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荊の姫  作者: ごはんごパン
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鋼鉄の殻と歪の仮面

騒がしい城内、いつもより人通りの多い廊下。林のように乱立する足の間を縫って走った。


「こっちです!」


 人混みを抜けて、手を振るエレントラントに駆け寄った。


「敵は、竜は何処にいるのですか」


 自分でもぞっとするほど冷たい声色だった。溢れる魔力は溶かされた鉄の如く、周囲は皆離れていく。そんな私を―――


「いいですか、貴方は」


 がしり肩を掴んで、無理矢理視線をぶつけられた。


「一人じゃないんです」


 独りで征かなくていい、本当に?喧騒が、並ぶ足並みが?背の高い人たちに囲まれて何も見えない。

 

 本当に?

「分かりました。うん、もう大丈夫」


 奥歯を噛みしめたまま、無理矢理顔を作り替える。歪に歪んだ仮面はちゃんと、笑顔の形になっただろうか。


 一瞬、寂しそうに悲しそうな顔を見た。今にも泣き出しそうだった。きっと、私以上に私を想ってくれているのだ。


 口惜しい、顔が下を向く。仲間に囲まれて生きる彼女が羨ましい。そして孤独な私が恨めしい。


 彼女の号令に、集った兵士が動き出す。彼女の鎧は分厚くて、互いに体温は伝わらない。


 ―――そうか、


 孤独に思うのは、別に私が殻に籠っているからではない。私が触れようとした人全て、皆みんな殻を被っているからだ、と。

結局、誰もかれも、勿論エレントラントだってきっと孤独だ。殻を融かせるのは、夜の楽園のみならば、私は誓う。


 肌を晒し、血を流して、互いの孤独を埋めるとしよう。


******************************

 続く草原を、迅雷の如く駆け抜ける。腰に回された細い腕、静脈が透けるほど白い肌。背中に感じる僅かな重み。


 こんな幼気(いたいけ)な少女と、戦場で共に戦え?可笑しなことを言う王も居たものだ。

 私が竜を追い払ったのだ、などと戯言を宣えばきっと、次の犠牲が増える。剣客がいらっしゃった、と言う外なかったのだ。


「ならばその、客将とやらに打ち取らせよ」


 自国の民でないでないならば、使い捨てても構わない、それが幼子であっても。何処の馬の骨かもわからん人間が剣客としてきたのだ、いつ裏切られるか分かったものではない、竜と共に死んでもらった方が都合がいい。


 そんな訳があるか、と叫びそうになるのをやっと堪えて、どうにか取り下げようとした。


「まだ子供ですよ、どうしてそんな」


 惨いと思った。全ては国の為、王の為と、今まで捧げたこの身が、怒りに引き裂かれそうだった。

 

そうだ、彼らは言い放った。

「これは帝国のため思ってである」だと。私が自分に言い聞かせてきた言葉を、不当な理由とされたのだ。

 

確かに、竜を討伐できなかったら、その結果は帝国にとって最悪の事態を招く、ならば―――


 せめて、この手だけは離さないように。


「エレントラント、どうしたの?」


 無邪気な声は、争いを知らない子供のよう。


「いいえ、何でもないですよ」


 何でもないのだ、何てことないのだ。私が彼女にかかる全ての厄災と、全ての批判を受け止めればいいだけ。たったそれだけなのだから。


彼女への思いに耽るままで


「ねえ、エレントラント…分からない?」


 何の事だろうか、ユリアーナの顔は一変し、険しく前を見つめたまま鼻を動かした。


 血と、瘴気の臭い。遠い上空から降る金切り声。


「来たわね…気を引き締めなさいッ」


 背後から聞こえる詠唱と、抜刀音。


「エレントラント、私にも剣…」

「駄目よ」


 目を見開いて見つめられている。確かに、私は出撃を要請した、でも。


「駄目なものは駄目よ」


 貴方には本命を打ち取って貰う。だから、それまでは


「下がって、此処は私たちがやります」

 眩しい光の中から降りてくる無数の黒い影。鳴き声が耳を劈く。

砲声轟き、天に咲く血肉の花。

 

 降る花弁を迎える様に手を広げ、全身を紅に染めたユリアーナの表情は


 心底、愉悦を謳うようで。一瞬、とても(おぞ)ましい怪物を見た様であった。


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