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5、オタクってのは、趣味を突き抜けた神の呼び名なんだろ 前編


 高木純とエンカウントした後、翔矢達は両親の後に続きエレベーターに乗ることになった。広いスペースが設けられたエレベーターは四人のってもまだまだ余裕がある。父がボタンを押すと音もなく上昇していく。ほとんど浮遊感を感じない。さらに扉の上にはよく見なければわからないさりげなさで監視カメラが設置されている。そこだけ見ても金のかけかたがわかる。へぇ、けっこう儲かってんのか。


 扉が開くと、ガラス張りのオフィスが見えて、サラリーマン風の男達が忙しそうにパソコンに向かっていた。それを横目に眺めながら5メートルほど進むと、今度は重厚な茶色の両扉が現れる。いかにも社長室っぽいな! 翔矢は自分がイメージにばっちり当てはまる扉を見て笑いが込み上げた。ニマニマしていると、父は軽く扉をノックして返事も聞かずに開いていく。


「いるかー、(あき)(なり)?」


「せめて返事を聞いてから開け!」


 呆れの混じった叱責が飛んできた。しかし、父は悪びれずに笑うばかりである。その様子にため息をついた男は、ワインレッドの派手なスーツを優雅に着こなしていた。年の頃は両親と同世代くらいだろう。彫りの深い顔には異国の血を感じる。男は青い目を警戒するように鋭く細めて、翔矢と美琴をじろりと射抜く。


「お前達、誰を連れて来た……?」


「そう睨むなよ、オレ達の子だ。こっちが兄の翔矢、隣が妹の美琴って名前だ。覚えてないか? ほら、お前にも赤ん坊の頃に顔を見せたことがあっただろう?」


「翔矢ちゃん、こちらパパとママの働き先のボスよ。ご挨拶して?」


「黒鳥翔也だ。あんたがボスでいいのか?」


 わざと疑問符をつけてやると、男は鋭い目を僅かに見開く。


「お前達の子供か。私は、秋成・K・クリストファーだ。この会社の社長であり、君のご両親とは十年来の悪縁だ。君達のことはよく聞かされているが、ご両親よりはまともそうで安心したよ」


「つれないわねぇ。秋成君ったら、私達のことも歓迎してちゃうだいな」


「そんなことが言える立場か。ノックする常識くらい身につけてから出直せ」


「冷たいなぁ。長年の友だろ?」


「知らん。それで、どうしてその子達を連れて来た? お前達はこのことを秘密にしていただろう?」


「それがねぇ、ちょっと戦闘服を干ししていたら、この子達に見つかっちゃって。それで、コスプレ趣味があるんじゃないかって疑われちゃったものだから、いい機会だし打ち明けることにしたの」


「説明はしたんだが、なかなか信じてくれなくてなぁ、仕方ないからここに連れてくることにしたんだ。ボスである秋成に会わせれば、あらぬ疑いも拭えると思ってな! お前から説明してやってくれ」


「さぁ、二人ともソファに座ってね。ママが今から美味しいココアを用意するからね」


「母さん、オレはコーヒーがいい」


「はぁい。パパと秋成君も飲むわよねぇ?」


 自由過ぎる両親に男の眉間に谷が出来た。ワインレッドのスーツとの相乗効果もあり、その顔はまるでマフィアのドンだ。


「……もういい。好きにしろ。茶菓子はいつもの場所にあるから勝手に出せ。君達もソファで楽にしたまえ」


「じゃ、遠慮なく。おおっ、反発がすげぇな。このソファは海外製か?」


「あ、ああ。そうだが、よくわかったな」


「そのくらいわかるとも。うちのソファとは素材からして違う!」


 翔矢は皮張りの黒いソファの弾力に思わずひじ掛け部分の感触を手で確かめて、断言する。これは素人でもわかる明確な違いだ。すると隣に座った妹にくいくいと袖を引っ張られる。なんだよ? と見れば内緒話のように耳元に手を寄せられた。


「ちょっと、お兄ちゃん、悲しくなるからうちを引き合いにださないでってば!」


「いいじゃねぇか、事実だろ」


「それでも恥ずかしいでしょ。お父さんが気に入って買って来たんだし、ほら、ショック受けてるよ?」


「わかったよ。おいっ、あんた、ソファの件は聞かなかったことにしてくれ!」


「無理だからぁっ! 子供たちの容赦ない追い打ちがかけられているぅっ!! 沙織ぃ、オレのセンス悪くないよな?」


「うふふっ、悪くても愛してるわ」


「よか……あれぇ? 否定してくれない!?」


 ドサクサに紛れて母さんに縋りついて騒ぐイタイ親父を白けた目で放置して、翔矢はなにもなかったように秋成に尋ねる。


「あんたは父さん達と付き合いが長いのか?」


「君達が生まれる前からの付き合いだよ。だから、このくらいは想定内と思うべきなんだろう。だが、君達もなかなか個性的な性格のようだな」


「今のは褒められたのか?」


 翔矢は首を傾げて妹に尋ねると、妹が控えめながらも秋成に反論した。


「あ、あの、個性的って悪いことですか!? そりゃ、お父さん達は子供から見てもウザイくらいにラブラブだし、お兄ちゃんもこんなんだけど、でも、私の家族です! 馬鹿にするなら許しま……せ、せん……っ」

 

 勢いよく主張していたのに、最後の最後で美琴の声が尻切れトンボになった。正気に戻ったために人見知りが復活したようだ。顔を真っ赤にしてもごもごしながら、翔矢の後ろに隠れようとしている。いや、背中とソファの間に顔を隠すのは無理だぞ?





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