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13、執事ってもっとこう、主の命令には絶対服従なんじゃねぇの? 後編

『誰も気づかなかっただけだ。フェイクで画面上は変わらず見えるように細工してあるからな。だから、翔矢だけがオレに命令出来る。お前が望む方法に従ってやってもいい』


「専門用語が多すぎてまったく理解できん。美琴、一言でまとめてくれ」


「一言!? え、えっと……ボイスくんはお兄ちゃんの命令にだけは絶対に従うってこと」


「あら、本当に一言でまとめたわねぇ。でもとてもわかりやすいわ」


「ボイスが翔矢に従うことはパパにもわかったよ。だけど、それならアイズの最優先順位者は誰になってるんだ?」


『オレだ』


『ええっ、ボクはそんな話は聞いていませんよ!? ボイス、いつの間にそんなことになっているのですっ?』


 こちらは本人の許可なく書き換えられていたようだ。ふてぶてしく胸を張るボイスに、アイズが食ってかかっている。しかし、ボイスは聞く耳持たずに秋成に向かっていった。


『──だから、アイズに命令してオレを破壊するのは無理だぜ』


《なんてことだ……翔矢、適任者は君しかいない。このままボイスを野放しにはするのは非常に危険だ。何があろうと君には責任を負わせない。打開案が見つかるまでの一時的なものでいい、頼む!》


「そういうことなら話は別ね。翔矢ちゃん、ママは反対よ。もともと責任なんてものは、管理も出来ないものを送ってきた秋成くんと、出し抜かれた発明者にあるんだから、翔矢ちゃんが負うことなんて一グラムだってないもの。危険なものを子供に押し付けるのはダメよ?」


「沙織、秋成は別に翔矢に全ての責任を押し付けよう思ったわけじゃなくてだな、その、つまり、翔矢のことを信じているからであって……」


「あら、あなたは親友だからって秋成くんの意見に賛成するの?」


「もちろんオレは息子の意見を優先するぞ! ただ秋成が無責任野郎だと誤解されるのも見てられないからな」


《余計なお世話だ》


「この野郎。オレにはちっとも素直じゃないが、秋成は翔矢になら任せても大丈夫だって思ったんだよ」


《……わかってくれ、沙織。今回のことは確かに我々の失態だが、今すぐに打開策を用意するのは不可能なんだ》


「でも、これはいわば会社の失態よね? そのお尻拭きを高校生の男の子にさせるのは間違っているわ」


 厳しい言葉はどこまでも我が子の味方をするものだった。母に押されて大の男が困っている様子は胸がすくものがある。


 翔矢はボイスを見下ろした。フォログラムに投影された狼執事は目が合うとなにかを訴えるようにじっと見上げてくる。もの言いたげな様子はまるで本当に生きているようだ。


 頭のいい奴だな。翔矢は先読みして秋成の手を封じたボイスに、半ば感心してしまった。人工知能の作りや専門用語はさっぱりわからないが、この狡賢さを面白いと思ったのだ。


「はっ、気に入った!」


「はいぃっ!? お兄ちゃん、今の話を聞いてた? ボイスくんは知能が高すぎて、人の手を離れちゃってる。その子が本気を出したらあっさり世界を支配できちゃうかもしれないんだよ!?」


 翔矢の突拍子もない言葉に、美琴が高い声を裏返しそうになっている。しかし、翔矢には本能的な確信があった。こいつは考え方がオレ寄りだ。だから、わかる。


「できるのにやらないのは、そうする気がないからだろ? おい、ボイス、オレの命令には従うんだな?」


『……従う!』


「男、いや、人工知能に二言はねぇな?」


『ない』


 きっぱりした答えと、ボイスの激しく揺れる尻尾のギャップが面白すぎる。翔矢は真面目な表情を崩すと、にやりと笑う


「わかった。しばらくはオレが引き受けてやんよ。ボスさん、その間にあんたはこいつを説得するか、シレイケンとやらを取り戻す方法を考えろ。こいつを破壊する以外の方法な」


《ああ……っ、君の勇気ある決断に感謝する》


「ってわけだ、悪いな美琴」


「もうっ、お兄ちゃんのバカァッ。……こうなったら、私もアイズくんの相棒になる!」


「あんなに嫌がってたじゃねぇか、それなのにいいのかよ?」


「お兄ちゃんだけに任せておくのは心配だもん。勉強も自分でやんなきゃダメだし、世界征服を目指すのもダメなんだからね!」


「その手があったかっ」


「いいことを聞いたって顔をしないの!!」


「コノ兄ヲ信ジナサイ」


「わぁー、詐欺師みたいな微笑み。びっくりするほど信じられる要素がないよ?」

 

「なんだとぉ? おのれ、我が正体を見通すとは……いや、そんな蔑んだ目でお兄ちゃんを見るんじゃないよ。ちょっとした冗談だろ? オレは悪役でもヒーローでもねぇから、そんな面倒くさいことはしないぞ」


「よかったぁ、いつものお兄ちゃんなら信じられるよ」


 子供達の間で話が決まると、状況を見守っていた父が口を開く。


「ピンチの時にはパパ達が助けるよ。持ってるだけでいいと思えば、少しは気も楽になるだろ?」


《私の元にも今後もし困ったことが起きたら、遠慮なく電話してくれ。番号は鉄次に聞けばわかる。君達にとっては不本意なことかもしれないが、これからよろしく頼む》


「はいよ。引き受けたからには途中で投げ出さねぇかんな」


「……私もです」


「さすがオレ達の子供だ! な、沙織」


「そうねぇ。翔矢ちゃんと美琴ちゃんが決めたなら、ママはもう反対しないわ。そろそろ学校に行く時間よ? 急いで急いで」


『これからよろしくな、翔矢』


『美琴、ボクもよろしくお願いしますね!』


 この日、翔矢達は非日常に爪先をつけることになったのだった。 





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