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1-4 上級者

「……」

 ラセツは押し黙った。ティムが目を細める。

「理由を言うことはできませんか?」

「……強い、アーティファクトが欲しいの……」

「それは、なぜ?」

「……私の父上が捕らえられている、から。幼馴染で、親友の侍女も……」

 ティムの顔が少しだけ驚きに染まった。思案するように口元に手を置き、問いかける。

「父上? 侍女?」

 ラセツは、よほど身分の高い女性なのだろうか。聞き慣れない単語に、ティムは当惑する。

「捕らえられている……?」

「不当に、幽閉されているの! 私が、助けに行かないと……! だから……!」

 ティムは思案するように視線を落とした。

「要領を得ませんね。それで、なぜアーティファクト・ラビリンスに潜ろうと?」

「強いアーティファクトが、欲しいから……。これではない……」

 そう呟きながら、ラセツは自身の右腕にある黄金細工の腕輪を見せつけた。それからゆっくりと立ち上がり、この世界と同じ純白の髪を静かに振る。

「貴方には、関係ない話よ……」

「……」

 黙り込んで思案するティムを背後に、ラセツは一人でまた歩き出す。

 そんなラセツの黒のワンピースが、後ろから引っ張られた。

 ラセツが振り向くと、そこにあったのは蜘蛛の形をした大型の機械だった。

 犬よりは大きく、馬よりかは小さいと言ったサイズ感だ。八本足の細長い金色のアームと、その中央に本体と思しき楕円形のメタルボディがある。

 機械の蜘蛛のアームが二つ動き、ラセツを抱え、自身の身体へと乗せる。ラセツは成すすべもなく、軽い身体をライドオンさせられた。

「なっ――何するのよ!!」

「上級者の探索の仕方をお教えいたしますよ」

 そう言い放つティムもまた、別の機械の蜘蛛へと乗っていた。

 二体の蜘蛛の機械は、それぞれティムとラセツを乗せたまま、八本のアームを器用に動かして凄まじい勢いで塩の大地を駆け出した。この悪路にも関わらず、馬が走るよりも早い速度だった。

「きゃぁああっ!!」

「何だ、意外と叫び声は可愛いんですね」

「ぶっ飛ばすわよ!!」

「そんな般若のような顔で睨まないで下さいよ……。寿命が縮みでもしたら、どうするんですか」

「縮みなさい! 縮めば良いわ!」

「喋っていると舌を噛みますよ」

 必死になって機械の蜘蛛にしがみついているラセツをティムが軽く笑う。そんな会話をしている内に、機械の蜘蛛は丘の高い位置までやってきていた。ゆっくりと速度を落としていき、やがて機械の蜘蛛はその場で制止する。

 ティムが機械の蜘蛛から塩の大地に飛び降りると、彼の革靴が塩に埋まる。それを見てティムは不快そうな顔を浮かべてみせる。

「やれやれ、靴くらいは普通の運動靴にしてくるべきでしたね」

 ラセツもまた、ゆっくりと蜘蛛の機械から降りる。ティムが指を鳴らし、機械の蜘蛛達がティムのバッグへと戻っていく。絶対に入らないだろうと言うスペースにそのまま入っていくのは、もはや、見慣れた光景だ。

「一つの種類しか出すことができないのは、非常に難点ではありますが」

 機械の蜘蛛がバッグの中に入るとほぼ同時に、小さい虫のような機械が一気にティムのハードレザーバッグから飛び立った。それと同時に、ティムはレザーバッグの横ポケットから、ノートパソコンを取り出して、それを広げる。

「これから、この空間を一気に探索します」

「そんなことが……?」

「できます。五級程度だと、広さもそこまでありません。数分で終わりますよ」

 ティムのノートパソコン上に、レーダーのような表示が一気に大量に表示された。

 ティムがキーボードを軽くタッチすると、画面が切り替わった。飛んでいる羽虫はカメラの役割もしているのだろう。全ての虫の機械の視界が映像として、分割されて表示された。その数、十六。

 パチンッ。

 ティムが軽快に指を鳴らすと同時に、虫が凄まじい勢いで四方に飛び散った。

「あの虫はレーダーの役割も担っているので、アーティファクトを発見し次第、音が鳴ります。あとはここでくつろいでいれば探索などすぐに終わりますよ」

「そんな……」

「意外ですか? アーティファクター達は、皆泥臭く探索をしていると。そうあるべきだと。確かに、アーティファクト・ラビリンスの中を足使って探すような、極めて非効率的な方法を用いている探索者が多いのは事実です。ですが、僕のように独自の戦略を練り、それをおこなうアーティファクターも居る」

 ティムのノートパソコンに、ビーッ、ビーッ、と言うような機械音が鳴り響いた。

「見つけました」

 連続して、更に機械音が複数鳴り響く。

「このエリアの探索が全て終わりました。エリア内に存在しているアーティファクトは計四つ。これから、それらを回収に向かいましょう」

 ティムが再び指を鳴らすと、四方から一斉に羽虫の機械が戻ってくる。ティムがレザーバッグを開けると、そこに羽虫の機械が飛び込んで、消えていった。全てバッグの中に吸い込まれると、僅かの間さえなく、蜘蛛の機械のアームが飛び出してきた。

