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21、バッティングとボーリングが運動なら、ゲームは頭の運動だろ 後編

 【ゴッドブラザー大戦】はオンラインで、ネットを通じて兄弟設定の六人のキャラクター達とタッグを組んで遊ぶ今人気の対戦ゲームだ。


 ゲームに勝利するとゲームで使うコインやアイテムを貰えるのだ。ファミリーに所属することも可能で、その場合はファミリーホームという場所をつくり、共同の空間を持てる。そこにアイテムを持ち込んで寛ぐことも出来る自由度の高いゲームが売りらしい。


 今のは全部、和希の受け売りだ。翔矢はゲームに詳しくないのだが、誘われて最近遊ぶようになった。VRなので迫力がけた違いで最初は驚きまくったが、ようやく体や武器の使い方をスムーズに行えるようになった。慣れちまえば面白いから時間を忘れて遊んじまうんだよなぁ。


「ゲームは頭の運動だって和希が言ってたぞ?」


「勉強しなさいって言われた子供の言いわけみたいだね。美琴ちゃんは弓道部なんだ? イメージにぴったりだね。凛々しく弓を射る姿を想像しちゃうよ」


「ありがとうございます……」


「本部の方にもまた遊びにおいでよ。怖いお兄ちゃんも連れて来ていいからさ」


「誰が怖い兄ちゃんだ、こらっ。いいのかよ、そんな気軽に誘って」


「いいのいいの。普段は鍛錬がお仕事だから、けっこう暇なんだよ、って」


 軽い調子でそんなことを言っていると、誰かの携帯と翔矢と美琴の腕時計が鳴る。人目を気にしてスリープモードになっていたボイスとアイズが画面に現れた。


「どうした?」


『南西三キロ。住宅街のオンラインに敵を感知した』


『安全が確認されるまで美琴と翔矢は現在地に留まってください』


 それと同時に、ジャケットの胸ポケットからスマホを出した純の顔が情けなく歪む。


「……うわぁ、噂をすればって奴だよ。ごめん。任務が入っちゃったから、三人は先に食べててよ。近くだし、すぐに終わらせてくる」


「一人で大丈夫なんですか?」


「うん。相手一匹だけだからね。しかもレベルDだし、これってほんと最低レベルで負けたら恥ずかしいくらい」


『純、油断は危険です。どんなに弱い相手でも敵には細心の注意を払ってください』


「時間がかかるなら連絡しろ。私達はタクシーを拾って先に帰る」


「そんなこと言うなよー、音和。応援に駆けつけるとか、してくれてもいいんだよ?」


「時間は無駄にしない主義だ」


「冷たい! って、冗談はこのくらいで行ってくるよ。冷めちゃったら美味しくないし、オレが頼んだ分は翔矢が食べといて。そのくらいなら余裕でしょ?」


 ひらひらと手を振りながら、純は足早に店を出て行く。入れ替わるように、皿を両手と手首に乗せたマイクが姿を現す。


「お待たせデシタ! 他に注文ありデス?」


 翔矢が確認するまでもなく、アイズは空気を読んで再びスリープモードになっていた。本当に人間みたいな人工知能だ。


 マイクはテーブルに皿を並べて、フォークとお箸を二人の前に揃えてくれる。眩しい笑顔を見せながら聞かれて、翔矢は悪い顔でデザートをさっと指差す。


「チョコパフェとショートケーキを追加で」


「お兄ちゃん、奢りだからって勝手に増やしちゃよくないよ!」


「そのくらい純でも払えるだろう。迷惑料と思って頼めばいい。私はチーズケーキと紅茶を頼む」


「ほら見ろ、この女もそう言ってるぞ。遠慮なく食っちまえ。」


「い、いいのかなぁ?」


「グラッツェ。ワタシの自信作デス。何時頃もつデスカ?」


「全て食後でいいな?」


「おう」


「わかりマシタ。食後にもつデス! ごゆくりドゥス」


 デスがドゥスになったことにも気付かない様子で、マイクはきらりと輝く笑顔で頭を下げて戻って行く。シャツの背中に羽が描かれている。これまた強烈なキャラクターだな、おい。


 翔矢の頭の中で、森に帰る妖精男が振り返りドゥスと手を上げた。


「ははっ! あのコック面白れぇな」


「……笑うと随分印象が変わるんだな」


 純が驚いたように一瞬目を丸くしてそんなことを言った。おい、それはどういう意味なんだ? そんな反応をされるほどおかしな顔をした覚えはなかった翔矢は、首を傾げるしかない。


「そうか?」


「ああ。眼つきの悪さがなくなると……いや、なんでもない」


「おいっ、気になるとこで止めるなよ!」


「お前は笑わない方がいい」


 そっけなく目を逸らす音和に、翔矢は頬をひきつらせる。こいつ、無礼すぎんだろ!? 女じゃなかったら、とっくに料理の皿をぶん投げてるところだぜ! 袖をつんつんと引かれて、翔矢は我に返る。美琴が心配そうに顔を曇らせている。わかってるよ。腹が立つが店で暴れる気はない。くっそ、なんだってこんな女と飯を囲まなきゃなんねぇんだ!?


「えっと、せっかくの料理ですから冷めないうちに食べましょうか?」


「あぁ。純の分まで食べてしまえ」


 美琴のフォローに音和は平然と頷くと、パスタに手を伸ばす。翔矢も八つ当たりのようにピザにかぶりついた。しかし、その美味さにわりとすぐに苛立ちを忘れるのだった。美味い飯に罪はない!




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