血池肉林
じわり溢れだした体液を啜る。際限なく零れる血は、頬に一筋の紅を作った。舌の上で転がして、鼻孔一杯に広がる鉄の香りに尽きることない欲望が一層加速する。
嗚呼甘い、砂糖よりも。まるで蜂蜜のように。啜り尽くしてしまいたい。
「ちょっと…あの、ユリアーナさんよろしくて?」
あーこれは怒ってますわ。ぴりとした声は、今まで聞いたことの無いほど張り詰めている。常識的に考えて、いきなり噛みつくのは自分でもどうかと思った。今更だけど。
ベッドに押し倒されて、ぐっと両手で頬を挟まれた。視線がぶつかって数秒、居た堪れなくなった私はぐるりと目を回した。
「貴方…足りてないわ」
そう言って
唇に押し当てられた熱、はらり落ちた髪の房から香り立つ。
包まれた柔らかい躰から伝わる寝起きの熱、ひときわ大きい鼓動。目を見開き為されるがまま。腔内を蹂躙する舌先が触れ合った。熱く熔けるような、焼けるような甘美な刺激に脳と腰を蕩けさせる。
息が、できない。儘よ。
朦朧としてきた意識を手放そうとした瞬間、視界が開けた。上気した頬、ほんのり紅く染まった肌。
「…どうかしら、渇きは癒せた?」
そういえば、あの狂ったように飢えた思いは何処へ。代わりに、この奥底から溢れる気力は何処から。
「魔力欠乏…偶に居るのよ?自力で魔力を作る工程を、始める魔力が無くなってしまう人」
魔力を作るための魔力、「起魔力」とでも言うのだろう。それが無くなると―――
「他者に依存しなくちゃならなくなるの」
今みたいに、ね。と月光に照らされた顔は、色気のある微笑を浮かべている。腰かけたベッドは窪み影を作った。白く、丸い躰の曲線を視線で辿る。
「まだ…ちょっと足りないみたいです」
縋る様に押し倒し、そのまま貪るように吸い付いた。
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咽るほどの甘い香りを残した枕、汗ばんで張り付いたシーツから体を起こす。あのあと、エレントラントを見習って裸で寝てみた。かなり爽快、ちょっと恥ずかしかったけど…
完全に登り切ってしまった太陽は朝日とは言い難い。もうすぐ、彼女が水をやりに来るだろう。
それにしても。
辺りを見渡す、物が積み上げられているが実際かなりの広さがある部屋だ。
今日は休日の筈、なのにエレントラントがいない。いつもであれば、いっしょにきつね色のトーストと目玉焼きに齧り付いて、ミルクを流し込むのに…
突然、視界に動くものを捉えた。ひらひらり、揺れるカーテン、その向こう。陽に煌めく、宝石のような水滴を一杯に撒く。それら水滴より美しい瞳と、目が合った。
「あら…今日はずいぶんと魔力の調子が良さそうですのね」
小鳥のように高く、そして雪のように静かに降る声。人はこんなに美しい音を出せるものなのか。
「心配していたのですよ、ずっと顔色がよろしくなかったので」
嗚呼、なんて応えようか、早くしないと行ってしまう…
「それではまた、ご機嫌用」
あわあわとしているうちに、彼女は背を向けてしまった。
きっと彼女の気まぐれだったのだろう。本当だったら聞けないその声を、しっかりと心に刻んだ。
柔らかく吹いた風の余韻が、いつもより少し騒がしい。…そうだった、エレントラントは何処に?
慌ただしい足音と共に、吹き飛ぶ勢いで扉が開いた。
「…ユリアーナ、貴方に頼りたくはなかったのですが」
初めて会った時と同じ格好、綺麗な肌を一切覆い尽くす鎧。
「『奴(竜)』が、出ました」
どうか…かんそうくだすぁい…
モチベ…モチべぇぇぇぇっぇぇっぇ‼