 レザーバッグよりも遥かに大きいサイズの、機械の蜘蛛が二体、塩の大地に駆動音を鳴らしながら降り立つ。もはや、見慣れた光景だ。

「では、行きますよ」

 ティムがそう言うと同時に、機械の蜘蛛の足が二本、ラセツの身体を挟み込むように捉えた。

「なっ、何でまたっ!」

「面倒だからです」

 物でも乗せるかのように乱雑に、機械の蜘蛛がラセツを乗せた。そして、そのまま再び物凄い速度で駆け出した。ティムは蜘蛛の機械の上でノートパソコンを広げ、発見したアーティファクトの位置を確認している。

「えぇと、この辺りですかね?」

 機械の蜘蛛がゆっくりと停止すると、ティムはそこから降りた。

 ティムはバッグから白の皮手袋を取り出し、颯爽と両手に通した。それにならって、ラセツも女主人から渡された布の手袋を身に着けた。

 海の荒波のような形をした、塩の岩のすぐ傍にそれはあった。

 石造りの精巧な模様の描かれた台座。その上に、青白い光を仄かに放つアーティファクトが鎮座していた。それに見入るティムを狙いすましたかのように、岩の上から、狼が牙を剥き出しに飛び降りる。

「邪魔」

 一つ、言い放つと同時に、機械の蜘蛛が口元から鋭く直線的な白い光を放った。サイズとしてはおそらく数センチ程度の小さなレーザー光線。しかし、それは狼の命を奪うのに十分すぎる威力だったようだ。

「――」

 正確な射撃で狼の頭部を射抜くと、狼は地面に転がって全身を痙攣させていた。

 そんな獣の姿を日常茶飯事とでも言うかのように、一瞥もくれやしないで、ティムはアーティファクトをジッと見つめ続けている。

「凄い……」

 ラセツは思わず感嘆の意を漏らした。気怠げにティムが視線を返す。

「これくらい普通ですよ」

 そう答えながら、青白い光を放つアーティファクトを手に取った。

 それは銀細工の笛のような形状であり、大きさは一般的な笛と同程度だった。相当に小さい。

「うーん、何でしょうね? まぁ、効果やランクとかは鑑定してもらわないと分からないですけど、戦闘用のではなさそうですね。はい、見て下さい。どうぞ」

 そう言い放ち、ラセツに渡す。アーティファクトを受け取り、手袋越しの手の器にそれを置いたラセツがぽつりと漏らした。

「これが、アーティファクト……」

「そうです。人智を超えたアイテム。人類最大の謎、と言われているアイテムです。アーティファクト・ラビリンスの中でしか手に入らない。そして、それ自体がアーティファクト・ラビリンスを生み出す」

「……綺麗ね」

 ラセツは、青白い光を前に感傷に浸るように目を細めた。

「非活性のアーティファクトが出す青白い光は綺麗ですよね。デザインが凝った物も非常に多いので、五級程度であっても芸術的な価値を見出す人も居ます」

 そう言ってから、ティムはラセツへと顔を向けると、笑みを零した。

「差し上げますよ」

「……っ!」

 ラセツの顔が、一気に憤怒に染まった。彼女の口をついて出たのは、怒り。手元に持っていた銀細工の笛を、グイッとティムに押し返す。ティムが戸惑いの表情を浮かべた。

「それは、貴方が自分の力で手に入れた物だわ。私が、手に入れた物じゃない」

「……何を意地になっているんですか? 僕が持つよりも、貴方が持った方が意義があるでしょう? 何せ、貴方は初探索なのですから」

「ふざけないで!!」

 ラセツは、本気で怒った目をティムに向けてみせた。ティムが驚いた顔を浮かべる。

「私は、施しを受ける気なんてない!!」

 ティムはラセツが突き出す銀細工の笛を受け取り、茶色の癖っ毛をくるくると指先で回した。

 そして、心の底から面倒くさそうな表情を浮かべ、深く溜息をつき、空を見上げる。

「あー……。なるほど、分かりました」

 ティムは、ラセツへと向き直り、子供を相手にするかのような笑みを零してみせた。

「僕の言葉が軽率でしたね。それなら、僕はこれを捨てます。僕が捨てた後、それをどうしようが貴方の勝手ですから」

 そう言い放ち、ティムは銀細工の笛を台座の上に戻した。

「……!」

 ティムの一連の動作、言葉に、どのような心の動きがあったのか。

 そして、自分がどう見えているのかを察せないほど、ラセツは馬鹿ではない。

 自分が、さも駄々をこねている子供のように扱われていると言うことが分かり、それはラセツのプライドを強く刺激した。

「……人が捨てた物を拾うほど、私は落ちぶれてないわ」

 ラセツは怒り混じりに言葉を吐き捨て、ティムに背を向けた。

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