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神鋼のソウルスミス  作者: こぬさん
第一章  陸王の息吹は春の訪れと共に吹き荒ぶ
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襲来

よろしくお願いいたします。


 神鋼しんこうは大きく形の変わった人工魔石を小さな両掌で掴んだ。

 その瞬間、神鋼しんこうを除いた全員が冷や汗を掻き始め、そして片足を地面に着く者が次々と現れていった。


 「どうしたのですか?」


 その光景に神鋼しんこうは首を傾げる。


 「し、師匠…そ、それをは、早く動力部へお戻しくだ…さいっ!!」


 ハイムの言葉に「?」という顔を見せるも、目の前の調整済み人工魔石を見て、「あぁ」と呟き動力部へと至急戻した。


 人工魔石を戻し終わった直後、神鋼しんこうを除く全員が尻餅をついて荒い息を吐いていた。


 「な、なんてぇ魔力の波動だ…」


 その場を見守っていた鍛冶屋の親父が言葉を吐く。


 「とんでもない魔力の収束度…魔嵐の比じゃないぞぃ」


 と口々に感想を述べていった。


 「そう言えば結構な魔力の波動でしたね。そのまま何も考えず組み替えてしまい申し訳ないです」


 神鋼しんこうはそう謝罪したが本人は涼しい顔のままである。


 (あの魔力の波動の中心に居て痛痒にも感じぬとは…)


 デリンデムは感嘆の念を上げた。


 本人の底知れぬ素質に気付き始めた瞬間なのだろうか。

 だがそれを色濃く、人々に定着させる危機がすぐそこまで迫っていることはこの時まだ誰も気付いていない。


 「その部品はこちらに取り付けて下さい」


 神鋼しんこうは淀みなく指示を出し続けて数時間が経過した。

 動力部分のアップデートは全て終わり、機械的な動作チェックを残すだけとなる。


 「まさか…三日程度でここまでのことを成し遂げるとは…目の前で見ていたのに信じられん自分がおる」


 デリンデムの心の底から吐いた言葉に鍛冶屋の親父は同意する。


 「こらぁ間違いなく今まで手掛けた中でも最大の、生涯に残る仕事でさぁ」


 しみじみとした顔で鍛冶屋の親父は頷いた。


 「師匠、最後の動作確認をお願いします」


 この三日間はほぼ寝ず行った結果、ハイムの目の下には隈が出来ており、普段はキチンと整えられている赤髪もぼさぼさであった。だが見た目は疲労が色濃く出ているも、目の色の強さだけは三日前とは違ってより強く、そして輝いていた。


 「そうですね。では早速試運転と行きましょうか」


 その言葉にもう馴染みになった施設保守員達は急いでコントロールルームへと向かった。

 その後を追うように中にいた全員がコントロールルームへと向かい、神鋼しんこうの言葉を待っている。


 神鋼しんこうは全員の顔を見回し、そして頷く。


 「では試運転を開始します。まずは火をいれましょうか」


 施設保守員達はキビキビとした動作でコントロールルームの立ち上げ作業を開始する。


 「1番区画、魔導経路開放…クリア!」

 「続いて2番区画へ開放します…クリア!」

 「動力部魔導エネルギーラインを開放します!」

 「開放了解! まずはレベル1で稼働開始…」


 目の前の状況把握用魔導モニターは様々な数値を映し出していく。


 「ここまでは順調、ですね」


 ハイムは少しだけ安堵した顔を見せる。


 「魔導炉運転開始まで残りのエネルギー供給量、およそ30パーセントっ!」

 「えっ? もう? エネルギーの稼働効率が段違いだっ!」

 「3番、4番区画の開放急げっ!」

 「既に開始中ですっ!」


 いつものイージスとは打って変わったこの力強さに全員が戸惑いを隠し切れていない。

 このイージスシステムは一度火を落としてしまうと再稼働まで数日かかってしまうのだ。

 全員が長期戦を覚悟していたが、段違いの立ち上げスピードに全員が急ピッチで手順を進めて行く。


 「当然でしょう。動力部分を大幅に向上させたのです。今までとは違って当然です」


 神鋼しんこうはそう力強い口調で言うも内心では少しだけ心臓バクバクであった。


 (想定していた内容と現実のギャップが相当出ていますね…当初の予定よりも相当下回るエネルギー収束度でしたので満足する魔法障壁を展開するかどうか怪しかったのに…)


 今回神鋼しんこうは全員の感想とは真逆の感想を抱いていた。

 ゲーム内と現実世界が入り混じった世界、そう理解していたのだが、細部でちぐはぐな結果をこの三日間出し続けていたのだ。想定と違いすぎるこの結果に一番戸惑ったのは神鋼しんこうだろう。なまじ求める結果が高過ぎた結果、違う感想を抱いたことは当然と言えるだろう。


 そんなことを思っていた神鋼しんこうとは裏腹に施設保守員達は驚きの連続を味わっていた。


 「お、おい…エネルギーゲインがあっさりと振り切ってしまったぞ!!」

 「ちょ、ちょっと…これ魔導経路がこの負荷に耐え切れないんじゃ?!」

 「魔導経路は現在異常値出ていませんっ! 冷却も基準値で収まっています!」

 「ど、どのタイミングで魔導炉を稼働させるんだっ?! 数値が…以上なまでに上がっているぞ!」


 その時、。狼狽えている施設保守員達のとこに歩み寄った神鋼しんこうは涼やかなる声色で周囲に語り掛ける。


 「皆さん落ち着きましょう。理論値ではまだ想定の3割、といった所です。まだ十分に魔導炉へエネルギー供給がされていないのでこのまま供給を続けてください」


 「こ、これでまだ三割っ?!」


 「そうです。エネルギー動力部はまだまだ稼働序の口といった所でしょうか。もっと開放してください」


 その言葉に施設保守員達は絶句する。

 そして恐る恐るエネルギー流量を各区画ごとに上げて行く。


 「そうです。もっと上げて行きましょう」


 そこから数分後。各部取り付けられていたセンサーがコントロールルーム内へ警告音を響かせるが神鋼しんこうは「前の警告設定ラインを超えただけです。全体的にアップデートが施されていますので無視して継続してください」と涼しい顔で答える。


