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26、悩む時間はもったいねぇから、行動してから考えろ!

 新聞部の部屋は簡単に見つかった。何しろ、三階に登ると正面の壁に新聞部への案内板が設置されていたのだ。ご丁寧に矢印付きで【左は新聞部行き、五百メートル先です】と書かれている。アホみたいな案内図に助けられて、翔矢は新聞部に辿り着く。


 閉ざされた扉の真ん中に新聞部と書きなぐられ、周囲を派手に飾りつけられていた。地球の絵の周りにUWOが飛んでいたり、鳥居の門が描かれていたと思えば、ツチノコのような絵もある。それを見ただけで、どんな活動をしているのかは大体わかる。


 翔矢は一応ノックをしてかドアをスライドする。


「たのもー。張り出されてた画像のことを聞きたいんだけどよ、あれは誰が貼ったんだ?」


「いらっしゃーい。おやおやー、入部希望者かなー?」


 間延びした声が返り、上履きをぺたぺた鳴らしながら、小学生に見えそうな生徒が奥から出てきた。


 ふわふわの猫っ気の中で、子供のように大きな目がとろんと笑っている。翔矢と比べて、随分と背の小さな生徒だった。だが、信じられないことに、彼女の制服の胸元には三年生の記しである緑の花が刺繍されていた。


「ようこそ新聞部にー。君は一年生だねー? 入部かな? 入部がいいなぁ。入部どうー?」


「悪いね、入部はしねぇんだ。オレが知りたいのは張り出されてた画像についてなんだけどな。あんた、わかるか?」


「そうなのー? 入部じゃないのー?」


 相手の眉が悲しそうに下がる。翔矢はまるでいたいけな子供に意地悪をしてしまったような気分になった。いや、オレ悪くないよな!? うっかり流されかけて、はっと我に返る。


 萎れた小さな頭が赤い物で叩かれて斜め前に傾く。


「いたいー」


「痛いじゃないの! また無理な勧誘をして。君、ごめんね。蘭が困らせたでしょ? この子に悪気はないんだ。許してやって」


 ピコピコハンマーを片手に現れたのは、ツナギが似合いそうな男子生徒だった。子供番組のお兄さんでいそうな感じだ。よい子のみんなー、元気~? そんな空耳が聞こえた。


「あんたは?」


「あぁ、わかんないよね。僕は副部長の青嶋(あおしま)喜一(きいち)。この子が部長の()無月(なづき)(らん)だよ。新聞部は僕達二人だけなんだ。とは言っても実際に活動してるのは主に蘭で、僕はお目付け役ってとこかな」


「お目付け役はいらないー。部員が欲しー」


「わかってるけど、無理強いは駄目! ましてや相手は下級生じゃないか。君はもう少し上級生の自覚を持とうね。そうやって暴走するから手綱を取れなんて僕が頼まれるんだよ?」


「私は馬じゃないー」


「はいはい。馬じゃないね。馬じゃないって言うならダレないの。ほら、後輩の前なんだから背筋を伸ばす!」


 もう一度ピコッとやられて、蘭はほんの少し背を伸ばす。見るからに母と子のようなやり取りだ。それも子供は幼稚園児くらいに見える。


 オレは突っ込まねぇぞ。無言で見物していた翔矢に、喜一は苦笑を浮かべた。


「待たせてごめんね。画像のことが聞きたいんだよね? あれは昨日ネットゲーム中に、蘭が撮ったものだよ」


「またネットかよ……いつ頃、ゴッドブラザー大戦で撮ったってのは本当か?」


「たぶん七時半頃かなぁ? そうだよー、そのゲーム。遊んでいたら突然現れて、でもすぐに消えちゃったの」


「あの化け物を実際に見たのはあんただけか?」


「ううんー。喜一も一緒だよ。私達チーム組んでるから」


「なるほど、わかった。情報をありがとよ」


「どういたしましてー。また遊びに来てよー。ちなみにね、入部ならいつでも歓迎ー」


 のんびりと手を振る蘭と微笑みを浮かべる喜一に、翔矢は軽く手を上げて新聞部を後にした。


 七時半頃なら、翔矢が帰宅後のことになる。ということは、親父達が相手をした奴とは別者が存在することになるな。まったく、面倒な予感しかしないぜ。


 新聞部から十分に離れると、翔矢は時計を確認した。ボイスはまだ戻っていない。すぐに三階から別校舎に続く渡り廊下に移動して、親父に電話をかける。二回目のコールで電話が繋がった。


「親父か? 今どこにいる? 近くにボスさんがいるならすぐ繋いでくれ」


「いきなりどうした? 何かあったのか?」


「ディークラウンの目撃情報があった。それも退治されてない可能性がある奴な。だから直接教えた方が正確だろ?」


「話はわかった。オレは本社にいないから一度切るぞ? すぐに秋成から電話をかけてもらうようにするから、待っててくれ」


「ボイスが先に会社に戻ってるから、親父達のところにも連絡がいくかもしれないぜ」


「それなら、秋成がすぐに指令を出すはずだ。だけど、お前は安全が確認されるまで学校の外には出るなよ? 美琴にはオレから連絡しておくから」


「出ねぇよ。今から授業だからな」


「そうか。なら、安心だな。そうそう、今日の夕飯はキムチ鍋だぞ! 勉強頑張れよ」


 呑気なエールを最後に通話が切れると、それほど間を置かずに着信が鳴った。翔矢はすぐに出る。


「ボイスと親父から話は伝わってるか?」


「ああ。こちらはヒーローに集合をかけたところだ」


「さすがヒーローのボスともなると仕事が早いな。こっちは写真を撮った先輩から話を聞いておいたぜ。昨日の午後七時半頃に、ゴッドブラザー大戦ってゲーム内で見たってよ。相手はなにもせずにすぐ消えちまったらしい。そん時にスクショした画像が構内に貼り出されてたんだよ」


「良く知らせてくれた。それでは人員をネット内にむかわせる。君の方で他に変わったことがあったら連絡してくれ。こちらもディークラウンを片付け次第知らせよう」


「おう。じゃあ、そろそろ予鈴が鳴りそうだからオレは戻るわ」


「情報に感謝する」


 ぷつりと通話が切れた。オレに出来ることはこのくらいだな。関わらねぇって決めたんだから、後は任せておけばいい。そう思いながら、翔矢はスマホを胸ポケットにしまってバックを肩にかけ直す。……退治されたって知らせがあるまでは気になりそうだ。





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