1、親の秘密なんてなぁ、テストの点より知りたくねぇわ!
こちらもまったり更新です。一緒に笑って頂ければ幸いですヾ(≧▽≦)ノ
おぎゃあと生まれた時から見事な三白眼だったという少年、黒鳥翔矢はベッドの上に寝そべり、片肘をついて週刊プライドを読んでいた。高校生にとって貴重な休日である日曜日。特に予定もない翔也は家で一日ごろごろして過ごすことを決めていた。なんて贅沢な時間の使い方だろうか。ページを捲りながらダラダラタイムを満喫していると、ふいにノックの音が邪魔をした。
「空いてんぞー」
翔矢はその姿勢を崩さないまま返事だけを返して、漫画のページをめくる。ドアがホラーを思わせる音を立てて開く。しばらく無言で読み進めていたが、一向に誰も声をかけて来ない。翔矢が怪訝に思いながら顔を上げると、顔色を悪くした妹の美琴が半泣きで飛びついてきた。
「……お兄ちゃああぁぁんっ」
二つ下の妹は中学二年生だが、世間様から美男美女と認識されている両親の良いとこどりをしたらしく、顔の造作は整っていて、兄である翔矢から見てもまぁ綺麗な方なんだろうなとはわかる程度には美人である。そんな美琴が綺麗な顔を歪めて、目つきの悪さばかりが目立つ兄の背に両手を回してしがみついてくるのだ。妹の泣きそうな顔に思わずぎょっとして翔矢は身を引く。
「い、いきなりなんだ、美琴!?」
「あの、あのね、お風呂、お風呂場に!!」
「はぁん、アレか。ったく、しょうがねぇなぁ。退治してやっからハエ叩き持ってこい。で、G、K、Mのどれが出たんだよ?」
Gはゴのつくあれで、Kは足が八本ある奴、そしてMは漢字に百がつく害虫である。黒鳥家ではそいつ等の名前を言うだけで女達が悲鳴を上げて大騒ぎする存在だ。退治するのはいつも翔矢か父親のどちらかの役目なのだ。やれやれとベッドを下りようとする翔矢の服を妹が握りしめる。
「やだっ、スプレーにしてよ! お兄ちゃんは力が強いんだから、ハエ叩きを使うとモザイクが必要な事件になっちゃうでしょ。って、もうっ、違うよ、虫じゃないの! 部活で汗をかいたからお風呂に入ろうと思ったら、こ、これがお風呂に干してあって……っ」
「この布がどうしたんだよ?」
「いいからよく見て!」
しっかり者の妹が悲壮な表情で布を押し付けてくる。翔矢は面倒くさく思いながらも、毒々しいピンクの布と黒い布をそれぞれベッドの上に広げてみた。つかの間の沈黙が過ぎると、それをそっと丸めて無言で窓を開く。丸めたそれをピッチャーを真似て思い切り振りかぶろうとしたところで、腕にしがみつく美琴に妨害を受ける。
「窓からポイ捨てはダメ!」
「止めるな美琴。オレ達はなにも見なかった。これはゴミだ、ホコリだ、Gだ」
「無理だから! お兄ちゃんがそれを捨てても現実は変わらないってば!」
ぐいぐい引っ張られて、翔矢は根負けする。美琴の言う通りだ。窓からぶん投げたところでこれが存在している事実は消えない。ならば、完全になかったことにするには……。
「よし、燃やそう」
「真顔でなに言ってるの!?」
「はっはっはっ、燃やして全てなかったことにするぞ!」
腰に美琴をひっつけたまま翔矢は高らかに笑って部屋を出て行く。美琴が体重をかけて抵抗するが、気にせず引きづりながら廊下に出ると階段を目指す。
「馬鹿なの、お兄ちゃん!?」
「天才的なひらめきだろうが。それともなにか? お前は親がどえらい趣味の持ち主だったという事実を歓迎して受け入れられるのか? オレはご勘弁願いたい!」
「私もご勘弁だけど……」
「だろ? ならやることはただ一つだ。証拠がなければ、オレ達の平穏は守られるんだよ」
「そう、なの?」
「そうだとも。オレの言うことに間違いはそんなにない」
腕を組み、いかにも自信満々な様子を見せつけてやれば、根が素直で少しばかりおバカな妹は丸め込める。自分こそがバカ正直に、そんなにないと言ってしまっていることに気づかず、翔矢は三白眼をキラリーンときらめかせる。
「いいか、美琴。オレ達の平穏を守れるのはオレ達しかいないんだ。親父達が帰ってくる前にこいつを燃やすぞ!」
「う、うんっ!」
似てない兄妹が顔を見合わせて結託した時、無情にも玄関の鍵が回される音がした。
「ただいまーっ、愛しの子供たちよっ! パパとママが帰って来たぞ!!」
「おみやげ買ってきたから、おやつにしましょうねぇ~」
両親の浮かれ声に、愛しの子供達はすんっと表情を消す。力の抜けた翔矢の手から二枚の布が転がり落ちた。それはバウンドすると階段をコロコロと落ちていき、戦隊モノのコスプレ衣装がペラリと披露される。玄関口で固まった両親と階段の上で固まる子供達の視線はがっちりと合っていた。……おい、この状況をどうすりゃいいんだ? チーン。