父と子 1
間章みたいな話です。
(追記10/4)前に前書きで報告した気分転換の新作を先程投稿しました!
*新作*
俺でなきゃ見逃しちゃうね ~圧倒的なモブ感満載な俺が異世界で旅団を作ろうとしたんだけど誰か助けてっ!~
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「はぁ…どこかで人体実験をさせてくれて尚且つ、文句を言わず、むしろお礼を言ってくれて生涯かけて忠誠をかけてくれる都合の良い人材がどこかに転がっていないですかねぇ」
春の陽気とはかけ離れた熱が籠り、金属と金属が打ち据えた甲高い音が鳴り響く部屋の中でそんなことを独り言ちるとすぐに「おめぇそんな馬鹿なこと言ってないで手伝えこの野郎」と野太い声が聞こえてくる。
「親父さん、僕は鉄を打ち据えるなどという野蛮な、いや低俗な行為はやったことが無いのです」
「誰もおめぇにそんなことやれって言ってねぇよ。それよりもこの出来上がりをチェックしろってんだ」
鍛冶屋の親父が手にしているのは片側だけ刃が付いた剣で、まだ成型しただけの状態だった。
「………もっと全体を打ち慣らして下さい。成型するにはまだ早いですよ」
「ちっ! これ以上打ち鍛えると強度を保てなくなるほど薄くなるぞっ!」
「じゃあスクラップにしてもう一度鍛え直せば良いんじゃないんですか?」
「……簡単に言ってくれるなぁおい」
苦虫を嚙み潰したような表情を見せるも鍛錬用ハンマーを振りかざして鍛え直し始める。
「音が弱いですね。もっと力込めた方が良いんじゃないんですか?」
神鋼の問いかけに鍛冶屋の親父の動作が一瞬だけ止まる。すぐに打ち据える金属音が一段甲高く鳴り響いた。
「いい音ですねぇ」
春の陽気と鍜治場の熱気に包まれながら視線は中空に移し、そしてまどろみ始めた。
あの4人組のブレイバーと鍛冶屋の親父に出会ってから丸1週間が経った。
ゲーム以外で、それも現実世界で初めての武器を魔導錬金にて作った神鋼は内と外の評価差に戸惑いを覚える1週間でもあった。そんな中神鋼は考えに耽っていた。
ゲーム内で鉄を魔鉄に変えることなんで朝飯前であり、いや、そもそも論として魔鉄なぞ序盤にのみ活躍する程度の低級素材なのだ。それに素材を十二分に引き出し尽くすことなんて当たり前のように出来たはずだった。だが現実はそう甘くなかった。
実際に目の前に出来上がった魔鋼製のロングソードは及第点に遠く及ばず、性能だけで言えばゴミと言わざるを得ないものが眼前に突きつけられる。ゲームと現実は相当に乖離している、そんなことなぞ転生してすぐに思い知らされた事実であったにも関わらず一瞬だけ呆然としたのだ。
(腕が落ちたって言うレベルじゃない。新しいルールがミックスされた別物のゲームを現実で体験しているかのようだ)
神鋼は頭の中でこの状況について整理を始める。
俺がこの世界に転生してから成しえたこと。
最大の成果物はやはりステイタスUIをこの世界で作り上げたことだろう。正直言ってアレを作ることが出来るかどうかなんて自信が全くなかった。やることないし、暇だから取り掛かってみるか、といった具合に最初は考えていた。
だがいざ作り始めてみると思いの外難しく、実現には高い壁を感じたものだった。だが俺は昔からだったと思うが、高い壁を見てしまうと超えたがる癖、いや生来に染み込んだ生き方なのだろう。そういった部分があり、結果としてステイタスUIを作り上げたわけだ。勿論まだ完成では無い。
今もなおバグは後を絶たないし、特に魔導錬金モードの不具合は見過ごせないレベルだ。魔鉄レベルを作ることは問題無いが、高いレベルでの安定には程遠い状況で、細かい指示を受け付けない状況下にある。こんな状況じゃ神鋼装備なんて夢のまた夢だ。
この世界においてゲーム内の魔導構築理論が通じるというのも大きな出来事だった。
