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3-9 探索者たち

何かしらの民族衣装だろうか? ブカブカの白い衣類には、幾何学的な模様が描かれていた。そして、首元には精緻な、首輪のような入れ墨が彫られている。

 身体つきは非常に大きく、ゆったりとした衣類でも隠せないほどに筋肉質なのが見て取れる。

 青年は切れ長の目を女主人に向け、青白い光が消え去った指輪を女主人へと放り投げた。

 女主人がそれを受け取り、眼鏡をかけた。それもまた、アーティファクト鑑定用のアーティファクトだ。

「四級アーティファクト、《水を剣にする指輪アクアソード・リング》――ですね」

「幾らだ?」

「非活性ですし、四十万ほどでいかがでしょう?」

「それで構わない」

 リムの言と共に、女主人が金と、契約書を用意し始める。と、そこでリムはティムに気づいたようだ。

「ティムじゃないか!」

 友好的な微笑を浮かべて見せる。

「どうした、久しぶりだな。死んだかと思っていたぞ」

「えぇ、お久しぶりです。生きていますよ、ちゃんと」

「ちなみにだが、そちらのお嬢さんは?」

「ラセ――」

「ユキちゃんです。今の僕のパートナーですよ」

 答えかけるラセツの頭を軽く叩き、ティムは笑みを零してみせた。

「ほう……。お前が私以外の誰かとパートナーを組むとは思わなかった。ちなみにだが、ラセ? と言うのは?」

「あぁ、それはあれです。らっせーらー、らっせーらーと歌いながら踊りたくなったのでしょう」

「初対面の人に対して変なキャラ付けしないでよ!!」

「そ、そうか。別に、私は構わんが……」

「ほら、引いてるじゃない! びっくりするくらい! あと私の頭叩いた!」

 そのようなやり取りをしていたその時、隣に座っている金髪を鶏のトサカのようにした男が、煙草に火をつけた。臭いがリムへとへとゆっくりと流れる。リムの視線が鋭くなり、煙草を吸っている男の前に立つ。

「あぁん? なんじゃい」

 男は、上下合わせて四本しかない歯を剥き出しにして、威嚇してみせた。

「臭い。消せ」

 そう言って、男の指先から煙草をひょいっと取り、灰皿へとグイッと押し付けた。男が怒鳴り声を上げる。

「なっ、何すんじゃーーい! このワシが、二級アーティファクト所持者のカスキー様と知ってのことかい!!」

 叫び声を上げながら、一昔前のヤンキーがするようなガン付けでリムを睨みつけた。リムの方が頭一つ分は身長が高い為、カスキーが見上げるような格好になっている。

 カスキーと名乗った男は、他の者達に比べてだいぶ軽装だった。アロハシャツに短パンと言うような格好だ。南の国に遊びに来たヤンキーと言えば、イメージは近いかもしれない。

