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神鋼のソウルスミス  作者: こぬさん
第一章  陸王の息吹は春の訪れと共に吹き荒ぶ
12/40

鋼と波 1

昼更新!!

結構お気に入りの2人なんです。

 外縁拠点と呼ばれる地域がある。


 これは第1域中央政府都市【 ロド 】を中心として最も外側にある地域のことを指し示している。そして中心から離れれば離れるほどに治安は悪くなる傾向があった。治安が悪くなる理由は様々あるが、一番大きな要因はやはり掃討部隊が駐留しているかどうかだろう。


 世界における人類側戦力を整理してみると大まかに二つが存在する。


 それは中央政府が抱える固定戦力が一つ、それとは独立した戦力がもう一つあった。

 中央政府が抱える戦力のことを【 央軍 】と呼び、政府直下の強力な軍機能を持っていた。

 央軍が課せられた役目は主に二つ。一つは都市圏防衛である。この世界に人類が生存している地域には一部を除いて外敵、言わば魔物が溢れる場所に拠点を構えている。それの防衛任務を受け持っていた。


 もう一つの役目は治安の維持である。


 現在中央政府があるロドを中心に開拓拠点を多く構えていた。その治安維持を央軍が受け持っていた。もちろんこの第126拠点にも小規模であるが央軍の拠点がある。拠点周辺の魔物を狩るという外敵の排除と拠点内の治安を受け持っているが、全てを十全に請け負いきれているのかと言えばそうでもない。


 この広大な世界に拠点を多く築き維持していくには人、物、金が多く必要になるが、中央政府だけでは全てを受け持つことに財政的な面で多く課題を抱えていた。その解決策として生み出されたのが【 ブレイバー 】、いわゆる民間の力であった。


 ブレイバーの歴史は古く、中央政府が出来た同じ頃に出来たと言われている。

 央軍とブレイバーの属性は大きく違っており、活動内容や方針も全く異なっている。俺が地球に居た時の常識に照らし合わせるのなら公的機関と民間機関の差、といった方が解り易いだろう。


 央軍は中央政府直下の組織であるため公的機関の色がとても濃い。命令系統も中央政府の元老院が司令を下した命令のみを忠実に従い活動を行っている。


 一方のブレイバーは今では世界ブレイバー協会という組織を築いており、そこの運営には中央政府と距離を置いた構成となっている。協会幹部も基本的には元ブレイバーであり、半分は大手クランのクランマスターで構成されている。


 ブレイバーの目的に治安の維持や防衛といった概念は無い。個人事業主が商売として魔物を狩る、そう言っても過言では無いのだろう。だからと言って治安の維持や防衛に全く手を貸さないかと言えばそうでもない。中央政府から依頼という形で仕事を貰うことで両者の関係は適切に保たれているそうだ。


 そんな中、外縁地域の外れにある第126拠点に所属している央軍とブレイバーの間で変な噂が流れていた。


 『凄腕の鍛冶士がいる』


 錬士でありながら魔鉄を独自の精製技術で魔鋼へと錬成する事が出来て、その装備品は中央に負けない品質を誇るそうだ。この拠点は歴史が浅い故に他の古く生存している拠点と比べるとあらゆる面で足りない物があるせいで慢性的な物資不足が顕著であった。それでも10年以上この拠点が生存しているのは他の地域と比べてこの地域が比較的穏やかであるからであるのだろう。

 その結果として防衛に多くの戦力を割く必要がなくなり、拠点整備が後回しになったのは皮肉な結果だとも言える。央軍の大規模駐留拠点は無いが、その代わりに多くの魔狩人アマチュアやブレイバー(プロ)が出入りしており、民間の流入も激しい地域であった。


 一方、地政学的面では第126拠点のすぐ北にある魔獣の森が位置しており、そこは魔獣が多く蔓延る地域として周辺を脅かしてはいたが、その多種多様な魔獣の影響で質の良い魔獣の皮が多く市場に出回っていた。

 交易商人達はこの魔獣の皮を目当てに仕入れに来るのだが、鉱石類はほぼ産出しない環境のため質の良い武器には恵まれない土地柄であった。数打品が多く普及する中でブレイバーや魔狩人達はより良い武器を求めて交易商人達に武器の調達を依頼しているのだが、そういう武器は最前線の地域に優先的に卸している影響で中々難しい状況であった。


