表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/32

31、どんな奴だってなぁ、大事なもんのためなら戦うんだよ 中編

「わかんねぇのか? HPの表示が出てないってことは減らないってことだ! 自分のキャラがクラッシュするだけじゃすまねぇかもしれないんだぞ。早く逃げろって伝えろ。オレは運営に連絡するから」


「わ、わかった!」


 通話を切ると、翔矢は表情を険しくさせた。それらしい言葉を並べたててはみたが、キャラクターがクラッシュするどころか、広香が親父達と同じ目に遭うかもしれない。翔矢はすぐにPCの電源を入れる。


「ボイス、聞こえてたな? ボスさんに連絡してくれ。オレがゲームにログインして、化け物をぶっ倒す!」


『それなら美琴と二人の方がいい。怪我もなくディークラウンを排除できる可能性が──』


「ダメだ。兄貴として妹を巻き込みたくねぇ。頼む、ボイス。時間がない! AIのお前ならサイトを乗っ取れるんじゃないか? 出来るなら、プレイヤーを全て強制的にログアウトさせろ!」


『翔矢の言う通りにする。サイトのメインシステムに侵入……サーバーをダウン。プレイヤーに強制ログアウトを行使…………完了。ディークラウンの妨害により交戦中のプレイヤーが一人残っているようだ』


「ちっ、そんな上手くはいかねぇか」


『翔矢のアカウントを許可。VRヘッドとグローブにネット内からアクセス。…メインプログラムを上書き、完了。翔矢のキャラクターに対ディークラウンコスチュームをダウンロード。これより精神感応度の確認をする。ヘッドとグローブをつけてくれ』


「おうっ、つけたぞ。こっちもサイトにログインした」


 翔矢はVRヘッドをつけると視界が切り替わる。いつも使っている翔矢と似たキャラデザした男が出てくる。黒眼黒髪で目つきの悪さに親しみがある男臭いキャラクターだ。視界をFPPに切り替える。


『今からキャラクターのどこかに触る。触られた場所を言ってほしい』


「わかった。……左肩、頭、背中、右足、両腕」


『確認完了。次はこう言ってくれ。ヒーローモード起動! 《ファースト・セットチェンジ!》』


「ヒーローモード起動? 《ファースト・セットチェンジ》」


 舌がもつれそうになりながら、言われた通りの言葉を繰り返す。すると、画面が目を開けられないほど白く光りを放った。光の中にふわりと青い球体が浮かびあがり、それは勢いよく翔矢に向かって飛んできた。


 思わず硬く目を閉じて、衝撃に耐えようと身体に力が入った。だが、予想していた衝撃は羽根ほどもなく、温かなもので全身が包み込まれる。それはまるで温かなお風呂に浸かるような気持ちよさだった。


『翔矢、目を開けてくれ』


「うおっ!?」


 目を開けると、赤に白のラインが入ったジャケットが和風のコスプレ衣装に変わっていた。青い着物に袴、赤と金の帯に腰布、足元を見下ろせば編み込みブーツを履いていた。和洋折半の恰好は、昔の服を今風にアレンジしているもののようだった。しかも鼻から顎まで頬当てのようなものまでついている。手で触れて確かめると、金属のようなものにがっつり覆われている。


『受け取れ。翔矢用の武器になる』


 アイズがそう言うと、再び画面から赤い光がふわふわと飛んでくる。手の平を広げると、それは翔矢の手元で弾けて、グローブの甲に狼の影が浮かんだ。拳を握ると違和感なくしっくりきた。すげぇな、感覚がリアルと変わらねぇ。ラグをまったく感じない。


『さぁ翔矢、出撃だ!』


「任せとけ」


 指を空中に向けると検索画面が出てくる。翔矢は履歴から【荒野なる死神の寝床】を設定する。決定を押した瞬間には目の前には草木も生えない荒野が現れていた。プレイヤーの気配はまるでない。本来なら賑わっている時間帯だ。


