両片思い
「あの二人、仲がいいわよね」
私達は小さい時からそう言われてきた。
隣に住む4つ年上の幼なじみのお兄ちゃん。
私達はいつも一緒にいた。
でもお兄ちゃんはどんどん大人になっていき、
私はまだ学生の子供のまま。
「お兄ちゃん。
今日、遊びに行ってもいい?」
久しぶりにお兄ちゃんに会ったからそう私は言った。
お兄ちゃんは“いいよ”と言ってくれた。
いつものように勝手に家に入る。
お兄ちゃんの部屋のドアを開けた。
お兄ちゃんはベッドで寝ていた。
「寝顔、可愛い」
私はお兄ちゃんの寝顔を見て言った。
お兄ちゃんを起こさないように帰ろうとした。
するとお兄ちゃんは私の腕を掴んだ。
「もう、帰るわけ?」
「だって、お兄ちゃん寝てたから」
「もう起きたから帰るなよ」
お兄ちゃんはベッドから起き上がって伸びをした。
「お兄ちゃんには彼女いないの?」
「何だよいきなり」
「だって彼女の話、聞いたことないから」
「好きな人はいるけど」
「そうなんだ」
「お前は?」
「私も好きな人はいるよ」
「どんな人?」
「教えないよ」
私の好きな人はお兄ちゃん。
昔からずっと大好きだった。
でもお兄ちゃんは年上の人だから私なんて相手にしてくれないと思う。
私を子供扱いするし。
私が大人になったら言うの。
好きだって。
ある日お兄ちゃんは風邪をひいた。
私は看病の為にお粥を作ってあげてお兄ちゃんの部屋へ入る。
お兄ちゃんはきつそうにしていた。
「大丈夫? お粥作ってきたよ」
「ありがとう」
「食べる?」
「今は動けないから後で食べるよ」
「今、食べないと薬も飲まないといけないし」
「お前は帰れ。風邪がうつるだろ」
「ちゃんと食べたのを見てから帰る」
「分かったよ」
お兄ちゃんはダルそうに起き上がった。
こんな弱ったお兄ちゃんを初めて見た。
もっとお兄ちゃんの役に立ちたい。
お兄ちゃんはスプーンを持ってお粥をすくおうとした。
手に力が入らないみたいで上手くすくえない。
「私が食べさせてあげる」
私は言ってスプーンを持ちお粥をすくってお兄ちゃんの口元に運ぶ。
「口開けてくれないと食べれないでしょ?」
「自分で食べれるから」
「無理だったじゃない」
「でも……」
「いいから。あ~ん」
お兄ちゃんはしぶしぶ口を開けた。
それから薬を飲んで横になった。
「もういいから、風邪がうつったら大変だろ」
「お兄ちゃんが寝るまでいる」
「お前はワガママだな」
「ワガママじゃないよ。お兄ちゃんが心配だからだよ」
「お前、好きな人いるんだろ?
お前が男の部屋にいるの知ったら嫌われるかもしれないぞ」
「大丈夫。彼は気にしないと思う」
「俺だったら気にするけどな」
「ふふっ。そうかもね」
「なんだよ、その含み笑いは」
「何でもないよ」
「なあ」
お兄ちゃんはいきなり真剣な表情になった。
「俺がもし、もう少し俺の傍にいてって言ったらどうする?」
「そんなの決まってるじゃない。傍にいるよ」
「何でそんな簡単にお前は言うんだ?」
「お兄ちゃん?」
「何でもないんだ。ただ……」
お兄ちゃんはそう言うと熱を帯びた目で私を見て、
私の頬に手を当てた。
お兄ちゃんの手から熱が伝わる。
「お兄ちゃん。手が熱いよ」
「うん」
「お兄ちゃん?」
「なぁ、お前は俺のものか?」
「えっ?」
「違うよな」
お兄ちゃんはそう言って私の頬から手を離し疲れたのか目を閉じてすぐに寝息が聞こえてきた。
何だったの?
お兄ちゃんの熱が私の頬を熱くした。
いいや違う。
お兄ちゃんの言葉が私の頬を熱くしたのかもしれない。
次の日お兄ちゃんは元気になった。
昨日の言葉の意味を私は聞けないでいた。
「あっ、あなたが可愛いお隣の子ね」
私は声がする方へ振り向いた。
そこにはお兄ちゃんと美人なお姉さんがいた。
「お前、見過ぎ。こいつが怯えてるだろう」
「えーいいじゃない。可愛い子はずっと見ていたいんだもん」
お兄ちゃん達は楽しそうに話している。
私、邪魔かな?
「私、宿題があるから帰っていい?」
「あっごめん。学生は宿題、多いよなあ」
違うのに。
お兄ちゃんと美人なお姉さんがお似合い過ぎて見てられないだけなのに。
また私を子供扱いした。
お兄ちゃんには、私は妹に見えてるのかな?
何時間か経って、お兄ちゃんが私の部屋を訪れた。
「美人なお姉さんは帰ったの?」
「美人? まぁあいつはモテるみたいだからな」
「よかったね。そんな人が恋人で」
「えっ。あいつは友達だけど」
「嘘!」
「俺には好きな人がいるって言っただろ?」
「彼女じゃないの? それなら好きな人って誰なの?」
「お前が言うなら俺も言うよ」
「何それ。聞いても全然知らない人だったらどうするの?」
「俺の知らない奴なのか?」
「それは秘密」
「それなら紙に好きな人の名前を書いて、
お互い交換して一週間持って、
そのあと俺の部屋で一緒に見るのはどうだ?」
「何それ」
「一週間あるからその間に教えたくなくなったら紙を取りに来ればいいだろ?」
「する意味あるの?」
「一歩でもいい。前に進めるんだ」
「前に進む?」
「勇気がない俺には前に進めるんだ」
「分かった。やるよ」
そして私達は紙に名前を書いた。
私はちゃんと一週間見ないで過ごした。
一週間が経ち、お兄ちゃんの部屋へ入る。
お兄ちゃんが紙を持って待っていた。
「見るぞ」
お兄ちゃんと私は同時に紙に書いてある名前を見た。
お兄ちゃんも私も固まる。
私達は頭の整理をしている。
この紙に書いてある名前を予想していなかったから。
「俺?」
「私?」
二人同時に呟いた。
「あはは」
「ふふっ」
私達は笑っていた。
「俺達、お互い好きだったんだな」
「そうだね。両片思いだったんだ」
「俺は昔からお前のこと好きだったんだ。
周りに仲が良いって言われて嬉しかったんだ。
俺はお前の一番になれてる気がして」
「私も、お兄ちゃんと一緒。
仲が良いってもっと言ってほしかったもん。
私にはお兄ちゃんだけしかいないって気付いてほしくて」
私達は小さい時から両片思い。
これからは両思い。
「お兄ちゃん」
「ん?」
「大好き」
私はそう言ってお兄ちゃんに抱き付いた。
お兄ちゃんはそんな私を抱き締めて、
「俺も好きだ」
って言ってくれた。
読んでいただきありがとうございます。
近すぎてお互いの気持ちに気付けない二人を書いてみました。
近すぎるから恥ずかしくて言えない言葉ってありますよね。
私は言わなくて後悔するなら言ってすっきりしたいと思ってしまいます。
皆さんはどう思いますか?