 そんな中、まことしやかに流れた情報の真偽を確かめるべくその噂の出処である鍛冶屋には連日ひっきりなしにブレイバーや魔狩人問わず訪れていた。


 「あなたレベルであればこのショートソードで十分ではないのですか?」


 そう言うと神鋼しんこうは手に取り乱雑に扱われてくたびれたショートソードを哀れそうな目で見ていた。


 (そもそもの作りが悪いのはさておき、使い手の未熟さで本来の力を出し切る前に寿命が終わりそうな勢いですね)


 刃の状態を見るとちゃんとメンテナンスをしてないことがよくわかる。油を雑に拭き取った結果、かけた部分に多くの油が詰まっており、それが切れ味を更に鈍らせている。重心一つとってみてもブレがでており、芯が明らかに狂っているのだろう。斧でも無いのに力任せに断ち切ったのが明白だ。正直言って買い直した方が手間がかからず良いのだろう。だが…こんな風に使われた剣の無念さを心のどこかで感じてしまう自分もいた。


 (お前も不憫な主人をもったものですねぇ)


 「……本当にお前が魔鋼で名剣を作る鍛冶士なのか…?」


 このくたびれたショートソードを差し出した魔狩人の若者は訝しげにこちらを見ている。それもそうだろう。開口一番こんな子供にディスられているのだから。魔狩人の若者は後ろに控える鍛冶屋の親父に目線を向けた。すると、


「お前の言いたいことはわかるがまぁ…坊主の言う通りだな。うちにも同じ材質で出来たショートソードがあるからそれ買ってけ」


 鍛冶屋の親父の言葉に言葉を詰まらせてしまう魔狩人の若者。だがそれに待ったを神鋼しんこうはかける。


 「まぁ、いいでしょう。このショートソードを仕立て直してあげましょう」


 そう言うとショートソードを魔導錬金モードであっという間にインゴットに変えてしまう。その様子に魔狩人の若者はもちろん、後ろに列になって待っている魔狩人達から「おおぉ」と感嘆の声が上がった。


 (随分と不純物の多いですねぇ。粘りと硬さのバランスが滅茶苦茶だ。まずは素材の調整からしていきますか)


 インゴットから不純物が取り除かれると神鋼しんこうは少量の魔素と炭素、魔石を配合した配合剤を混ぜ込んでいく。


 (比率は99:1の割合で良いでしょう。この使い手は非常に未熟なのでバランスブレンドでいきましょうか)


 素材の配合を変え成型を終えるとそこには先程のくたびれたショートソードとは思えないほどの立派なショートソードがそこにはあった。


 「ふむ。こんなところですか」


 新生、そう言い換えても良いほどに洗練されたショートソードの剣身は鉄本来の光沢を兼ね備えていた。鈍く光るその剣身に一同は生唾を飲み込んだ。


 「どうぞ。手に取って確認してみてください」


 神鋼しんこうがショートソードを差し出すと魔狩人の若者はおずおずと手を差し出し受け取った。


 「すげぇ……なんて美しい剣なんだ…」


 そこまで言う程のものでは無いのだが、まぁ製作物を褒められるのは悪い気はしない。神鋼しんこうからしてみるとこんな低レベルの出来損ないを売りつける行為など死んでも出来ないとゲーム内では思っていたが、今の環境や実力では最盛期の神鋼陽しんこうように遠く及ばないのは事実。また一からやり直しだなぁと作り替えたばかりのショートソードを見て一人心の中で呟いた。


 「いくら武器が良くてもあなたの腕が未熟ならその剣ですら使いこなすことは難しいでしょう。今後はメンテナンスをちゃんと行って適切な状態を維持することが今回の依頼の条件となります」


