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17、授業の復習はする気もねぇが、やられた分の復讐は必ず返すもんだ!

 校門前が騒がしい。推しアイスの話で和希達と盛り上がっていた翔矢は、靴を履き替えながら不思議そうに首を捻った。。


「なぁ、やけにうるさくねぇか?」


「だよね。う~ん、ここからじゃ見えないけど女子がすごく騒いでる。もしかしてさ、芸能人が来てるとかかな!?」


「まっさかぁ。芸能人がオレ達の高校になんの用があるんだよ?」


「夢がないなぁ。ほら、よくテレビの企画でどっきり訪問シーンとかあるじゃん」


「ないない。うちの学校に限ってそりゃないだろ。だって考えてもみろよ、特別に優れた活躍してる生徒もいないのにこんな平凡な学校に来る意味ないって」


「そんなに気になるなら直接確かめりゃよくね? ほれ、行くぞ手下共」


「誰がお前の手下だよ!」


「へいっ、親分」


「ぶははっ、ノるなよ広香。現役女子高生のセリフじゃねぇよ」


「うるさいぞ、手下その一」


 うだうだと無駄な会話を続けながら翔矢は校舎の外に出た。そうして、女子が集っている中心部を目指してずんずん進むと、黄色い声も同時に大きくなっていく。


「凄く格好いいですね」


「あの~モデルさんですか?」


「アタシ、そっちの人は見たことある! もしかして、彼女さんだったりします?」


「ファンです。私の番号貰って下さい!」


「困ったなぁ。あのね、この人大きい声って苦手だからさ、君達もう少しボリューム落としてくれる?」


 群がるハイエナ──おっと、間違えた。群がる女子達の間からちっとも困っていない野郎の声が聞こえた。その瞬間、翔矢は上げかけていた足と手をそのままに停止する。そして、すうっと気配を消した……い。わかってる、ただの願望だ。オレにそんな器用な能力はない! 


 しかし、努力はしようと呼吸を潜めてみる。そして背を猫背にしてみた。どうだ、これなら、三パーセントくらい消えたんじゃないか? 残りの九十六パーセントは見えてるかもしれんがな!


「オレのお願いを聞いてくれる子いないかな?」


「じゃあ、代わりに番号教えて下さいよぉ」


 群がる女の子の間から見えたのは、予想通りの奴等だった。押しの強い女子に言い寄られて、眉を下げてへらへらしている男は純だ。その隣で腕を組んだ音和が無表情に車に寄りかかっていた。切れ長の目に獰猛な色が見え隠れしている。あれは相当キテいるな。


「オレハナニモミテイナイ」


 翔矢は片言で呟くと、踵を返して後ろから追いかけてくる二人を制そうとした。その時、猛獣と目が合う。俊敏に頭を下げて女子の壁に隠れたが遅かったようだ。


「──どけ」


 恫喝したわけでもないのに、その一言で群がる女子は静まりかえり、音和の一瞥で女子の壁が割れた。


「あれっ、どっかで見たことある人だな? もしかして本当に芸能人か?」


「でもなんかこっち来てるよね?」


 呑気な二人が正反対の反応を示す。興奮に顔を赤らめる広香とつまらなそうな顔をしている和希の腕を両手に掴んで、翔矢は回れ右をする。まだ間に合う、裏門から逃げるぞ!


「わっ、なになになんなの!?」


「翔矢、早いって! 後ろ歩きなのにそんな早く歩けねぇよ!」


「ガンバレ。お前達の身体能力を今こそ覚醒させろ」


「出来るかぁっ!」


「ちょっとおっ、普通に転ぶ未来しか見えないんだけど!?」


「デキルデキル~」


 新種の動物の鳴き声のようにだみ声で返しながら、足の上下運動をしていると、後ろから強烈な待ったをかけられた。


「今すぐ止まらないと、この場でアレをバラすぞ翔矢」


「言う通りにしといた方が賢明だよ。もう一人は確保済みだしね」


 脅しをかける音和と、笑い交じりの純の声に、翔矢は足を止めた。


「だはぁっ、急に止まるな馬鹿!」


「あっぶないなぁもうっ、結局知り合いなわけ?」


 文句をいう二人を他所に、翔矢は頬を引きつらせた。……とんでもねぇ予感がするんだが、間違いだよな? 心なしか車の後部座席から湿った視線を感じる。


 音和が猛獣が気配を殺し獲物に迫るような足取りでこちらに向かってくる。そして、立ち止まった翔矢の腕を掴んだ。


「わざわざ迎えに来てやったんだ、さっさと車に乗れ」


「運転してたのオレだけどね?」


「オレに会いたけりゃ事前のアポンドくらい取れよ。ところで橘サン、あんたに聞きたいんだが、後部座席に乗っている見覚えのある子はオレの妹で間違いないのカナ?」


「そうだけど! ちゃんと事情を説明してついてきてもらってるから拳を握るのは止めような!?」


 翔矢は目に殺意を込めて笑顔を浮かべた。マジで切れちゃう五秒前だ。拳を握った翔矢に純が慌てて弁明する。わざと名字で呼んだからか、音和が眉間にうっすらと皺が寄せる。


「……鉄次さんには連絡してある。とにかく一緒に来い」


「妹ちゃんのお隣にどうぞ。ちなみにアポンドじゃなくてアポイトメントだからな?」


「うるせぇ、駄犬野郎」


「酷い!」


 嘆きながらも純が後部座席のドアを恭しく開くので、翔矢は唖然としている広香と貴士を振り返った。


「悪い。ちょっと妹が拉致られそうだから、今日は帰るわ」


「だからどういう関係なの!? そのイケメンって雑誌の人じゃん!」


「説明してけよ! なんで翔矢がそんな美人と知り合いなんだよぉ~?」


「ウン、マァ、グウセンだ」


 悲鳴交じりの声にそう答えて翔矢は車に乗りこむ。とたんに、転がり落ちそうなほど涙をためた美琴が抱きついてきた。


「お゛に゛い゛ぢゃぁぁん゛!!」


「こんな濁ったお兄ちゃんは初めて聞くぞ。よしよ~し、ここにいるから落ち着けって」


「ゔゔっ、私も待ち伏せされて逃げられなかったの……」


「酷いとこに連れてこうってわけじゃないから、安心してな? 動くからシートベルトをよろしく!」


 運転席に戻った純が苦笑しながらそう言う。助手席の音和は無言で目を閉じているようだった。窓越しに見える女子達がゆっくりと動き出した車から僅かに距離を取る。鼻をすする妹の頭を撫でてやりながら、翔矢は考える。逃げられねぇなら仕方ない。話だけは聞いてやる。ただし、みみっちぃ嫌がらせはするぜ! 復讐を忘れない少年、翔也は、動き出した車の中で悪い顔を隠した。






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