1.仲良くなるのに不純な理由
幼馴染が椿さんと仲良くなりたいらしい。
椿さんとは、クラス…いや、学校全体の「憧れの存在」のような子である。なんでも、いいところのお嬢さんらしい。クラスでの彼女の凛とした立ち振る舞いや、かもしだされる雰囲気を鑑みると納得である。今まさに例をあげると、椿さんは休み時間には読書を嗜んでいる。目を伏せ、使い込まれた革のカバーで文庫本を読む姿は絵になる。インスタ映えてしまう。クラスのみんな、廊下から覗くみなさんも私のように、ほう…とその姿に見惚れるのみ。その中でも私の幼馴染の佐倉は、チラチラと悩ましげな熱視線を送っていた。声をかけたいけど、かけられないのだ。頑張れるか、と佐倉と椿さんをしばし交互に見守るも、先生が教室に入ってきて、休憩が終わってしまった。
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授業後、教室を移動する際、彼女の姿がないことを確認してから「椿さんに話しかけたいけど、なんて話しかけたらいいんだろう…」と項垂れる佐倉。このやりとり、何回目だ。
「ね、なずな。あんたが話しかけてきてよお」
「いいけど、佐倉が気になってるみたいでーって言うよ」
「やめて!!な、なんか告白のお誘いみたいじゃんかあ」
「違うの?」
「違うよ。だってわたし、椿さんと純粋に仲良くなりたいだけだもん!」
「純粋に?」
「….純粋だよ?」
椿さんを初めて見た時の佐倉は、まあ酷かった。驚いたように目を見開いて、「綺麗な子だねえ」というわたしの言葉に反応がないくらい、彼女に釘付けだった。椿さんが歩いていくのを見送り、遠のいていく後ろ姿。佐倉は、背中を向ける彼女に涙を流しながらそっと手を重ね、拝んでいた。この時点で「何故」と引き気味の私。「アヤメちゃんの生き写しかよ…」「マジか…」といつもの口調でないつぶやきを繰り返す佐倉。こういう口調の時は、「プリキセ」の話をする時に多かった。「プリキセ」とは女児向けアニメである。キャラクターを着せ替えできるゲームもゲーセンに置いてあり、佐倉は「プリキセ」のファンで、着せ替えカードをとても集めている。
「あの人プリキセのアヤメちゃん…?に似てるの?」
「そうなの!!…クリソツすぎて泣いてる」
その内、椿さんと同じクラスになった佐倉と私。知り合えるチャンスがやってきたわけだが、佐倉が彼女と仲良くなりたい動機は不純であった。
「仲良くなったら、椿さんにアヤメちゃんのコスプレをしてもらいたい」
これは仲良くなるのを阻止した方がいいのでは…?