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15、クラスの色は、担任の性格に意外と影響されるもんだぜ 前編

  遅刻ギリギリで教室に滑り込んだ翔矢達は、教師からセーフの判定をもぎ取った。


「二人共、今日はサービスするけど次回はアウトだからな!」


 高校に上がって初めて担任になったのは、三十代のさばさばした女教師の野宮のみやだ。男子生徒が悪ふざけすると、一緒に乗っかるような面白い教師である。叱ることはあるが怒ることがないので、そんな担任に感化されたのか、クラスの空気も自然と賑やかなものになっていた。


 席について鞄から教科書を出していると、隣の席の女子生徒、倉木広香くらきひろかが小さな声で話かけてくる。


「あんた、いつももっと早く来てるよね? 今日はどうしたわけ?」


 彼女は物おじしない性格で、男女共に交友関係が多い。翔矢に普通に話しかけられる稀少な女子という意味でも珍しい存在だろう。翔矢は面倒臭そうに席に座ると机に頬杖をつく。


「和希に足止めされてたんだよ。話してたら学校のことうっかり忘れてた」


「へぇ、なに話してたわけ? やらしい話だったり~?」


「お前の顔の方がやらしいわ。どーでもいいから、前向いとけ」


 朝から絡んでくる広香にぼやいていると、野宮の目が光った。


「そこ! ちゃんと聞いとけー」


「へぇーい」


「すみませーん」


 素直に頭を下げた隣で、広香が口元を両手で覆って笑いを取りにいく。茶髪に顔にそばかすのある広香は勝気な性格で男女関係なく付き合いがあるため、クラスメイトからは好かれている。そんな彼女のふざけた言葉に、さざ波のような笑い声がクラスに広がった。野宮がとんとんと教卓を叩いて生徒の注意を戻した


 再開された授業に、翔矢も耳を傾ける。すると、後ろから背中を突かれた。ちらりと振り返ると、真面目そうな男子生徒がおずおずと紙切れを差し出していた。……そんなに怯えなくてもいいだろうが。睨んでねぇよ? ここで愛想笑いでもしようものなら、さらに怯えられることを知っている翔矢は、軽く頷いて紙を受け取った。


 ノートの切れ端を使って書いたのだろう。大きな文字で【悪い!!】と殴り書きがされており、その下にはへたくそな猫が泣いてる様子が書かれていた。額に和の字がある。そんなもんがなくても見慣れた字だ。手紙の主が和樹であることなど、翔矢には一目でわかる。


 授業中に手紙を回すなんてなにやってんだって話だが、実はクラスではよくやられる手だ。スマホを使うより実はこっちの方がバレにくかったりするのだ。


 翔矢は同じ切れ端に吠えてる狼の口横に【放課後、アイス】と返事を書いて、野宮の目を盗んで後ろに渡した。これでチャラにしてやろうとは、我ながらなんて心の広い男だ。天使になれそうだぜ。悪魔の羽と尻尾の方が似合う少年は、そんな周囲の評価を知らずに自画自賛するのであった。


 それから授業はするすると進み、生徒の朗読の途中でチャイムが鳴った。五分休憩の間に和希がこちらにやってきた。


「小遣いあんまり残ってないから、高いのは無理だからな!」


「なんだ、ケチケチするなよ。オレは箱アイスを所望する」


「ざ・け・ん・な! 百五十円以上は出さねぇぞ!」


 隣で派手系の女子生徒と駄弁っていた広香が、和樹の叫びを聞いて面白そうに口を挟む。


「なになに、あんたもう金欠なの? 六月に入ってまだ三日目じゃん。なににそんなお金使ったわけ?」


「だってさぁ、今月は予想外の出費が多かったんだ。CDとゲームの発売日だったし、アヤちゃんが雑誌に出てたから思わず衝動買いしちまったし」


 金欠野郎のくせして幸せそうにデレデレしている和希に、周囲の女子生徒が唾でも吐きそうな目をする。ちらちらこちらにも目をくれるが、オレを一緒くたに考えるなよ?


「アヤちゃんってあの爆乳アイドルでしょ?」


「男って、本当にしょうもないね」


「胸がでかけりゃいいわけ~?」


「ええ、野郎ですから! 男はみーんな、可愛いくて胸がデカイ子が好きなんだよ。翔矢だってこんな顔してるけど思考はオレと似たようなもんだぜ」


「ほかの野郎と一緒にされるのはいいが、お前と一緒はごめんだ」


「嘘つけ! お前だって胸のデカイ女が好きな癖に! それにお前等だって、男の雑誌買ってるだろ?」


「これでしょ? でも、あたしは計画的だから問題なしー」


 机から出てきたのは、賢哉が表面を飾る雑誌だ。イケメン男子高生と文字が躍っている。





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