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25、たまに大当たりする人間の勘ってのはマジで馬鹿にならねぇから

 実は緊急出動したのが両親だったと聞いたのは、翌日の登校時間のことだった。道理で二人揃って帰宅が遅かったはずだ。なにも言わないから、てっきりいつもみたいに夫婦でデートでもしていたのかと思っていた。


 美琴も同じように考えていたのだろう。両親の活躍をアイズとボイスから聞いて素直に感心している。


「一般人にムービーで撮られることも考えて、ゲームイベントの振りをするとか、ヒーローって闘う以外にも苦労があるんだね」


『はい。しかし昔よりも状況は改善されました。リアルで事件が起こると目撃者の有無の確認から怪我人の処置など事後処理に時間がかかりますが、オンライン上であれば、ユーザーを強制的にログアウトして守り、サイトのシステムダウンを装っている間にヒーローが対応すればいいのですから』


「人を守りやすくなったってことだな。でも、いままでよく外部に漏れなかったもんだ」


「うん。いくら記憶を消せるといっても、鋭い人ならなにかおかしいって思うでしょ?」


『仮に疑った所で、誰もそいつの言葉に耳を貸さない。翔矢も美琴も秋成に会うまでは疑っていただろう? 問題なのは、次々と現れる敵を相手にするには人出が足りないことだな。だから現在在籍しているヒーローに負担がかかってしまう』


『組織はそれを改善しようと、いろいろな場所で有望な人材を探しスカウトしています。ですが、公には出来ない仕事なので人は選ばざるを得ないのですよ』


「誰でもなれるってわけじゃねぇもんな」


「口が堅いことも条件には入ってるの?」


『もちろんです。一般人に知られるわけにはいきませんので』


「だよな。オレ達もずっと知らなかったし。母さんも親父も、オレ達が知らない所でずっと人間を守っていたとか、説明された今でもにわかには信じがたいぜ」


『翔矢?』


 時には危険もあるはずだ。言われなくてもその程度の想像は翔矢にもつく。オレにわかるんだから、美琴だって気づいているよなぁ。隣を歩く妹を見れば、しょぼくれた顔で俯いている。


「誰にも感謝されないのに、どうして身体を張って頑張れるんだろうね」


『声に不自然な揺れが観測されました。美琴はなにか悩んでいるのですか?』


「ふと思っちゃったの。人を守るためにお父さんとお母さんが戦っている事実を知ったのに、何もしなくていいのかなぁって……でも、なにかが出来るような自信もないから、自分の中途半端な気持ちにもやもやしたの」


「お前はいい子だから、罪悪感をもったんだろ? だけど、兄ちゃんは悪い子だからやる気になれねぇわ。顔も知らん誰かのために命をかけて戦おうとは思わない」


『オレ達の持ち主になることで、翔矢は組織に十分な協力をしている』


「そうかねぇ?」


『事実だぞ。人工知能は嘘をつかない!』


 ノイズが小さな胸を拳で叩いた。愚直な視線には知能の高さを表すように聡明な光がある。そんなつもりはないのだろうが、励まされているような状況に美琴が笑った。よしよし、落ち込んでいるよりよっぽどマシな顔だ。




 合流しなかった和希の奴は寝坊か? 美琴と別れた翔矢は納豆の縁である悪友を一瞬だけ気にして即座にまぁいいと忘れると、校舎に入った。しかし、なんだかざわついている。どうやら、靴箱の前に人だかりが出来ているようだ。生徒達の目は掲示板に向けられている。靴を履き換えて翔矢も興味本位に輪に加わってみた。


《スクープ! ゴッドブラザー大戦に怪物現る!?》


 大文字でそんな見出しがつけられたのは、新聞部作成の学校新聞だった。翔矢の高校の新聞部は風変わりなネタを張り出すことで有名なのだ。これまでは校長先生の酒豪疑惑からUMAや幽霊、なになにナンバーワンなど様々なことを新聞にしていたが、今回は翔矢も知るネットゲームの関係だったようだ。


 張り出された画像のコピーには、魚人のような姿が激写されていた。


「ん? どっかで見たような……?」


 人ごみを掻きわけてもう少し近づいて、まじまじと人外生物を眺める。頭は魚。手足が生えており、全身が鱗に蔽われているようだ。


「昨日サーバーがダウンしたんだろ? 集中しすぎで重くなったからじゃねぇのって話だけど、実は新キャラが流失しちゃったとか?」


「どうなんだろうな。でも、こいつあれと似てねぇ? ほら、ガキの頃に朝のテレビでやっていたなんとか戦隊に出てくる怪人!」

 

「あ~似てる! あの被り物ってさ、中が蒸れてクソ熱いらしい」


「そうなのか? 変なことに詳しいよなぁ、お前。でも、よく撮れてるじゃん! 今後こいつが新キャラで出るのか公式サイトの動向をチェックしとかねぇと」


 前方でそんな声が上がっている。翔矢は首をひねって違和感を見つけようと記憶の引き出しを開いていく。

 それほど前に見たものではないはずだ。


『あれは本物だ』


 ぼそりと呟いたボイスの言葉を拾い上げて、社長室で見せられた人外の映像を思い出す。あれに魚人の姿をしていた。まさに写真と瓜二つだ。


「マジかよ?」


『データの画像と照合の結果九十八パーセントの確率で本物と出ている。翔矢、オレは確認のために一度本部に飛ぶ。ネットワークを通じて戻るから、もしなにかあったらオレの名前を呼ぶといい』


「へいへい。こっちは新聞部に行ってみるわ。どこで撮ったのかくらいは調べといてやるよ」


 独り言のように小さな声でそんなやり取りをした後に、翔矢は人だかりを離れると階段を駆け上がっていく。新聞部は三階の左端に部室を持っていたはずだ。変わり者が多いと噂に聞いたことがある。やれやれ、面倒なことになりそうだぜ!






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