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転生して桃から生まれたけどなんか変  作者: くさしげ煉牙
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第2話 (ようやく)桃から生まれた桃太郎

 婆さんは丁寧に、桃の皮を剥いている。で、剥けた場所から、ちまちま切り分けている。


 うん、そうだね。こんな巨大な桃を真っ二つにできる包丁とか、普通のご家庭にはないよね。




 お陰で真っ二つの未来地図は避けられた。


 だんだん桃の壁が薄くなり、光の明暗しかわからなかったのが人の影になり、外の会話もよく聞こえるようになる。




「婆さんが! 皮を! 剥いて!」「桃の皮な、桃の」「こっちおかわりいいっすかー」「ついでに下帯のおかわりもー」


「ええい、やかましいよ変態どもが!」




 普通のご家庭では聞かれない会話が飛び交っている。ちょっともう生まれたくなくなってくるんですけど。


 しかし無情にも桃の壁は破られる。さくさくとブロック状に切り分けられて、小窓のようなスペースが開けられた。……全身が出るには小さいけど、頭ぐらいは出るかな。




「お、ようやく貫通したね」


「婆さんが! 姦通!」「いや漢字違うし。てかどこと繋がったのよ?」「オレの心と!」「オレの下半身と!」


「お前ら二人が繋がっとけ!「「……ポッ♡」」……単に桃の中に繋がっただけじゃ」




 なんかカオスに拍車がかかってるんですけどー! ていうか主人公の貴重な産卵じゃなくて誕生シーンじゃねーか。この調子じゃ絵本のようにスポーンと飛び出す訳にはいかないし、かといって「あ、ども」って普通に出たんじゃキャラが食われる! こんな原作に登場しない変態どもに!


 テンパった俺は開いたばかりの小窓に突撃した。顔面から。小窓のサイズは目測よりもやや小さく、顔がズッポリとハマってしまった。顔が果肉に引っ張られ、胸を強打した衝撃で肺から空気が漏れる。


 つまり。




「グエェ~!」←俺


「「「「キャーーーー!!!!」」」」←男衆


「まだ早いよ!」←婆さん




 べしっ、とデコに婆さんのツッコミを食らった。


 違った。


 ツッコミを入れたのは、おかっぱ頭の少女だった。あれ? 婆さんは? とジャック・ニコ○ソン状態でキョロキョロ見渡すも、少女の他は恐怖の悲鳴を上げつつ抱き合う四人の半裸マッチョのみ。


 よくよく見れば、少女の手には出刃包丁。さっきまで桃を切っていたためか、果汁で濡れている。つまりこの少女が桃を切り分けていて、男衆へんたいどもに婆さんと呼ばれてた……?




「婆さんじゃ、NEEEE!」


「「「「キャーーーー!!!!」」」」




 絶叫五重奏クィンテットはしばらく鳴り止まなかった。




△▼△▼△▼△▼△▼△▼




「ようやく落ち着いたかの」




 熱い茶を飲んで人心地ひとごこちがつく。最初、俺は乳児らしくミルクを頼んだのだが「婆さんの! 乳を!」とまた大騒ぎになったのでお茶にした。


 お茶請けは俺アウトオブ桃。甘くジューシィな桃と少し渋いお茶の組み合わせはなかなかいける。しかし「責任持ってお前が食え」と桃の一番内側を出されたんだが、桃に入ってたのって俺の責任か?


 五重奏のどさくさで桃から出てしまった。いいのかこんなグダグダな誕生シーンで。だがやり直すわけにもいかない。余計グダグダになる。




 桃から出た俺が今いるのは、民家の中だ。囲炉裏にかけられた鉄瓶は、今飲んでる茶のために使われ、新しいお湯を沸かしている。


 そばには着物を着た4、5歳くらいの幼女、褌と覆面のみの筋肉質な4人の男。犯罪臭ハンパない。多分、幼女が婆さんだろうけど、覆面マッチョが謎すぎる。


 今はおとなしく桃を食べているが、言動から見るに危険人物どもであることは違いない。婆さんに優しくすると桃の中で誓ったんだ。婆さんには、指一本触れさせねえ。




「で、最初に聞きたいんだけど、婆さん、なの? えらい若いけど」




 座布団に座ったまま俺が尋ねる。




「まあ、そうじゃな。儂が『桃太郎』の婆さんじゃよ」




 桃太郎の、婆さん。


 確かにそう言った。

 え、なに、この人、桃太郎知ってんの? え? 物語の登場人物だってわかってんの?


 え? どゆこと?




「桃太郎の婆さんってどういうこと?」




 素直に聞いてみた。




「うむ。儂は今まで幾個も桃を拾っておってな。幾人も桃太郎を育ててきておる」




 なんと桃太郎は俺だけではなかったらしい。




「じゃあ今も、俺の他に桃太郎が居るわけ?」


「いや、同時に二人以上おったことはないのう。桃を拾うのは百年ぐらいの間隔じゃし」




 ちょっと間隔長すぎやしませんかね。




「そっか、それでなんで婆さんなの? どう見ても4、5歳ぐらいじゃん」


「儂は座敷童子じゃ。こうみえてお主よりも遥かに長生きしとるんじゃ」




 うん。俺、生後1時間だしね。見た目通りでも歳上だわ。




「マジっすよ。婆さんオレらの祖父母の代からプリティっすから」「言いたいことはわかるが意味わからんぞ」「コケティッシュだよね」「こけしティッシュ?」




 男衆が、長寿であることを保証してくれる。でもコケティッシュではない。桃にかぶりついて口元を汚している様からは、色っぽさも歳上の威厳もかけらも感じられない。




「しかしお主が桃から顔を出したときは驚いたぞ。手が滑っていたら、三代目向こう傷の桃太郎になっておったな」




 テンパっていたとはいえ、刃物を持った人を脅かすことになったのは、完全に俺が悪い。なのだが、初代はともかく二代目は婆さんの不注意ではないだろうか。


 わひゃわひゃと笑う婆さんを見ていると、そんな気がしてきた。


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