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第4章-3 階段下の会談

第四章


三 階段下の会談




「ヴィオーラ、そんなところに居ると、学生のサボりみたいだぞ」


「うわっ、レオーネ様!?」


 イメルダさんは村長の挨拶でこの場を離れてしまったけれど、階段下の物陰で一人佇んでたら、上からロッソが覗き込んできた。


 ってか、こっちの世界でも階段下でサボったりするんだな。

 とは言え、こちとら元優等生。

 中学までは真面目に授業を受けていたわけですよ。

 ……高校生になってからは……まぁ、ちょこっとはサボったりもしたけどね。

 ちょこっとだけど。


「そんなに驚くこともないだろう」


 言いながらロッソは階段を下りてオレの所にやって来た。


「急に上から声をかけられたら驚くって」


 隣でロッソがしゃがむので、オレもそれに合わせる。

 階段下でしゃがんでたむろするって、何かちょっと悪いことしているみたいな気分になるな。

 別にしてないけどさ。


「村長達が到着したようだな」


 少し離れた玄関ホールの方から、話し声が微かに聞こえる。

 俺たちがいるこの階段は建物端の階段で、人通りも多くない。

 村長達一行も応接室へは、ホールの階段を使うだろう。


「レオーネ様は挨拶に行かないの?」


「それを言ったら、ヴィオーラもだと思うがな。だが、ベージュ殿が挨拶しているようだし、問題ないだろう。玄関先でぞろぞろ挨拶しても仕方ないし、どうせ後で顔合わせがあるしな」


「それもそっか」


 正直、ああ言う挨拶の時の身の置き方にまだ慣れない。

 どうしようかと思っていたので、後回しに出来るならそれに越したことはない。

 僅かに緊張が解けたので、しゃがんだまま腕を大きく伸ばす。


「で、昨日は楽しかったか?」


 ちょっとリラックスしたところで、ロッソが不意に質問をしてくる。


「え!?」


 まさか昨日のことを訊かれるとは思ってなかったので、油断していた。

 何か色々思い出してしまい、顔に血が上りそうになるが、どうにか堪える。


「何をそんなに慌てているんだ?」


 あれ?

 堪えられてない?

 だけど、ロッソに一体何を報告すれば良いんだ?


 ルーカと市場で楽しく遊んだ上に、帰り道によく分らないけど、ほっぺというか唇の直ぐ脇という極めて微妙な位置にキスまでされてしまいましたとか言えば良いのか?


 気まずすぎる。

 いや、別にこいつに悪いなとか思っているわけはないぞ、断じて。

 ただ、気まずいだけだ。

 うん。


「いや、別に……。たっ、楽しかったぞ。市場が凄く賑わっていて、屋台で食べたものも美味しかったし」


 応えながらつい、ルーカにキスされた右頬と言うか、唇の直ぐ右辺りを触ってしまう。


「そうか……」


 そう言ってこちらへ向けた視線はいつもより冷たい。

 何となくだけど。


「あの……さ……、もしかして妬いてる……とか?」


「はぁ」


 思わず口を吐いた仮説にため息で応えられてしまった。

 そうだよな、妬くわけ無いよな。

 いつもオレのことからかって楽しんでるこいつがな。


「いや、何でもな……」


 発言を取り消そうとしたが、最後まで言う前にロッソが口を開いた。


「そうだと言ったら?」


「えっ?」


 言葉の意味を考える前に左手首を掴まれる。

 ロッソの大きな手にオレの細い手首なんて、余裕ですっぽり収まってしまう。

 手首に気を取られ振り向いたところ、ロッソの唇がオレの左頬に触れる。

 左頬というか、唇の直ぐ脇というか……。


「こちらは空いているだろう?」


「え? いや、あの……」


 待て待て、どういう事だ?

 左頬は空いているって事なのか?