 そう言うと無言で魔狩人の若者は首を縦に何回も振った。


 「ということでメンテナンスお願いしますね」


 と後ろに控える鍛冶屋の親父は真剣な表情で首を縦に振った。


 「あぁ! 名剣にふさわしい状態を保てるよう全力でやるぜ!」


 ふんすっ! と息を荒立てて握り拳を作る鍛冶屋の親父を見て神鋼しんこう


 「そこまでの品ではないんですけどねぇ。精々頑張ってください」


 と無表情で返すのであった。




 そして舞台は少しだけ変わって第126拠点内にあるブレイバー・魔狩人馴染みの酒場に移る。


 「がっはっはっは!! 俺はこの剣と共に駆け上がっていくぜ!!」


 この拠点で唯一の魔鋼製武器所持者であるシフはほろ酔いながらも酒場で叫んでいた。

周囲からは怨嗟染みた声が産出し始める。


 「ちっ! 運が良いだけでだろうに」

 「だがその運が俺らブレイバーには必要だろ」

 「俺もあの若すぎる鍛冶の坊やに頼み込んでみようかな」

 「そう思った奴が駆け込んでいるらしいが全然作ってくれないそうだ」

 「何でも持ち主を選ぶそうだ。お前には相応しくないって言われるらしいんだが、代わりに作り直した剣が魔鋼製に劣らずやべぇらしいぞ」

 「まじで? 俺も明日朝一番に行ってみるか。そろそろ魔嵐も終わる頃だし」


 様々な声が聞こえてくる中、2人の客が酒場へと入ってくる。


 細身の男と大柄の男2人は酒場内をぐるっと見渡し開いている円卓へ向かう。

 座った2人はウェイターへ麦酒を注文し、持ってきた木製のカップを受け取り大仰に酒を呷った。


 「ふん。酒精が低い。如何にも小便臭い小僧が飲む代物だな」


 「人族が飲むにしては上等な酒だろう。味わい自体は悪くないしそれに安く上がって丁度いいのではないのか」


 細身の男の言い分に大柄の男は「ふむ」と短く相槌を打つと、また同じ酒を頼んだ。


 「ところでよ。こんな辺鄙な人族の村にわざわざ逗留しなくてもそのまま行けば良いのでは無いのか?」


 大柄の男の言葉に細身の男は少しだけ上目になった。


 「こうよ。如何に我らとて彼奴の波動に無策で行く程愚かな真似は出来まい?」


 「それはそうだが、今は大分弱ってきておる。目覚めの時が近いのならそこまで大層な真似をしなくても」


 「本当に目覚めが近いのなら、だが」


 そう言うとは麦酒を呷った。


 「俺はそうは考えていない。だからこそじん様は我々を派遣しておるのだ」


 の言葉にこうは少しだけ考える素振りを見せる。


 「ふむ。確かに。我らを勅使にとの意図を考えればさもあらん」


 「宿にて入念な術を施す故、数日はここに逗留する予定だ」


 「あぁ。仙術はの専門だしな。俺に異は無い」


 そうこうは言った後にまるで話題を変えるかのように周囲を見渡した。


 「それにしても愚図共が騒ぐ騒ぐ」


 「酒場とはそう言うものだ」


 こうは騒ぐ集団のうち、ある1人が剣を掲げている様を目に留めた。


 「……あの男が持つ得物」


 「…なんだ?」


 そう言った後にも騒ぎの中心へと目を向けた。

 そして掲げられていた剣が視界に入る。


 「……ほぅ。業物だな」


 は目を細めて片刃の剣へと注視する。


 「魔鉄で出来ているみたいだな。それに形状が刀に近い」


 「人族にも刀が伝わっているのか?」


 は少しだけ逡巡する仕草を取った。


 「振るって見ないと何とも言えないが、形状だけで判断すれば刀の部類に入るかもしれん。それよりもアレを作った鍛冶師はこの村にいるみたいだぞ」


 「ほぅ。我が里にもあれ程の業物を作るものは極僅か。それを人族が作ったのか。それなら明日にでも行って見るか?」


 こうの問いかけには首を横に振った。


 「興味はあるがあの程度であればわざわざ縁を繋ぐほどでもあるまい。あの我儘小僧以外で人族との干渉は少ないに越したことはないからな」


 「そりゃあそうだな。それに我々が使うには少し脆弱にも感じる」


 こうの視線の先から掲げられた刀が外れる。

 そして骨つき肉にフォークを刺すと勢いよく齧り付いた。


 「うーむ。人族は食に関してだけはどの種族をも超える才があるようだな」


 そう言うとガハハと重苦しい笑いを飛ばし目の前の食べ物を片付けていく。


 「我も明日に備えて蓄えるとするか」


 周囲の喧騒は夜が深まると共に益々栄え、そして日が明けるころには静寂を取り戻していった。


【※ここまで読んで頂いた皆様へ大事なお願いがあります※】



ここまで読んで頂きありがとうございます。

拙作ではありますが、少しでも「面白い!」や「続きが気になる!」等々


と心の中に少しでも抱いて頂けましたら


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ぜひこの拙作のモチベーションを維持して頂くためにも、何卒宜しくお願い致します。

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