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12、執事ってもっとこう、主の命令には絶対服従なんじゃねぇの? 中編

「でも、アイズちゃんとボイスちゃんが可哀想じゃないかしら?」


「あのな、母さん。どこから見ても、無理やり押し付けられるオレ達の方が可哀想じゃないか?」


 手を頬に当てて可愛らしく首を傾げる母に、翔矢は半眼を向けた。正直に言えば、AIの稀少性とやらはいまいちピンと来てない。そういう難しい話は頭が受け付けないのである。


 しかし、自分よりよほど頭がいい妹がそういうのならそうなのだろう。翔矢は本能的な勘に従い、妹の意見を支持する。つまり、オレは美琴の永遠の肯定者だな! 我ながら格好良く決めたぞ。と、本人は上機嫌だが、他人ひとはそれを思考の放棄と呼ぶ。兄の賛成を受けて美琴は年の割に育った胸の前で両腕を組む。


「そうだよ! お母さん達は自分の子供とAIの命、どっちが大事なの? 私もお兄ちゃんもこんなことで死にたくないよ」


『そんな大ごとですか!?』


 アイズから突っ込みが入るが、二人はそれを聞き流した。美琴が理路整然と浮かんでくる懸念を並び立ててたことで、ようやく本気で嫌がっていることを感じ取ったのか、親父があたふたと携帯を取り出す。


「わ、わかった。今すぐ秋成に連絡するから、ちょっと待っててくれ」


「……私だと言いたいことを言えないまま終わっちゃいそうだから、電話の相手はお兄ちゃんがしてくれる?」


「ああ、それでいいぜ」


 人見知りを拗らせている美琴に電話越しとはいえ、一度会っただけの相手とさしで話をするのはつらいだろう。本人も一応努力はしてるようだから、このくらいはいいだろう。翔矢が頷くと、美琴は安心したように表情を緩めて、父に言う。


「お父さん、電話が繋がったらお兄ちゃんに渡して。直接秋成さんと話してもらうから」


「わかったよ……もしもし、秋成か? 子供達がお前が送ってくれたプレゼントのことで直接話したいって言ってるんだが。……ああ……じゃあ、代わるぞ?」


 鉄次は二、三言秋成と話すと、翔矢に携帯を渡してくれる。翔矢はスピーカーにして、テーブルに置くと電話の向こうの秋成に皮肉を飛ばした。


「朝早くから黒鳥家にひと騒動起こしてくれてどーも」


《すまないな、予想はしていたんだが。賢い妹さんのことだから、危険から遠ざかりたいと思ってのことだろう?》


「それがわかってて、なんでこんなもん送ってきたんだよ?」


《こちらにも事情があってね。彼女の懸念はもっともだが、なに心配することはない。アイズとボイスに搭載されたAIは市場ではまだ出回っていない技術力だが、一般的な科学者がおいそれと扱える代物でもないんだ。彼等の自我が我々の予想を上回ってしまったものでね。知能は誰よりも高いだけに、製作者の意志も素直に聞き入れなかったんだ。あげくに、自分を扱うものは自分で選ぶと言い出す始末だ》


「え……それってすごくまずい状態なんじゃ……」


 秋成に聞かれないようにひそめた美琴の声を拾い、翔矢は代わりに言葉にする。


「それ、まずくね?」


《通常ならばあり得ないな。原因は調査中だ。だが、彼等が君達がいいと言ったんだ。こちらとしても試験データが欲しいのでね。君の相棒にする代わりに日々のデータを渡すことを条件に、彼等を外に出すことにした》


「オレ達には必要ねぇよ」


《もちろん、君達が引き受けてくれるというのなら報酬は弾むぞ?》


「へぇ、いくらよ?」


「お兄ちゃん!?」


 聞くだけ聞こうとすれば、美琴が小さな声を荒らげた。眉をひそめている。聞くだけだと口パクで伝えると、しぶしぶ頷きが返って来た。


《ひと月に当たり、十五万の手当てをつける。どうだろうか?》


「なかなかだなぁ。だが、断る! あんたは平然と誘ってくれちゃってるけどよ、トイレとか風呂とかどうすんだ? そんなとこまでチェックされるって、どんな特殊プレイだよ。そんなもん、オレだってヤだぜ。なら、女の美琴はもっとだろ。そういうのもOKって性癖の奴を探せばいいんじゃね?」


 魅力的な金額ではあるが、自分のプライバシーを売るほどではない。翔矢の返答に美琴が笑顔で頷いている。お兄様を信用しろ。ビシッと断ってやろうではないか! 相手がやり手の社長だろうと関係ねぇ。NOを突きつけるのは得意だぜ。頑固として拒否の姿勢を貫く翔矢に、ふと秋成が笑む気配がした。


《なるほど、その頑固さは鉄次に似たか。──聞こえているな、アイズ、ボイス? お前達が説得しろ。説得が出来たなら、お前は二人の正式な相棒だ》


『了解しました。美琴、ボクはあなたのプライバシーを守ります。AIは嘘をつけません。貴方が目を閉じてほしい時には、スリープ状態かシャットダウンすることをお約束します!』


『…オレも翔矢が望むなら、そうしてやる。それに、オレは翔矢を最優先者に設定した。指令権をお前に渡したから、お前ならオレを破壊することもできるんだよ』


「…………は?」


《待て、ボイス! お前に対する最優先指令権は私が握っているはずだぞ!?》


 破壊なんていう単語が出てきた時点で、にわかに嫌な予感がしてきた。秋成の声にも剣呑な色が混じっている。ボイスが言ったのはそれだけ会社にとっても重要な事態なのだ。


『オレが設定を変えた。今まではオレを生み出したってだけでおまえ達が最上級設定者だったが、今は違う。パソコンからネットワークに侵入して、システムチェック中にウイルスで上書きしたから、選択権はオレのものとなった』


《なんだと!? そんな報告は受けていない!》





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