第4章-2 カップルランキングBEST5発表
第四章
二 カップルランキングBEST5発表
「ヴィオ様、おはようございます」
ノルド村で迎える初めての朝。
少し肌寒いけど、爽やかな空気。
エミリィちゃんに支度をして貰い、宿屋の部屋を出ると、女主人のイメルダさんが挨拶をしてくれた。
「あっ、イメルダさん、おはようございます。昨晩は夕食を残しておいて頂いて、ありがとうございました」
昨日は色々あって遅くなってしまったし、夕食は部屋に運んで貰って済ませたのだ。
「いえいえ、それ位、お安いご用ですわ。それより、村探索はお楽しみ頂けましたか?」
「はい、バッチリ。でも、特に市場の規模とか大きくて、もう村と言うより、街って感じですね」
「……まぁ、元々市場の規模は程々にあるのですけれど、今は特別に多いのですわ」
「何かイベントとかあるんですか?」
オレの質問に、イメルダさんがちょっと困ったような顔をする。
「……イベントと言うか……、王都から重要人物かいらっしゃるという情報があったのでしょうね」
「重要人物って……」
疑問を口に出しかけて、ハッとする。
重要人物、メッチャ居るじゃん。
王子様でしょ、お姫様でしょ、その婚約者候補やお供達……。
「それは、まぁ……」
イメルダさんもツッコみづらそうにコチラをチラッと見る。
「……ですよね」
オレが王都から重要人物を理解していると分かり、ホッとした様子でイメルダさんが話を続ける。
「勿論、この村でもごく一部しか情報は来ておりませんが、行商人のネットワークには驚かされます」
「じゃあ、私たちがこの村に滞在してる事って、結構有名なんですか?」
「恐らく、それは無いと思いますわ。行商人の中でも特に力と情報網を持った一部の者が察知している位でしょう。ですが、いつもは寄らないこの村へ力のある行商人が進路を向けているのを見て、何かあるのかと付いてくる者が多かったのでしょう。国内販売許可証を持っていない、帝国人や周辺諸国の行商が間違えてここへ来てしまい、国境沿いの街まで戻される例もあったようですわ」
ああ、昨日出会ったピエトロ親子とか正にそれだろうな。
今朝の馬車で国境沿いの街に向かったみたいだけど、あっちでちゃんと商売が出来ると良いなぁ。
って、今はイメルダさんと話しているんだから、ちゃんと集中しないと失礼だよな。
「そっかぁ、でも、それを抜きにしても街並みも綺麗だし、イメルダさん達が村の運営もしているのですか?」
質問がマズかったのか、イメルダさんが顔色を変えて、オレの腕を引く。
「ヴィオ様! ちょっとこちらへ」
「へ? あっ、エミリィは仕事に戻っていて」
ずっと後ろで静かに控えていたエミリィちゃんにそう伝え、イメルダさんに連れてこられたのは階段下の物陰。
え?
オレってば、カツアゲとかされちゃうの?
現金、持ってないけど。
「……失礼しました。ここはイザベラの生家ですし、村では一番大きな宿屋なので、誤解されることも珍しくないのですが、村長は別に居ますわ」
当たり前だけどカツアゲではなく、廊下のど真ん中では話しづらい内容だったようだ。
声を落としてイメルダさんが説明してくれる。
「あっ、そうなんですか。昨日もイザベラさんとご挨拶したくらいだったから、他に代表となる方が居るとは思いませんでした」
一番立派な建物もこの宿屋だったから、てっきり商人中心の村なのかと思ったよ。
「……それが、居るのですわ。そして、多分、昨日ご挨拶が出来なかった上に、我が家に先を越されたと落ち込んでいるでしょうね……」
「色々、大変なんですね」
「決して広く無い村ですからね。イザベラのお陰で村の整備はかなり進みました。ですが、市場を賑わせたのは村長とご子息達のご尽力の賜物なのですから、もっと堂々としていれば良いと思うのですけれど……」
「へぇ、何か工夫されたのですか?」
「ええ、市場の設営費を国境沿いの街に比べて大分下げたのですわ。それに、品物の一部を村で買い取り、キャラバンで国内を回ったり……」
「それは良いですね」
村の規模は違えども、どこも努力や工夫をしているんだなぁ。
こういう話は第一王子ネーロが好きそうだけど。
「……それはそうと、失礼を承知でお伺いして宜しいでしょうか?」
イメルダさんが更に声のトーンを落として、深刻そうな表情を向けてくる。
ん?
