第8話 妹ができた桃太王
「すげー! 婆さんすげー!」
「にょっほにゃははふふふげへへ! それほどでもあるかのう!」
婆さんは上機嫌だ。
それも仕方ない。っていうかマジですげー。なにをどうしたらそうなった?
「今のは【悠久】というてな、剣の間合いの外を切る技法じゃ。それと【透過】という、切ったり切らなかったりを選べる技を組み合わせたのじゃ。他にはこう、1刀で複数回切る【数多】っちゅーのがあってな……」
とすん、と桃の上部に包丁を落とすと、サイコロ状に切れている。
「この3つを合わせて、如意斬剣の三ツ奥じゃ」
「すげーすげーすげー!」
「いひひひひ! もっと褒めるがよい!」
「婆さん、その剣俺にも教えてくれ!」
「やじゃ、めどい」
秒で断られた。
「無理っすよ桃ちゃん」「オレたちも教えてもらえないし」「婆さんも薪割りぐらいにしか使わないし」「それより赤ん坊どうする?」
「婆さん奥義で薪割りすんなよ! ってか赤ん坊ー!」
婆さんの剣術に食われて忘れてた。弟子入りの件は一時保留だ。
大声での馬鹿騒ぎにもかかわらず、すうすうと眠ったままの桃太郎(次男)。こいつは大物になるぜ。
とりあえず体を拭いてあげるか。と、桃から持ち上げたら……
「あれ、この子女の子だ」
「「「「「な、なんだってー?!」」」」」
なんと桃太郎(長女)だった。男衆の目が獣に変わる、とおもいきや。
「いやあオレたち婆さんひとスジだし」「BBAじゃないロリはただのロリだ」「つーかそれ抜きでも乳児はないわー」「ただ責任持って桃の内側は喰らい尽くす」
俺の時と反応が違ぇ!
……まあ、妹の身の安全は保証されたかな。
妹、妹か。ふふん。前世は一人っ子だったから、ちょっと嬉しいぞ。
水で濡らした布で体を拭き、乾いた布でくるんでいると、それまで静かだった婆さんがくわっと目を見開く。
「よし、名前は桃太郎子じゃ!」
「やめたげてよ! 取って付けたような雑さだよ!」
「じゃあ、桃太郎美……?」
「取って付けた感が増した?!」
なんでこの婆さんはネーミングセンスないのに名付けようとするのかね?!
ここは、兄として俺が頑張らねば! 兄として!
「えーと、そうだ! 桃姫! 愛称はヒメちゃんで!」
「まあ、桃ちゃんだと桃ちゃんとかぶるっすからね」「しかしヒメちゃんの桃はこれはこれで」「婆さんの下帯とはまた違った青い歯ざわりがなんとも」「しかも合わせることで親子丼風味に!」
教育風紀が悪すぎる! お前ら自重しろ!
婆さんは首を傾げつつ
「変な名前じゃのう。最近の若いもんはそんな名前で良いのか?」
「婆さんの考えた桃太郎子よりはマシだと思うが……?」
「女子の名前は、付けたことないからよくわからんのう」
「ん? じゃあ今まで桃から生まれたのって……」
「うむ。全部男子じゃ。女子が生まれたのも、1度に2人の桃太郎ができたのも、初めてづくしじゃ」
マジかよ。
妹ができたことで浮かれていたが、ちょっと考えてみる。
桃太郎が2人となると、下手すりゃ鬼の襲撃も2回あるかもしれない。鬼ヶ島まで別々にあったら俺一人じゃ対処できない。
ここはやはり俺自身が強くなり、またヒメちゃんも鍛える他ない。
かわいいヒメちゃんを危険に晒したくはないが、これも桃太郎に生まれた宿命か。許せ妹よ。
「そんなわけで婆さん、あの超つよい剣術教えてください」
「だが断る」
土下座までして頼んだのに、また秒で断りやがった!
「なんでだよーいいじゃん減るもんじゃなしー」
「お主に教えてたら、儂のダラダラタイムが減るわい」
それ減ったほうがいいやつじゃん!
婆さんは頑なに教えてくれようとはしないが、ここで諦める訳にはいかない。兄として。兄として!
「桃ちゃん粘るっすねー」「オレたちが初めて婆さんに会ったとき並っすねー」「あのときは獣だった」「そのすべてを薪で叩き落とされたっすけどね」
「お前らと一緒にするな! あと現在進行系で淫獣だからな!」
俺の大声でのツッコミに、横で寝ていたヒメちゃんがパチリと目を覚ます。
やっべ、起こしちゃった? 今後ツッコミの声は絞るようにしよう。
恐る恐る覗き込むと、目が合ったヒメちゃんがニコリと笑った。
か、かわいい~~!
書いてて驚いたこと。
桃ちゃん「鬼の襲撃が2回あるかも」
ナニイッテンノこの子。