何故かはわからないが、ゲーム内の魔導文字が、理論がそのままこの世界へとインストールされた状態なのだ。ただ、現実世界とゲームの世界を100%一致させることは恐らくは不可能なので、結果については相当アレンジされているように思える。
そもそも論として魔導文字が魔法言語表記に使われているのだ。この世界の言語体系とは明らかに異なるものなので、世界の魔導学者達は本当の意味を知らないで使っている節が多々ある。そういう意味ではもしかすると俺はこの世界で唯一の真なる魔導士なのかもしれない。他にもいるかもだけど。
最終的な目標はやはり神鋼装備を作ることなのだが、そのために超えるハードルは非常に高い。
何せゲーム内でもアレを作り上げるために世界を駆けずり回った位なのだから。特に困難を極めたのが神鋼装備の核となる『心核』だろう。ゲーム内では魔王級の魂をカスタマイズしたのだが、この世界で同等の心核を手に入れることがそもそも出来るのか非常に怪しい。
それにただカスタマイズした物じゃない。相当に魂魄をいじりまくったのだ。アレを一から、それも器に合わせる作業を行うことに今から気が滅入るレベルである。
そんな愚痴めいたことを言いつつも、何故かわからないが疼く体を宥める。
結局はあれだけ高いハードルだったにも関わらず、俺は超えたがってるのだ。もう一度この手で作り上げたいのだ。そして、ゲーム内ではあれ以上無理だった、その先を見たいのだろう。
「やること山積み。だけど心が欲しがっている。あの経験を」
身を起こし、鉄と格闘している鍛冶屋の親父を横目にステイタスUIを立ち上げると、新たなコードを書き始めるのだった。
魔嵐がまだ吹き荒れる夕方。
いつもの酒場ではやることも無く、毎晩飲み歩いている4人組が円卓に集い、いつものようにバカ騒ぎを行っていた。
「はぁぁぁ?」
濃い色をしたエールを半分だけ飲み干した後、木製のジョッキを止めて「今なんて言った?」と聞き返す。
「おめぇんとこの息子が鍛冶屋の親父を弟子にしたってな」
「……なんか単語の順番が逆じゃねぇか?」
普通ならば鍛冶屋の親父が息子を弟子に、という話だろうとマディは間違いを訂正するつもりで聞き返した。あの少し変わった愛息なら5歳で弟子入りなんてし兼ねないと思っていたからだ。
「間違っちゃいねぇよ。お前の息子が鍛冶屋の親父を弟子にしたんだよ」
「はぁぁぁ? いくら酒の席だからってそりゃあお前、おかしいだろうが」
止めていたジョッキを進めてエールを飲み干し、近くにいた店員に同じ物のお代わりを要求する。そしてすぐに運ばれてきたエールに口を付けた。
この時は酒の場での冗談として捉えていた。だが見事に裏切られる結果となる。
「まぁ普通はお前の言う通り逆だろう。だがな、あのお前の息子だ。またやらかしたってことなんじゃねぇか?」
その言葉に少しだけ最近の愛息を思い出す。
『父上! 今日から鍛冶屋に出入りするので日中はいません!』
「……なんか言っていたな」
「だろう? 何でも魔鋼を作り上げることができるとか」
その言葉にお代わりのエールを盛大に噴き出してゴホゴホと咽るマディ。
「おいっ! おめぇ汚ねぇだろうが!!」
「ゴホッ! ゴホッ!! お、おい! ちょっと待て…」
何の冗談、そうマディは改めてどういうことかと問いただすと以下のような答えが返ってきた。
「通りがかった愛息がブレイバーの装備にケチ付けて、更に上等な装備に作り替えた…だって?!」
何を言っているのかわからねぇと思うが…(略)
まだ2杯目にも関わらず、酔いが回ってきたのかと思うくらいに頭がクラクラとしていた。
確かにうちの愛息は変だ。
父親である俺ですらそう思う。何せ1歳になる頃には既に喋っていたのだ。それも喋られることを隠すような素振りすらしていた。そして2歳になる前にあの難解な魔導学士たちが日々研究に明け暮れている魔導言語の研究を行っていたのだ。周囲からは変を通り越して、神童を更に通り越して、人の皮をかぶったナニカとまで言われている始末だ。母ネリサですらわからないレベルの魔導理論と思われる内容を書き連ねている愛息に少しだけ寒気がしたのは事実だ。
