第3話 幼女は魔術師と逃げる
前半は三人称、後半は瑠華視点になります。
エルフが厭い、蔑んでいたハーフエルフ……ジークナートの手を取り、召喚された子供は微笑む。
今まで、エルフの説明を受けていた時には見せなかった笑顔を、よりによって「混ぜもの」なんかに!
そういきりたったエルフは――直後、冷ややかな子供の目に睥睨され、押し黙ることになった。
「では、おささま?」
「……なんだ、異世界の小娘よ」
渋々、という様子で子供に応えた集落の長は、自分のいとこに当たる青年の手を取った彼女の、心底楽しそうな笑顔に息を呑んだ。
「ジークナートをさらって、にげさせていただきますね!」
その言葉に、は? とエルフたちが疑問を漏らす前に。
――ぶわり、と強く風が吹いて。
その風はみるみるうちに強くなって、突風としてエルフたちを襲い。
子供――瑠華を中心として、台風のように吹き荒れる。
そして、その風が収まった時には、瑠華とジークナートの姿は、既に里のどこにもなかった。
■
「……っ!」
「……ここっ!」
ぽふん、と。
私たちの落下地点に出現した風のクッションに受け止められ、私とジークナートは無傷で空の旅を終えた。
ふっふっふ。
今頃、闇エルフたちは私たちが転移したと思って必死に探して居るでしょう……単純に強い風を吹かせて、その風に乗って森を飛び出しただけとは思わずに!
「……びっっっくりしました!!」
「わっ。えーっと、ごめんなさい」
あ、声も出せずに硬直していたジークナートが復活した。うん、驚かせてごめんなさい。
「とりあえず、ジークナートさん……」
「ナートでいいですよ。母にはそう呼ばれていたんです」
「わかりました。じゃあ、ナート」
「はい」
「わたし、おうちに――もとのせかいにかえりたいのだけど……。その、わたしについてきてくれる?」
ぱち、と彼は目を瞬かせて。
「もちろん!」
嬉しそうに、笑ってくれた。
補足コーナー
・瑠華の魔法レベル
基本的に簡単な魔法しか使えない。そこはまだ子供なので。
が、風を吹かせるだけの魔法を出力をあげて使って「転移した」というハッタリに使ったり、頭の回転の速さで子供の魔法も武器にしてしまうのが彼女の特徴。
ちなみにエアクッションを作った魔法は、母親である風香が「高いところから落ちた時はこれで安全に着地しなさい」と教えたものです。