一体の魔物が崩れた門の瓦礫を押しのけてゆっくりと侵入してくる。
「あ、あれは…」
「門に取り付いていた…オークジェネラルだっ!!」
通常身の丈3メートル前後のオークよりも大きな背丈、約5メートルはあろうかというその巨躯には圧倒的な武威を湛えていた。
紅い目が光る。
そして目の前の人間を見て下卑た笑みを見せる。
「オォォォォォォッ!!!」
急に発せられたその雄叫びに周囲の兵士達は緊縛状況となってしまう。
雄叫びに乗せられた武威を当てられた兵士達は彼我との純粋な戦力差を本能で感じ取ってしまった。
「あぁ…もう…終わり、だ…」
この給水塔にもオークジェネラルの雄叫びが響き渡った。
武威の乗ったその雄叫びの音紋にショウマは苦い顔をし、そしてショートソードに手をかける。
「この下郎が…我が主の前にそのような下卑た武威を当て付けるとは…」
そう言うと烈火の表情に変化したショウマは抜刀しようとする。
「ショウマ、待ちなさい」
魔力の嵐、そう言い換えてもおかしくない程の魔力がまき散らされる。
その量にショウマは少しだけ冷や汗を掻いてしまう。
「今日だけです…今日はあの身の程知らずな豚を討伐したら……即閉店です」
神鋼の魔力混じりの言葉に慌てて跪いて「御意」と短く答えるショウマ。
「さぁ…血祭りにするとしましょうか。かの大魔導士グリモアが一番弟子、この神鋼があなた達を…蹂躙します」
その言葉にオークジェネラルは紅い目を滾らせて、神鋼を見るのであった。
【※ここまで読んで頂いた皆様へ大事なお願いがあります※】
ここまで読んで頂きありがとうございます。
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