『この子が成人したら一体どんな子になるのかしら…心配だわ』
母ネリサが言っていた言葉を急に思い出す。
どんな子、いやどれだけ突き抜けた子になるのか。
一瞬だけ寒気が体を襲い身震いをしてしまう。
その日、珍しく飲み会を切り上げたマディは帰宅するのだった。
「あら。今日は随分と早いお帰りなのね」
まだ宵の口に入ったばかりなのに帰ってくる夫になにかあったのかしら? といった様子だったが、マディがやけに真剣な顔をしているのに気付く。
「ヨウはいるか?」
「ヨウはもうご飯を食べて今はいつものように自室にいるはずよ」
「そうか」
短く告げた後、その足でヨウの自室まで向かうマディの後ろ姿を見送るとネリサは
「あの子、また何かやらかしたのかしら」
と深いため息と共に呟くのだった。
「ヨウ? 入るぞ」
掛け声と同時に部屋に入るとマディは思わず「うっ!」と唸り声を上げた。
「……父上? 何か御用ですか?」
床には紙が散らばり、その中の一枚に目を落とすと何やら見たこともない文字が羅列されていた。
その一枚を拾い上げて書いてある内容を見るもさっぱりわからない。
「そこに置いてある物は理論構築用のメモみたいなものです。あまり参考になる内容ではないですよ」
「えっ? あぁ、そうみたいだな?」
メモみたいなものだと言われてもそもそもそこに書いてある内容自体が理解の及ばない領域である。苦笑しつつも元の場所に置き、愛息との距離を詰めた。
「勉強しているところすまんな。いやな、実はさっき不可解な噂を耳にしてな」
マディが切り出すと神鋼は「あぁ、そのことですか」と興味なさげに答える。
何となくだが嫌な予感がしつつも、ここでしっかりと聞いておかねば、そう思いあえてマディは話を進めた。
「鍛冶屋の親父がヨウに弟子入りなんてな。まさかそんなことあるわけないよなぁ?」
「もちろんですよ。父上」
愛息の否定にマディの心は一気に軽くなったような気がしたのだが、それはすぐに裏切られることとなる。
「そ、そうだよな。そんなわけが――」
「あのようなレベルで僕の弟子なるなんて100年は早いと思います」
「……はっ?」
「あの親父さんは一応ではありますが錬士という資格を取っているそうなのです。聞くと何やら鍛治の学校でしか取れない資格というではありませんか。しかしながらいざ剣を打たせてみたらびっくりしましたよ。腕も未熟、技術も未熟、鍛冶士として必須の知識も未熟、まだまだひよっこのレベルなのですよ。そんな未熟者が弟子入りとか言う前にもっと真剣に鍛治に対して研鑽してもらわないと大人としての矜持なんて保てない、そう思いませんか? 父上」
「……そ、そうだな」
「弟子にするかどうかは今見極めている最中ですが、こちらも色々と忙しい身ですから」
「………」
「話はそれだけですか??」
可愛い顔をした天使の微笑みが何やら黒いモノを感じてしまいマディは引き笑いを見せることが精一杯となってしまう。
「い、いや。勉強の邪魔して済まなかったな…根を詰めすぎないように…な…」
そのまま部屋を後にしたマディはリビングに置いてあるダイニングテーブルへと向かい、深く腰をかけた。
「噂より性質悪いじゃねぇか…」
深い、それは深いため息を吐き出す。
その夜何百回目かの夫婦会議を行ったのは言うまでもなかった。
【※ここまで読んで頂いた皆様へ大事なお願いがあります※】
ここまで読んで頂きありがとうございます。
拙作ではありますが、少しでも「面白い!」や「続きが気になる!」等々
と心の中に少しでも抱いて頂けましたら
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