「残念~。そっちは可愛いボーイフレンドがしてたよ~」


 オレが混乱していると、またもや上から声が聞こえてきた。

 更に混乱するオレが上を向いて声の主を確認する前に、声の主は軽やかな足取りで階段を下りてきた。


「ルーカ!?」


「おっはよー、ヴィオちゃん。ロッソってば、抜け駆けだよー」


 ルーカもオレたちの前に来て、よいしょっとしゃがむ。


「お前が言うな。それで、可愛いボーイフレンドとはどういう事だ?」


 不機嫌さを隠さずにロッソがルーカを睨む。

 何かこうやっていると、まだ学生と言っても差し支えのない奴なんだよなぁ……と改めて思ってしまう。

 仕事モードの時にはずっと年上に感じるけど。


「うん、今朝一番の馬車で国境麓の街へ向かったよ」


「ああ、ピエトロたち、無事に発てたんだね。良かった~」


「そいつがヴィオーラの左頬にキスをしたというのか?」


「うん。昨日、たくさん遊んだからお礼にって」


 ルーカがちょっと意地悪そうに微笑む。

 何か変な雰囲気で言ってるけど、マジで、普通に公園で遊んだりしただけだぞ。


「あっ、遊んだだと!?」


 だけど、遊んだ詳細なんてロッソは知らないから、鋭い暗紅色の瞳を見開いてルーカに聞き返す。

 握られたままの左手首に力がこもり、少し痛む。


「五歳だよ。五歳の子供だから、ロッソ落ち着いて」


 ロッソの様子を見て、ルーカが直ぐさま注釈を入れる。

 ったく、最初からちゃんと子供だって説明しろよ。

 頼むよ。


「子供か……。だが、今は五歳とは言え、十年経てば十五歳だぞ!」


「ロッソ、本当に落ち着いて。その理屈で行くと、世の中全員適齢期になっちゃうから」


 訳の分からないことを口走り始めたロッソをルーカが落ち着かせる。


「そっ、そうだな。」


「それにしても、こんな階段下でお喋りしている場合じゃないよ。村長達も応接室に移動したし、僕たちも行かないと」


 オレたちがたむろしている間に、玄関先での挨拶はすっかり終わってしまったらしい。



◆ ◆ ◆



 応接室と言うか、通されたのは昨日も使っていた会議室だった。

 応接室と言うには広すぎる。


 簡単な挨拶を済ませると、オレとロッソは奥に腰掛けるベージュの並びに腰を下ろす。

 直ぐ後ろにはエミリィちゃんとルーカが控え、更にその後ろには王国騎士団が控える。


 村長側は、三名。

 四十代くらいに見える村長に、二十歳くらいの長男、そして、それよりちょっとだけ年下の次男。


「お目にかかれて光栄でございます。私、このノルド村の村長を務めさせて頂いております。こちらは長男のジョルジョ、そしてこっちは次男のセルジョでございます」


 村長と次男のセルジョさんは栗毛色の髪。

 長男のジョルジョさんは銀髪だ。

 この辺は青系の髪も多いので、銀髪でもそんなに浮いたりはしなさそうだ。

 って、紫色の髪のオレが言う話じゃないか。


「北の森は王家にとっても分からない部分が多い場所、今回の森までの道案内、感謝する」


 ベージュが威厳たっぷりで礼を述べる。

 学者然としてて、普段はあまり喋り方にこだわりとか無さそうだけど、やっぱり王子様なんだなぁ、ちゃんと喋ろうと思えば喋れるんだな。


「勿体ないお言葉。この度は次男のセルジョがご案内させて頂きます。セルジョ、ご挨拶を」


「セルジョです。精一杯おつとめさせて頂くッス」


 頭を下げた少年は、多分オレやエミリィちゃんと同じくらいの年だろう。

 長男のジョルジョさんは少し癖のある銀髪で、色白、背は高いけれど、顔は女性的だ。

 方や、今、頭を下げている次男のセルジョさんはまだ少年的な体つきではあるけれど、短く刈った栗色の髪に、日焼けした肌、キリッとした顔つき。

 顔のパーツとしては、村長に似ているのかも知れない。

 ちょっと村長の方が、貫禄が付きすぎていて、判断に苦しむところではあるんだけど。

 髭もたくわえているしね。


 なんて、オレは暢気に村長一家の様子を見ていたけれど、話し合いはチャキチャキと進んでいった。


 もう直ぐそこまで迫って見える北の森だけど、この村から賢者の居住区に近い入り口までは二泊の距離にあるらしい。


 そして、すっかり忘れていたけれど、賢者が出した『森が騒がしくなるのは嫌だから五人以内』と言う条件は恐らく守らないといけないようだ。

 賢者は気難しく、お供えを届ける村人も許された者だけらしい。


「では、朝食を取って出発しよう」


「ベージュ兄様、今日出発なんですか?」


「そうだよ、二泊の距離と言っても正味一泊半くらいらしいし、荷造りも昨日のうちに済んでいるからね」


 もう一泊くらい村でのんびりするのかと思っていたけど、違っていたようだ。


「昨日、お伝えしましたよ」


 エミリィちゃんがそっと耳打ちしてくれる。

 どうやら昨日は色々ありすぎたせいで、オレが聞き漏らしていたようだ。


 何はともあれ、とうとう森へ着くんだな。

 気難しい賢者ってちょっと怖そうだけど、実は会えるのが楽しみでもある。

 だって、賢者って事は凄く物知りだろうし、オレと鏡の中のお姫様についても、解決のヒントとか貰えたりしないかなぁ。


 まぁ、そんなに調子の良いことは直ぐには起こらないだろうけどさ。

 でも、折角城から旅立ってここまで来たんだ。

 出来るだけの事はやってみよう。


 転生前と比べてすっかり小さくなってしまった手をぐっと握りしめた。


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― 新着の感想 ―
[一言] ふとゴリラの別称が森の賢者であることを思い出してしまったw
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