 ここまで来たらやるしかない、そう覚悟を決めた施設保守員達は更にエネルギーを加給していった。

 そして、稼働ラインまで立ち上がっていった。


 「魔導炉…8割まで上昇。動力部、格区画共に正常。魔法障壁展開可能ラインに到達しました」


 ここまで来るのにおよそ1時間程度で到達してしまったこの事態に神鋼しんこうを除いた全員が驚きを禁じ得ていなかった。


 「まぁ…まずます、ですね。想定よりも随分と時間がかかってしまいました」


 神鋼しんこうは数分位で立ち上がるとばかり思っていた。

 それはあくまでもゲーム内の省かれた世界が故であり、現実世界はそう簡単に進まないものである、そう神鋼しんこうへと大いなる経験値として刻み込まれていく。


 「ロロノマ司令官? 魔法障壁展開の号令をお願いします」


 神鋼しんこうに名前を呼ばれ少しだけ驚くも、この央軍拠点の最高責任者である自分が最後の指示を出すべきであると悟り、すぐさま号令を出した。


 「それでは…魔法障壁イージス、展開せよっ!」


 その号令に最後のボタンを押すとブウンッと重苦しい重低音が一帯を走っていった。


 「障壁展開開始っ!」

 「拠点の周囲から…10キロメートルほど離れた場所まで展開完了っ!!」


 「な、なに? ど、どこまで展開されたといったのか?」


 「拠点半径を大きく超えて…およそ10キロメートル先まで展開が完了しておりますっ!」


 その報告に全員が黙り込む。

 だがすぐに涼やかなる声色が割り込んでくる。


 「それは全体的な出力が大幅に上がっているので制御系がその基準に追いついて行っていないのでしょう。少々お待ちを」


 そう言うと神鋼しんこうは魔導錬金モードを立ち上げて魔導エディターで何やら魔導プログラムを構築し始めた。


 「……これで良し。基準を増強後に合わせました。拠点の周囲を囲む様に障壁展開しましょう」


 設定を弄っていく神鋼しんこうに周囲の大人達はついていくことが出来ない。

 指をくわえて見ているだけの大人達を尻目にさっさと調整を済ませて障壁展開領域を再設定する。


 「…再設定確認しました…拠点の周囲に沿う形で障壁が…展開されていますっ!!」


 このコントロールルームを管理する保守員の声に一同が「おぉ」と声を上げ、そして手を取り合いこれまでの健闘を讃え合っていた。


 「魔法障壁強度は…2000オーバー?!」


 声を昂りながら疑念を抱いた声を上げる保守員に周囲は「何? 誤検知か?」と手元のコンソールを使って確認を行い始める。


 「魔法障壁強度2000と言ったら…央都ロドの障壁強度よりも高くありませんか?」


 ハイムがデリンデムへと投げかける。


 「央都ロドの周囲を展開する魔法障壁は確か…1500程度だったと思う。勿論範囲がここよりも数百倍違うので一概に比較することは出来んが…」


 そう言い終わると横目で神鋼しんこうを見やった。


 「魔法障壁強度2000がどの程度の硬度なのか僕は存じ上げませんが、事前設計では元の3倍強を目指してますのでまぁ…妥当だと思いますが」


 そう言い終わると神鋼しんこうは側にあった椅子に腰を掛け、


 「とりあえず眠たいです。ハイム、僕を家まで連れて帰って下さい」


 そう言うと神鋼しんこうはすぐに眠りに落ちて行く。


 すーすーと年齢相応の可愛らしい寝息を立てる神鋼しんこうを見て周囲は何故だかホッとしてしまう。


 「寝てるときだけは年相応の子供だなぁ」


 「確かに。天使の寝顔、という奴じゃの」


 「師匠が子供に戻る瞬間、ですね」


 何とか難を乗り切った、そうそれぞれがようやく安堵した時であった。

 またしても急報がコントロールルームへ舞い込む。


 「し、司令官! ここにおられましたかっ!! すぐに司令室までお戻りくださいっ!!」

 

 慌てて入室する央軍の兵士に向かってロロノマは何事かと問い尋ねる。


 「敵襲ですっ!! 周辺哨戒隊から緊急連絡がありましたっ!! 魔獣の森、奥深くから魔物の群れを多数発見! 進行方向はここ、第126拠点を目指しております!! 数は不明ですが相当数いるとのことです!」


 魔物が群れを作って第126拠点へと移動している。

 この知らせに一同は驚愕する。


 「ま、魔嵐が続いているこの時期に…魔物の襲来だとっ?!」


 困惑の色を隠し切れないコントロールルーム内では神鋼しんこうだけが天使の寝顔でスヤスヤと眠りに耽っていた。



!!! 明日は所用があるので更新をお休みします。!!!


【※ここまで読んで頂いた皆様へ大事なお願いがあります※】


ここまで読んで頂きありがとうございます。

拙作ではありますが、少しでも「面白い!」や「続きが気になる!」等々


と心の中に少しでも抱いて頂けましたら


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