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28、立ち尽くすくらいなら、とりあえず一歩前にすすんどけ 前編

 翔矢と美琴が頑丈なセキュリティーを通って会社内に入ると、受付前でボスの秋成が待っていた。


「二人とも、よく来てくれた」


「親父達の容体は?」


「まだ目を覚ましていない。医師から詳しい説明が聞けるが、どうする?」


「そんなもん聞くに決まってんだろ。美琴、お前は?」


「わたしも一緒に行くよ。お兄ちゃんは難しい話は苦手だもんね」


「そっちは向いてねぇの。オレだってなぁ、全力を出せば半分くらいはわかるぞ」


「半分じゃ全然足りないでしょ」


「そこはほら向いてる奴が聞いときゃよくね? 頼りになる妹でよかったぜ」


「もうお兄ちゃんってば!」


 堂々とにやりとしてやると、さっきまで泣きそうな顔をしていた美琴が語気を強める。……よしよし、いつもの調子が出てきたな。翔矢は自由奔放に振るまいながらも、妹の様子に目を配る。


「では案内しよう。清一郎(せいいちろう)、ご苦労だったな。君は通常業務に戻ってくれ」


「ラジャーっす。翔矢クン、美琴チャン、オレの連絡先はボイスに聞けば手に入っからよぉ。もし、何か助けが必要なら気楽にかけていいぜ。クソほど忙しいことなんか、ほっとんどねぇから」


 遊びでもデートでもお誘いも大歓迎だ、と調子よく笑って、清一郎はがに股歩きで離れていく。ガラが悪そうに見えていい人だな。


「あっ、お礼を……」


「あの通りの男だからな、気にしないだろう。もしそれでもお礼をと考えるなら、菓子でも作ってやれば喜ぶぞ」


「ほぉ~? あの面で甘党か。これは仲間を見つけたな」


「お兄ちゃんもチョコレートが好きだもんね。この件が無事に終わったら、なにかお菓子を作ってみます」


「そうだな。今回の厄介事が先だ。二人の様子を見に行こう。私について来てくれ」


 二人は秋成の後に早足でついて行く。自分の会社なだけあって、その歩みに迷いはない。翔矢は気遣うように視線を向けてくる受付嬢に軽く頭を下げて、エレベーターに乗る。秋成が胸ポケットからカードを出すと、ボタンの横にある溝にカードを通して、一番下の無地のボタンを押した。


 エレベーターが静かに動き出す。震動がほとんどないため、上に進んでいるのか下に進んでいるのか、わからない。すげぇな、こんなとこまで金がかかってやがる。


「医療施設はこのカードを使ってボタンを押せば行ける。二人が退院するまでは、翔矢に渡しておく」


「重要なカードか」


「絶対に落とさないでね」


「任せろ。それにしても手間のかかる仕組みだよな? どうしてこんな面倒な形にしてるんだ?」


「情報漏洩への対策だ。医療施設は研究施設とも繋がっている。場所さえ分からなければ、万が一ここに敵の襲撃が遭った時も入院している者を守れる。非常時に他の者の手が回らない場合を想定して作られたものだ」


 なるほど、納得する言い分ではある。このエレベーターの震動をほとんど感じないのも、何階か分からないようにするためかもしれない。頭のいい奴がいかにも考えそうな感じだ。


 エレベーターが停止して扉が開くと、その先には普通の廊下が続いていた。しかし通行者は白衣を纏う者が圧倒的に多い。社長を見つけた者は会釈をしているようだった。擦れ違う度に背中に続く翔矢達に気づいて、目を丸くしている。


 秋成は受付まで行くと、パソコンに向かう猫っ気の青年に声をかけた。


「ジュリアはいるか?」


「え? あっ、社長!? ジュッ、ジュリア先生なら今は巡回検診してます!」


「そうか。直接病室に向かった方が速そうだな。二人とも、それでもいいか?」


 親父達に対面する覚悟は出来ているか。秋成の目はそう聞いていた。翔矢は首を鳴らして毅然と顔を上げる。


「──いいぜ。まずは親父達の面を見ないとな。ごちゃごちゃ考えるのは後でも出来るだろ」


「私も、お兄ちゃんがいるから大丈夫です」


 後ろに僅かに服が引っ張られる感覚がした。美琴が翔矢の服の裾を握りしめているのだろう。翔矢は一瞬考えると、背後に向けて右手を出す。服が引っ張られる力が抜けて、冷えて震える手が縋るように掴んできたので、握り返してやる。


「わかった。青山(あおやま)君、彼等の顔を覚えておいてくれ。鉄次と沙織の子だ。これから顔を見せるようになるだろう」


「はいっ、わかりました」




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