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2-6 偽名

「ラセツさんの変装を考えましょう」

 ラセツが別にバラすつもりもないと知ったティムはすっかりと元の調子を取り戻し、開口一番に言い放った。

「変装?」

「そうです。と言うか、亡命してきたのだと自覚を持って下さい。貴方の容姿は非常に目立つので、それをどうにか隠す必要がある」

 ティムの発言に、納得したようにラセツは頷いた。

「一理あるわ。確かに、私の容姿は、人より整っていて可愛いもの」

「否定できないのが非っ常に悔しいのですが、まぁ、そうですね……」

 そう言ってティムは、ラセツに待ってくれとハンドサインを出す。ラセツが寝ていた隣の部屋に行き、そこから、予め買っておいたのだろう。小道具を幾つか持って出てくる。

「これで変装は十分できるでしょう」

「……」

 ラセツは、それらを身に着けた。部屋の隅に置かれてある小さめの鏡へと、視線を向ける。

 髪全体を覆うような目出し帽を深く被り、目元には目全体が隠れる黒のサングラスをかけている。そして、顔全体の輪郭を隠すような白のマスク。更にダメ押しで、全身の体型を覆うような厚手のコート。

 どこからどう見ても、完全に不審者だった。

 ラセツは、変装グッズを全てソファへと放り投げる。

「なっ……! 一体、何が気に要らないんですか!? この完璧な変装を……!」

「全部よ、全部! 私は何かの犯人じゃないわよ!」

 ラセツの脳裏に、侍女と共に昔見たテレビドラマの記憶がよぎっていた。大体、物語の冒頭で事件を起こすタイプの人間だ。

「じゃあ、マスクとコートは妥協しますんで……帽子とサングラスだけは着用して下さい。それは、最低限でしょう」

「まぁ、仕方ないわね……」

 ラセツは渋々頷いて、サングラスと帽子を着用して見せた。

「それと、偽名を考えましょうか」

「偽名、ねぇ……」

 考え込むような仕草をしてみせるラセツの横でティムがパソコンを開き、カタカタと打ち込む。

「何をしているの?」

「ラセツ、と言う名前を他の言語に変換したらどうなるのか見ているのですよ。例えば、そうですね……。あぁ、これなんかちょうど良いんじゃないですか? 羅刹。東方の言語ですが」

「へぇ、言葉の意味は?」

「羅刹天ってのがあるみたいですね。破壊や破滅を司る神だそうです」

「破壊や破滅!? 却下よ、却下! 可愛くないじゃない」

「今更、可愛さを求めるのですか……」

 そう文句を言いながら、ティムはキーボードを再び叩いた。

「あぁ、ちょっと変えてみたら、こんな感じです。羅雪。雪は、貴方のイメージにピッタリですし、羅ってのも上品みたいな感じの意味合いがあるみたいですね。これで良いんじゃないですか?」

「羅雪……。悪くはないわね」

 満足したようにラセツは頷いてみせた。そんなラセツに、ティムが言葉を続ける。

「では、貴方の偽名はユキちゃんで」

「ユキちゃん!?」

「不満ですか?」

「いや、別に不満とかじゃないけど! 何か一気に可愛くなったわ! 上品さどこに行ったの!?」

「偽名に、そんなこだわる必要ありますか? 何ならユッキーとか、ラッキーの方が良いですか?」

「……原型がないじゃない……。ユキで良いわ」

「では、今後、リトル・マーメイドなどで貴方を呼ぶ際にはユキと呼びますね」

 ティムは、一仕事終えたと言うような雰囲気で、グーッと背を伸ばした。それから、思いついたようにパソコンをカタカタと弄る。

「何しているの?」

「少し、興味が湧きまして。ラセツさんの名前を東方の言語で変換したら良い感じのが出てきたじゃないですか。だから、僕の名前もそう言うのあるかなって思って」

 そう言って検索をかけるが、ティム、だと上手く変換できないようだった。

「うーん、僕の名前だと上手く変換できないみたいですね……。せっかくですし、語感が似ている単語も調べてみましょう」

「暇なの?」

 ラセツの突っ込みを無視して、ティムはタイピングを打ち込む。

 検索結果に出てきた一つの単語を見て、ティムは不思議と納得したように頷いてみせた。そしてキリッとした表情と共に、ノートパソコンをラセツへと向けてみせる。

「これとか、どうですか? 僕に似合っていると思いませんか?」

 そこに書かれている単語は――。


『虚無』


「それは、ない」

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