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20、バッティングとボーリングが運動なら、ゲームは頭の運動だろ 前編

 駐車場には六、七台おけるスペースがあり、そのほとんどが埋まっていた。純がサイドブレーキを上げて車を止めた。


「オレ、ここの常蓮なんだ。凄く美味しいパスタがあるから期待しといて」


 三人は車を降りると、チョコレート色のドアを押し開く。上でベルが鳴り、翔矢達の来店を店員に知らせる。


 左右にあるガラスのショーケースには、針金で出来た巨大なチェロと弦が音楽を奏でるように設置されていた。そこから出てきた音符は、ショーケースから飛び出して店の天井や壁まで広がっている。その周囲には背中に羽を生やした小さな妖精の姿もある。


「いらっしゃいマセ! ようこそチョロマンカへ」


「こんにちは、マイクさん」


「Oh、純クン、音和チャン! 後ろの二人はハジメマシテですね?」


 出迎えたのは苺のプリントされたエプロンをつけた大きな外国人だった。茶髪にグレーの瞳の大男に、きらっと笑顔を向けられた。


「どうもー」


「こ、こんにちは」


「クール、キュート、素晴らしい! サムライボーイ&ヤマトナデシコ! ワタシ、マイク・グラダスが名前デス。美味しい料理作りマス! ぜひ食べてくだサイ。予約席にご案内デス」


 ちょっとばかし発音が怪しい日本語で案内された席には、アンティークのようなテーブルと肘が付いた椅子が置かれていた。メニュー表は洋風の古い本を模っており、まるで別の世界に来たような気分になってくる。


 翔矢と美琴はMサイズのピザとサラダとたらこパスタを注文し、純はトマトパスタ、音和はサンドウィッチを頼む。お冷を運んできたマイクは注文を取ると、スキップするような足取りで厨房に戻って行った。


「わざわざ予約してたのか?」


「うん。お客さんが多いからね、予約してないと食べれないことがあるんだ。音和とは何度か食べに来たことあるよね?」


「味は認めるが、私は一人でこの店に来る気はない」


「ははっ、君が一人で来てたらギャップに周りがびっくりしそうだね。男ならなおのことちょっと勇気がいる店だし。ほら、メルヘンな作りだからさ」


「お前は平気で来てるようだがな」


「この店のパスタが美味過ぎるんだよ。多少の恥ずかしさは捨てちゃえるよね」


 それほど褒めるのならば、料理には期待出来そうだ。メルヘンな造りに囲まれるのはケツが落ち着かないが、その分は高いものを食ってやるぜ! 翔矢はいかに純の財布にダメージを与えるかを企みながら、お冷に口をつける。よく冷えた水が美味い。


 コップを戻しながら隣に座る妹を見れば、美琴は周囲を見ては目を輝かせている。メルヘンな世界は妹の心を惹きつけたようだ。


「こんなへんてこなのが好きなのか?」


「へんてことか言わないの! 可愛いいでしょ」


「なるほど。オレにはまったくわからん世界だな」


「翔矢もオレも男だからね。美琴ちゃんには気に入ってもらえて嬉しいよ。ここはね、デザートも美味しいんだ。オレのお勧めはレアチーズケーキ。二個くらいはぺろっと食べれちゃうよ。今日はオレの奢りだからお金は心配しなくていいからね」


「最初からそのつもりだ。追加でこの店で一番高いものを頼んでやる」


「お兄ちゃんったら」


「翔矢なら絶対に言うと思ったよ。でも、残念でした! この店はね、財布に優しいことも売りなんだよ。君の胃袋くらい簡単に満たしてくれるとも」


 なぜか自慢気に顎を上げて見下された翔矢はイラァッとしたので、メニュー表をめくり、じっくりと高額なブツを探す。オレに喧嘩を売ったことを後悔させてやるぜ!


「そんな、奢りなんて悪いですよ。そんなことをしてもらう理由がないですし……」


「形は違えども、お前達もこれから同じ職場で働くのだろう? ならば先輩後輩に当てはまる。これはこいつなりの歓迎の仕方だ。遠慮することはない」


「そうそう。可愛い後輩が出来て嬉しいんだよ。翔矢は生意気だけどね」


「お望みなら可愛くなってやろうか? せんぱ~い、あたしテイクアウトも希望したいなぁ。ここからここまでぜーんぶぅ」


 女子高生っぽく可愛らしく目をぱちぱちさせて、可愛らしく指でメニュー一覧のテイクアウトに指を滑らせると、余裕ぶっていた純の顔色が悪くなる。


「やめてぇ! オレが生意気言いましたーっ!!」


「このオレに口で勝てると思ったか!」


「椅子にふんぞり返るな。周囲に笑われているぞ」


 高笑いしていた翔矢は周囲で固まる女性の視線を笑いながら浴びていることに気づく。女性率が高いから、悪目立ちしてしまったようだ。ま、気にしないがな! ふと、正面に座る音和にじっくりと見られていることに気づく。


「ジロジロとなんだよ?」


「いや、よく見るとそこそこガタイがいいと思ってな。部活には入っていないのか?」


「うちの学校は強制じゃないから入ってない。ちなみに美琴は弓道部だ。運動ってことなら、オレはダチとバッティングセンターでバット振り回したり、ボーリングで球をぶん投げたり、最近はVRゲームの【ゴットブラザー大戦】をしてるくらいだな」


「最後のは運動じゃないでしょ!」


 美琴から鋭い突っ込みが入った。






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