何かヤバい話なのか?
「はっ、はい。何でしょう?」
少し身構えて返事をすると、イメルダさんが耳元に顔を近づけて――
「ヴィオ様って、どなたが本命なのですか?」
――囁いてきた。
「はぁ?」
ふんわり良い匂いがしたよ。
薔薇の香水かな?
妹の第四王妃と似た匂いだ。
って、そんなことは今はどうでも良くて、何だって?
本命!?
聞き間違いか?
「現在、一番人気はロッソ様、次点でルーカ様となっておりますわ」
うわー、聞き間違いじゃないよ。
「ちょっと待って、どこで一番人気なんですか?」
「オホホホホ」
怪しい。
と言っても、オレたちの滞在がそこまで周知の事実じゃない以上、大方この宿屋の中でって事だろうけど。
「しかも、すっごく嫌な予感がするのですが、順位に続きがあるんじゃ無いですか?」
「まぁ! ヴィオ様、良い勘していますわ!」
「褒められても全然嬉しくないですけど」
オレが顔を顰めても、イメルダさんは楽しそうに微笑むばかり。
ホント、姉妹で良く似ているよ。
「まぁまぁ、そう言わずに。三位はどなただと思います?」
「誰だろう? この旅に付いてきてくれている騎士団の人とか?」
正直、思いつかないんだよなぁ。
考え込んでいると、イメルダさんがサクッと正解発表を始める。
「第二王子ベージュ様ですわ!」
「何でだよ!? 兄妹ですけど!?」
これは正解発表ではないな、不正解だよ、全く。
「そう言われましても……、でも、少し前の時代だと割とあった話ですし、ベージュ様はヴィオ様をとても大切に思っていらっしゃると昨日の会議でも話題になっていましたわ」
「いやいやいやいや、大切には思っているかも知れないけど、そう言うんじゃないから。で、三位で終わりなんですかね?」
「……実は、第四位も……」
「あるんかい!?」
「聞きます?」
「ここまで来たら聞きますよ!」
怖いもの見たさってこういう時に使う言葉なんだな。
知りたくないけど、気になる。
「……第一王子ネーロ様です」
「もっとヤバいじゃないか!」
第二王子ベージュだって相当だけど、それでもまだ異母兄妹。
だけど、第一王子ネーロはお母さんも一緒の兄妹じゃないか!
国や地域によってこの手のルールや価値観は違うだろうし、そもそもここは異世界なんだから、色々違いはあるのだろうけど、マジで困る。
「ですが、ヴィオ様が産まれた当初はそうなるんじゃないかと噂になっておりましたので、未だに根強いファンが居るのでしょうね」
「ファンって……。まぁ良いや、深くは考えまい。で、以上ですか?」
一応年上の女性相手なので、ギリギリ敬語を保つオレ、偉すぎる。
「一応、少数票ですが、五位もありますわ」
「もう、本当に思いつかないけど誰?」
ああ、敬語無理だわ。
「五位は国内で元々いらっしゃった婚約者様だそうです。どなたかは正式発表まで不明だった上、国内でも本当に極々一部の方しかお相手を知らなかったと言うことで、謎に包まれているのですが、こちらも根強いファンが居るようですわ」
さっきからチラホラ耳にする根強いファンの素性が気になるけど、これ以上の深入りは止めておこう。
立ち直れなくなるかも知れない。
「イメルダ様~、お客様がいらっしゃいましたよ~」
玄関の方からメイドさんの声が聞こえる。
話の流れからして、村長だろう。
「はぁい、今行きますわー! ヴィオ様、楽しいお喋りはこの辺で」
「イメルダさんが胴元をやっているんですか?」
「うふふふふ」
大人って奴は直ぐに笑って誤魔化すよ。
とは言え、そんなあくどいことはしていないと思うけどね。
なんせ、あの第四王妃のお姉さんだしね。
「もぅ……それよりも、おめでとうございます」
オレの言葉に今度はイメルダさんが驚く番。
「え?」
「指輪。今度改めてお祝いさせてくださいね」
そう、彼女の左手の薬指には昨日までは無かった指輪が輝いていたのだ。
昨夜、何かを貰ったのは見えたけど、指輪だったんだなぁ。
パオロさん、やるじゃん。
「ありがとうございます」
少し照れたように微笑んだイメルダさんの顔は、昨日までよりずっと柔らかく見えた。