 石がゴロゴロしている乾燥地帯のこの場所は上級者向けのバトルポイントだ。一定のレベルを越えないと入ることが出来ないのである。翔矢はまずアイテムから索敵能力を強化させるためにアイテムの飲料水を飲む。味はしないが喉を通る感覚がした。こんなとこまで本当によく出来ている。



 すぐに斜め前方になにかを感じ取り、走り出す。異様に身体が軽い。大きな岩場をジャンプ台にして大きく跳躍すると、崖をバックに戦闘中の人間を発見した。って、広香じゃねぇ!? 見知らぬ女プレイヤーだ。名前の表示がグリーンと表示されている。全身が傷だらけでHPのゲージが赤く点滅している


『奴の核は頭にある。翔矢、頭を狙え!』


「了解! おらぁっ!!」


 翔矢は動揺を一瞬で沈めると、大きく跳躍して魚人の後頭部に蹴りを叩き込んだ。勢いのついた蹴りが魚人の後頭部に直撃しそうになった瞬間、奴が振り返って両腕で頭部をガードする。翔矢の攻撃はその腕に直撃した。


「グガアアアア──ッ」


 魚人の絶叫が響き、吹っ飛ぶ。その両腕からはプスプスと煙が上がっている。エゲツない攻撃力だな!? 翔矢は地面に着地しながら与えられた力の強さに目を見張る。攻撃されたことに怒ったのか、魚人の飛び出した目が翔矢を睨む。


「はぁ……はぁ……助けて、くれた……? あ、あの、名前の表示がないですけど、味方と思ってもいいでしょうか?」


「あ~オレは──……ヒーローだ。大丈夫か? オレがあいつの相手をするから、今の内に逃げとけ」


 女の声の感じからして年齢が近そうだ。翔矢は背中を向けたまま、そのおどおどしたプレイヤーに逃げるように指示を出す。


「でも、そ、それじゃああなたが危険です! バーチャルのはずなのに怪我をすると痛いし、それにHPが減っていないみたいで……」


「全部わかってるからよ、心配いらねぇの。この場から離脱しろ。今のオレにはあんたを守る余裕がないんでな」


「……ごめんなさい。私、足手まといですよね……」


「そうじゃねぇよ。オレは人を守りながら戦ったことがないってだけ。一人なら余裕だわ!」


「わ、わかりました! その、気をつけてくださいね!」


 プレイヤーが消える。よぉし、守りは気にせず全力でぶっ飛ばせるぜ。翔矢が拳を構えると、魚人が右手を動かして何かを掴む仕草をした。


 するとその手の中に、黒い剣がどこから現れる。鋼の表面からは黒い煙がゆらゆらと伸び、鍔の部分に強く輝くものが見えた。二つの火の玉が埋め込まれているのだ。翔矢はそこから気配を感じた。


「まさか、いるのか? ボイス、親父達の意識があそこにあるかもしれない」


『対象物をスキャン開始……生体反応に似た信号をキャッチ。二人の意識があそこにとらわれている可能性がある! 剣を傷つけるのは避けて、隙を見て魚人の核を砕くんだ』


「やっぱ、それきゃっねぇよな!」


 剣を持ち、魚人が走り出す。翔矢は肩幅に足を開いて拳を構えて迎え撃つ。おおよその狙いをつけて拳を振りかぶる。


 魚人はその全てをぎりぎりで避けながら、剣を上から振り下ろす。翔矢が後ろに飛んで避ければ、筋力が増強されているのか軽々と5メートルは飛んでいた。驚く間もなく、魚人が跳躍して追いかけてくる。


 空中で左右に何度も剣が振るわれるのを冷や汗を流す思いで何とか避けて、魚人の胴体に蹴りを入れる。道路に叩きつけた奴の頭を、落下しながら狙いをつけ、再び拳を打ち下ろす。


「くたばれ!」


「──ギャ、オオオオッ!」


『翔矢!!』


 ドォンという銃撃音が空気を揺らし着弾した瞬間、どす黒い煙が魚人から吹き出して弾ける。その姿が消える間際、魚人がニヤリと笑い、なにかを投げてきたのが見えた。鋭い勢いで飛んできたものは腕に当たり、激痛が走る。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