第6話 仲間を見つけた桃太王
昼食後、再び村に繰り出す。
目的は2つ。村の現状把握と犬・猿・雉以外の仲間を探すこと。
別に忘れていたわけじゃないぞ。野菜とかもらいすぎて一旦帰っただけだし。いやまじで。
そんなとりとめのないことを考えつつ、村人に挨拶しつつ(また野菜をもらいそうになったが、帰りにもらうことで切り抜けた)、村の外れまでやってきた。
田んぼとあぜ道が広がり、稲穂が重く頭を垂れている。
気にしてなかったが、どうやら今の季節は夏から秋ぐらいらしい。
「桃の節句」という言葉に引きづられてか桃太郎が生まれたのは春のイメージだったが、桃の実がなるんだからそのくらいか。
見渡すと、ちらほらと村人が作物を収穫している。
それも川にぶつかるまで。川に架けられた橋をわたると、そこはもう村の外であるらしい。
ここは、鬼の襲撃における第1次防衛ラインだ。ここを突破されると、畑や田んぼが荒らされ、村に被害が出てしまう。
第2次防衛ラインは居住区、最終防衛ラインは婆さんの屋敷を想定している。
その水際で止めるべき第1次防衛ラインだが、川というわかりやすい地形で防御に適している。戦略の素人である俺の目にも明らかだ。
川幅は10メートルほどかな。流れは穏やかで水深も大人の腰くらいまで。川釣りしている河童が教えてくれた。
道はこの川を渡る橋から続く1本のみ。この橋で鬼を食い止めれば村への被害はゼロである。
「ってアイエエエ!? カッパ!? カッパナンデ!?」
思わずカッパリアリティショックを受け失禁しそうになったが、なんとか耐える。
緑色の肌、頭の皿にくちばし、背中には甲羅。誰がどう見たって河童である。
その河童はじろりとこちらを睨み、竿を上げる。
「うるせえぞ坊主。ちっ、魚に逃げられちまった」
「あー、すんません。てか、河童なら川に潜って捕まえられるんじゃ?」
「そりゃ簡単にできるが、な。釣りは趣味だ。不自由なくらいが丁度いい」
くるくると竿を回して糸を巻き取り、竿を置く。甲羅からきゅうりを取り出すとヘタを噛み切り、葉巻のように咥えた。なんだこの河童。
「お前さんが村で噂の、桃から生まれた坊主か?」
「うん。桃太王ってんだ、よろしく」
「桃の字、か。いい名前だ」
「俺自身はそこまで気に入ってないから桃ちゃんでも桃の字でもいいけどさ。で、河童さんはなんて名前だ?」
「オレっちか? オレっちの名はな……」
そこで河童は言葉を切ると、にやりと笑い。
「金太郎、ってんだ」
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金太郎は河童じゃねぇ!
思わず叫びそうになったが、なんとか堪える。流石に初対面で全否定は無礼すぎるだろう。
「あー、いい、名前だな。しかしこの調子なら、浦島太郎もいそうだな」
「お、浦の字にはもう会ったのかい。あいつはオレっちの釣友よ」
いるんかい! しかも釣りでキャラ被ってるし! 「まさかり担いだ金太郎」なんだから木こりキャラとか住み分けろよ!
脳内ツッコミがすごいことになってる。BE COOL BE COOL。落ち着け、よし落ち着いた。
「あー、んーと、金太郎さん。んー、金ちゃんて呼んでいい?」
「はっ、なんとも可愛い呼び方じゃねぇか。だが嫌いじゃねぇ。桃の字の好きに呼びな」
「じゃあ金ちゃん。金ちゃんはこの川に住んでるの?」
「そうさ。桃の字はお座敷様と一緒に住んでるんだろ? この川はな、お座敷様の屋敷の前の川とつながってるんだぜ」
なんと俺が桃で流れてきた川は、この川の上流に位置するらしい。
もし婆さんに拾われてなかったら、河童の金ちゃんに拾われていたかも。
なんとなく親近感を覚え、突然ひらめく。
そうだ、仲間になってもらおう!
犬・猿・雉だけでは戦力不足だと思っていたんだ。金ちゃんと、あと浦島太郎もいるんだっけ? そっちも仲間になってほしい。
とりあえず、勧誘してみよう!
「金ちゃん、仲間になってよ!」
「ああ、いいぜ。で、なにして遊ぶんだ?」
「遊びじゃないよ。この村に、鬼が攻めてくるんだ。それをやっつけて、鬼ヶ島まで攻め込むんだ!」
「鬼ごっこか、悪くねぇな。鬼は近所の悪ガキ共か?」
「遊びじゃないって!」
「ああ、わかったわかった。本気で相手してやるから、な」
だめだ、全然通じてない!
金太郎が河童であることは、古典である「THE M●M●TAROH」にもそう書かれている。
河童について少し語りたかったので別ページ作りました。
エッセイ的脳内垂れ流し駄文
脳1 河童の皿についての考察
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