「うるさいわね……」

 そこへ、ラセツが苛ついた目を向けた。このカオス空間を更にややこしくしようとするラセツに、ティムが慌てたような声を上げる。

「あぁユキちゃん。一旦、席を外しましょう」

 そう言ってラセツの手を引き、強引にカウンターから遠ざけた。

 カスキーが鼻を鳴らし、酒を飲み始めると、リムも興が冷めたと言うように顔を背ける。

 ティムはカウンターテーブルから少し離れた所に来て、連れてきたラセツに小声で話し始める。

「今、そんな争っていてどうするんですか……!」

「だから、人が考え事してるのに隣でごちゃごちゃされたら腹が立つんじゃない……!」

「笑顔で居ろとは言いませんが、状況をややこしくするのはやめて下さいよ」

「……分かったわよ」

 渋々、と言うようにラセツが口を尖らせた、その時だった。

「何が、あったんです?」

 不意に、声をかけられた。

 ラセツが顔を向けると、そこに立っていたのは、白衣を身に着けた狐目の一人の男だった。

「さっき、あの朧とか言う男に話しかけられてから、顔色悪くないですかねー?」

 男は不思議そうに首を傾かせた。

「……誰よ」

「あぁ、自分、ウズメキって言うっす。何か、まるで脅されでもしたかのような顔をしてたんで大丈夫かなーと。良ければ相談乗るっすよ?」

「……!」

 ラセツの顔色が変わった。目の前の男は人間離れした観察力を持って、初めて会ったラセツの表情の変化を見抜き、心配して声をかけてきたのだ。

 そんな男が、不思議そうに小首を傾げている。

 ――助けを求めたら、殺す。

 朧の囁き声のような脅迫が、ラセツの頭の中でリフレインした。

「……何でもないわ」

 そう言ってラセツはウズメキから視線を外し、顔を背けた。

 ウズメキはポリポリと頬を指先で掻き、それから、思いついたかのように白衣のポケットに手を突っ込んだ。

 ポケットの中から、明らかにそこには入らないであろう薔薇の花束が取り出される。

「……え?」

 ティムと同じ系統のアーティファクト? ラセツの脳裏にそんな問いが浮かぶ。

 ウズメキがのんきに笑みを零しながら、ラセツに問いかけた。

「何本くらい要ります?」

「いや、意味が分からないのだけど……」

「薔薇の匂いはリラックスできるんすよ。あ、何ならこれごと欲しいっすか?」

「……要らない。……どうも」

「そー。ならいいやー。あ、じゃあ君は? 何度かここで見たことあるけど、話すのは初めてっすよね。お近づきの印にってことで」

 そう言ってウズメキはティムに薔薇の花束を手向けた。

「どーも。花を愛でる趣味は特にないので、気持ちだけいただいておきます」

 言葉遣いだけは丁寧に、ぶっきらぼうにティムは答えた。

「そー、なら良いや。まぁ、元気出してねぇ」

 そう言って、ウズメキは白衣のポケットに薔薇の花束を突っ込んだ。スルスルと薔薇の花束が消えていく。それを珍しそうに見ていたラセツの視線に気づいたのだろうか、ウズメキは得意げに話し始めた。

「あー、これ? 大きめの倉庫みたいな感じのやつなんだよねぇ。食べ物とか、医療系のアーティファクトとかもたくさん持ってるから、何かあったら頼ってねー。それじゃ、中で宜しくね」

 そう言い放って、ウズメキは二人に背を向けた。ちょうどそのタイミングだった。


「それでは、二級アーティファクト【不死をもたらす琥珀】に探索する六名の方はお集まり下さい」


 女主人の声が、リトル・マーメイドの中に響いた。

 探索者達が、一斉にカウンターの前に集まり始める。

「宜しく」

 朧が、仮面のように乾いた笑みを零した。ラセツは思わず一歩後ずさりして、ティムを前に半身で隠れる。

「そうか、ティムも今回、一緒に潜るのか」

 リムが少し嬉しそうにそう言った。

「えぇ……。宜しくお願いします」

 ティムは少し疲れたような表情で答えた。

「どうした? 何か、あったのか?」

「……中で、話せる機会があればお伝えしますよ」

「そうか。分かった、無理せず話したい時に話してくれれば良い。ちなみにだが、君のパートナーだと言う彼女、ユキと言ったか? のことも、色々と教えて欲しい物だ。君が仲良くしようと思う人物と言うのは、非常に興味がある」

「そうですね、それも機会があれば」

 答えるティムの横で、ラセツが、リムに対して軽く会釈を返した。しかし、表情は硬いままだ。

「ケッ」

 酒で赤くした顔を恥ずかしげもなく晒しながら、金髪のトサカを揺らしてカスキーがやってきた。

「宜しくねー」

 ウズメキがのんきな声を上げる。ラセツはウズメキに、軽く頭を下げた。これから探索だと言うのに、あまりにそっけない態度はあまり良くはないだろう。

 ウズメキは嬉しそうに、狐目を更に細めてにこやかに笑った。

「これで、六名全員ね」

 女主人が柔和に微笑んで見せる。

「それではこれより、皆さんには、異世界遺物アーティファクトが生み出す、異世界迷宮アーティファクト・ラビリンスに突入していただきます」

 他の探索者達が、手袋を取り外した。

 ラセツもそれにならい、白い手袋を口で軽く噛み、ツツツとそれを取った。彼女の白魚のような可憐な素手が曝け出される。

 六名全員で、同時に、青白い光を纏っている琥珀へと手を置いた。

 刹那、ラセツの周囲に光が走った。異世界迷宮アーティファクト・ラビリンスへと転移する際に発生する強大なGに顔を顰める彼女の身体が、緑と白の光と共にフッと消えていった。

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