一方その頃…
切り方が中途半端になりそうなので短い話を挟みます。
(追記10/4)前に前書きで報告した気分転換の新作を先程投稿しました!
*新作*
俺でなきゃ見逃しちゃうね ~圧倒的なモブ感満載な俺が異世界で旅団を作ろうとしたんだけど誰か助けてっ!~
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それから1週間が経過した。
春嵐の勢いに陰りが見えた今日、珍しく晴れ間が空に広がっていた。
「ようやく春の訪れですか」
神鋼は窓から差し込む陽光に目を細め、そして机に目を落とした。
「この世界の素材構成比率はゲームと比べて大きく変更があることはほぼ確定ですね」
つらつらと書き並んだ文字の横にアラビア数字が記されてあった。
「基本素材の鉄から派生される特殊鋼の種類もほぼほぼ条件を特定出来ましたが、出来上がりのレベルはゲームの世界と大きく劣る事実を認めなくてはならないでしょうね」
ふむ、と一息吐いた神鋼はベッドの上に寝転んだ。
そりゃあゲームの時と全てが一緒な訳では無いことは百も承知なのだが、心のどこかでは腑に落ちない部分もあった。
作りたい物とその条件がさらに厳しくなると言うことはそれだけ困難の度合いが上がるという壁に少しだけ眩暈を覚えてしまう。
ゲーム時代でも相当に無理ゲーだったと思うが、それが現実へと持ち込むと無理ゲーから神ゲーになるのか、いや神ゲーだと逆の意味になるのか? なんて無体なことに思考を侍らせること数分。起き上がって身支度を始めるのだった。
一方、第126拠点から相当に離れた場所、央国首都ロドの一室にて初老を迎えた二人の男が応接間にて難しい顔を突き合わせていた。
「ふむ。分類で言うとショートソードだが…」
目の前には樹齢のが相当に重ねた大木の、それも中心に近く年輪が奇麗に浮かび上がった一枚板で作られた見事な応接机の上には敷物が敷かれており、その上にはショートソードが置かれてあった。
初老の男は一瞥し、思わず感嘆の声を上げてその手に取った。
「これは…鉄、だが随分と純度が高いのか? 一般的に流通される粗鉄とは比べ物にならんが…」
初老の男は手に取った剣を更に目を凝らした。
「この素材の均一さは何なんだ…我が鑑定スキルで診ても見事なまでの調和が取れておる…」
「お前の目から見てもそれは名剣に分類するか?」
同じく目の前に対座している初老の軍服風衣装を身に纏った男の言葉に無言で頷いた。
「然り。だがこれは名剣という言葉では言い表す事は適切ではないな」
そう言うと剣先を若干天に向けてかざし、刃面の面を指でなぞった。
「この剣はお手本、そう言った方が適切だろう。我ら鍛冶士にとって攻防得意の差、お主にも分かり易く説明するとすれば鍛冶士にとって作らせる創造物の好みはあれど、基本の形と言うのは決まっておる。どんな鍛冶士も最初はまず剣、それもショートソードから最初の一歩を踏むのだ。この世にありふれた小剣を持って己の基本形、即ち、型を鍛え上げるのだよ」
初老の男、いや初老の鍛冶士はそう言うと、斜めにかざしたショートソードの剣先を天井へと向け、それと同時に視線を上下に辿った。
「単純で、だからこそ鍛冶士の基本が色濃く出て、それでいて同じ形は無く、ある意味己の個性を一番表す武器、それがショートソードなのだ」
「鍛冶士にとっての名刺みたいなものか。一端の鍛冶士は腰に必ず小剣を差しているのもそういう意味か」
「左様。鍛冶士の力量を表す…まぁ誇りを表した物とも言えよう」
そう言うと初老の鍛冶士は無意識に腰元に差している小剣を撫でた。
「しかしお手本とお前が評するとは。となるとこの製作者は少なくとも鍛冶士として一級の実力を持つことになるが…」
「一級か。それは違うな」
自らの言葉に対してそれを否定する様に初老の鍛冶士は首を少しだけ傾けた。
それに対して目の前に対坐する初老の軍服風衣装を身に纏った男、いや明らかに軍人と思われる男は否定されるとは思ってもおらず即座に言葉を重ねた。
「これはお手本、今しがたそう言うたではないか」
「確かにお手本とこのショートソードを評したがな。これは無個性なのだ」
「無個性…?」
「左様。これは調和のみを目的とした剣。突き抜けた個性も嗜好も何も匂ってこんのだ。これだけ丁寧に素材を生かし、そして仕上げたにも関わらず見事なまでの調和が取れておる。土台がここまで上手く仕上げられているのならここから味付け、個性を乗せてくるのが鍛冶士というものだ。儂ならここから切れ味に特化した一品に仕上げているだろう」
そう言うとショートソードの剣先を下げ、柄を対座する初老の軍人に向けた。
無言で受け取ると初老の鍛冶士は振ってみろ、と告げた。
「ふむ。振り抜き感が抜群だな」
「扱いやすさはどうだ?」
「とても良い。重心の位置が良いのか癖が全くないな」
「それがそのショートソードの答えだ」
「なに?」
「扱いやすさ。あえて個性を付けるとすれば取り回しや扱いのしやすさ。このショートソードは初心者向けなのだ。剣を振る者にとって変な癖が付き辛く、バランスを重視した剣。だから儂はこの剣をお手本と評したのだ」
初老の鍛冶士の言葉に応接間では沈黙が満ちる。
「鍛冶士にとって何が大事なのか、威力か? 堅牢さか? 若しくはその両方か? そうじゃない。最後の最後に行きつく先は調和が最も大事なエッセンスとなるのだ。一流とそれ以下はその見極めに大きな差が出てしまうものなのだ」
そう言うと初老の鍛冶士は少しだけ息を吐いた。
「これは鍛冶士としてのセンスのみを表現した一品、そういえるじゃろう。まさかこの年になってこうしたお手本に出会うことになるとは…」
初老の鍛冶士は苦笑を表情に讃えると薄曇りのかかる空に向かって視線を移し、そして目を細めていた。
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