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そこにある針と糸  作者: 亜鶴間時間暁
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203X年の日記より

2030年 3月X日

今日、国の担当者という人がいきなり病院にやってきた。

院長には伝えてあったそうだが、自分を含め他の連中にはなにも知らされていなかったので、びっくりした。もちろんやましいことなどないので、特に気にはしていなかったが、なぜが一人ずつ別室に呼び出された。

その人が言うには、「今後の国家の構想に関する重大なプロジェクト」なるものがあるらしく、それに協力してくれるかどうかの確認とのこと。正直全然ピンとこない。いきなりなんなんだ。政治家のいうことは全くあてにならない。

今日明日の患者対応でもいっぱいいっぱいなのに、急にそんな大げさなことを言われても困る。

回答は後日でいいということなので保留にしてもらっているが、普通に断ろうかと思っている。

しかし、こんな忙しい時に病院をやめたあいつの気が知れない。自己都合らしいけど、急すぎて研究チームのメンバーも迷惑がっていた。俺にも理由を言わなかったが、マリエは何か知っているだろうか。どっちみちあいつとはこれっきりになりそうだ。



2030年 5月X日

またあの担当者がやってきた。俺はプロジェクトメンバーに選出された(イケニエだ)

うちからは誰も声が上がらなかったらしく、経験や実力から考慮して(というタテマエで)結局俺がやることになってしまった。

30代も後半でこんな面倒には関わりたくなかったが、上にも下にも任せられないし。

マリエにも相談したかったが、内容は秘密厳守。しょうがない。

もともとグチを吐き出すのに使っていたこのノートだし、行き場のない気持ちは引き続きここに書こうかと思う。てきとうに。



2030年 10月X日

今日はプロジェクトメンバーと初めて顔を合わせた。他の病院から数名の医者と、あと大学の教授も何人か来ていた。年齢的にみんな俺より上に見えて、なんとなくやりにくさを感じた。

国の担当者と俺たちとで、今後の構想を考えていく。会議ばかりだと負担にしかならない。

あいかわらず口外できないのでここにグチることになりそうだ。


メモ

問題の摘出

選別と排除


2032年 5月X日

海外チームとの合流があった。自国のことなのにいいのだろうかとも思ったが、それより何より正確さが重要なので、まずはつめていく。まだまだ課題しかない。


メモ

あるいはテストで検査できれば一番いいのだが

そんなもんできるか?


2035年 9月X日

問題は誰を範囲とするか。どこまでを範囲に考えるか。



2037年 3月X日

今日で病院勤めとの二刀流を終えた。やっと落ち着いてプロジェクトにかかわれそうだ。

やはりことがことなのでしんどかったというのが本音。

マリエに苦労ばかりかけてすまないと言ったら「年寄りみたいなこと言わないで」と笑われてしまった。結婚してすぐメンバーにかかったので忙しくてすれ違いもあるが、気長にやりたい。

その前にアイソ尽かされるかも知れないが…。



2038年 3月X日

プロジェクトはようやく大詰め、というかやっとスタートラインに立ちそうな感じというところで…?かなりの頻度で会議と試作を繰り返している。大枠はできたのだが、まだ確証もないし、そもそも倫理的な問題がある。でもおおよそその線でいく方向で話は進んでいる。

俺としてはとにかく周りの連中のレベルの高さについていくのが必死。無理だと思っていることでも彼らとならできそうな気がしてくるから不思議だ。

おかげで深刻な寝不足だが、思ったよりは充実した日々という感じ。



2038年 5月X日

家に帰ったらマリエが花束を持っていたのでびっくりした。

俺にくれる…わけではなかったが、誰かにもらって来たんだろうか。

それとも誰かへのプレゼントだろうか。

記念日関係は大事にしとけと昔上司に言われたのを思い出す。

忘れてはないと思うが、一応カレンダーは気にしとこうか。



2039年 6月X日

総理大臣からのゲキレイを受ける。緊張していてほとんど覚えていない。

今後、プロジェクト関連の法整備も随時進むらしい。

正直実感は湧いていない。そりゃここまで何年もかけてやってきたが、実際どこまで機能するかは未知数だし、そもそも世論がyesと判断するかが問題だ。

俺たちがいくら大声を上げていても、noと言われればそれまで。

じゃなきゃ独裁政治のようなもんだ。

俺が医者として人を救うことに人生を捧げてきたことが、無駄になるようなことだけはあって欲しくない。

方法は変わっていても、あれが最善の道なのだと、今は考えていたい。


メモ

本当にこれしかないのか

考えていると気分が悪くなる時もある

だったら確実だと言える根拠と証拠を示すだけだ

これが絶対だと言い切れるだけの材料が必要だ


死ぬ権利を与える権利が俺にはあるのか?

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