第3章-29 子供は肩車だよ
第三章
二十九 子供は肩車だよ
「ルーカ、待って。ちょっと歩くのが速いよ」
「あっ、ゴメン」
女の子の扱いには慣れに慣れている筈のルーカなのに、歩調を合わせないなんて……どうしたんだろう?
「私は大丈夫なんだけど、ピエトロが限界かも」
右手でピエトロ、左手でオレの手をそれぞれ掴んでいたルーカは、右手の先に居る幼いピエトロに目を向ける。
「あっ……」
立ち止まったところでペタンと地面に座り込んでしまった。
「モウ歩ケナイ」
そりゃあ、そうか。
最初に宿屋近くですれ違ってから、もう大分時間が経っている。
しかも、公園でもかなりしっかり遊びまくったし。
まだ五歳なんだし、体力も限界だよな。
「ほら、ピエトロ抱っこするから、おいで」
城でピエトロと同じ年頃の弟妹たちがグズった時は、乳母たちが抱っこやおんぶをしているのをよく見掛けた。
このお姫様ほどでは無いけど、乳母の中にも小柄な者はいたし、別に小さい子供の一人や二人、簡単に抱っこできるだろう。
「ウン」
幸いピエトロは泣いたり騒いだりはせず、素直にオレの方へ歩み寄ってきた。
そして、ポンと胸元に飛び込んでくる。
――むにっ
そうだった。
このお姫様、ハッキリ言って胸がデカいんだよな。
オレの個人的な好みとして、見る分には大きい方が好きだけど、実際生活するとなると不便な面もあるんだな。
こうやって抱っこするときだって、身体にしっかり子供をくっつけた方が抱っこしやすいんだけど、胸の分、どうしても隙間が空いてしまう。
と言うか、小さい胸も好きです。
全部好きです。
男子高校生時代に実物は拝んだことがありませんが……。
グスン。
っつーか、抱っこね。
ちょっとフィット感に不安が残るけど、まぁ、これ位の子供は持ち上がるだろう。
「フン!」
あれ?
上がらない。
そっかぁ!
このお姫様、かなり非力ちゃんだった。
この前、橋を直したときだって岩一つ持ち上げられなかったじゃ無いか。
子供くらいなら持てると思ったけど、子供って意外と重いんだな。
「ママ……」
――むにむに
「やっ、ピエトロ……ちょっと……」
持ち上がりはしなかったけど、ピエトロは安心したのか、胸に飛び込んだ形のまま眠そうに顔を埋めてきた。
「子供は肩車だよ」
くすぐったくて身体を捩っていると、ひょいっとルーカがピエトロを担いで、そのまま肩に乗せた。
「ワー、高イ!」
背の高いルーカに肩車して貰えば、そりゃあ、かなりの高さだろう。
「ルーカ、ありがとう。子供って結構重いんだね」
肩車されたピエトロはすっかり目を覚ましたようで、いつもと違う目線を楽しんでキョロキョロしている。
「腰を入れて持つと、結構持てるよ。……って、お姫様に言うことじゃないか」
「いや、言って貰った方が有り難いよ。この旅の中でも力が無くて困ったことがちょこちょこあったしさ」
元の世界でも決して体格は良くなかったけど、そこは男子、普通に重い物くらいは持てていた。
けど、腕の力がない分、女の子は工夫しないといけないんだな。
お姫様の細い腕で力こぶが作れるか試していると、ルーカがプッと吹き出した。
「君って本当に面白いね。しっかし、五歳の子供ってこれ位の重さなんだね」
「あれ? 抱っことかしたこと無いの?」
「無い無い。僕、抱きしめるのはしっかり成長した女の子専門だから」
うわー、やっぱりいつものルーカだな。
調子が戻ったようだし、こちらも軽口に乗ることにする。
「それって年上のお姉様って事でしょ?」
「ロッソに言い寄ってくるのが年上のお姉様中心だったからね」
「え? それってどういう……?」
聞きかけると、狡いくらい綺麗な顔で微笑まれてしまう。
「何でも無いよ。さて、市場に戻って来たけど、どうするかな」
もう空の色は夕方と夜の間になってしまっている。
市場は相変わらず賑わっている。
きっとここで夕食を済ませる人が多いのだろう。
「どうって……歩きながら聞くしか無いよね。ピエトロを肩車していれば目立つし、向こうから見つけてくれるかも知れないよ」
「ヴィオちゃんの言う通りだね。まぁ、地道に行きますか」
◆ ◆ ◆
「すみません、この男の子と似た服を着た若い夫婦を見ませんでしたか?」
「いやー、分からんね」
「迷子を捜している人、居ませんでしたか?」
「見掛けなかったね。それよりこのツボどうだい?」
「あのー、迷子なんですけど……」
「今かき入れ時なんだよ! 買わないならあっちに行っておくれ!」
「はぁぁぁ、疲れたぁぁ」
歩みは止めないけど、ため息も止まらない。
お姫様に転生してから、こんなに邪険に扱われたのは初めてだな。
久しぶりの感覚過ぎて、面食らってしまった。
「僕が聞いてあげるのに」
「肩車して人混みを歩くのだって大変じゃん。ちょっと弱音は吐いちゃったけどさ、聞き込みくらいはするよ」
「見かけによらずガッツあるねぇ」
「見かけに合わせる必要も無いからな」
このお姫様の見かけ通りに行動したら、マジで何も出来ないよ。
少なくとも、オレがやろうとしていることは何も出来ない。
「ヴィオちゃ……」
「あれー、お昼過ぎに来た二人じゃない。あらぁ、貴方たち夫婦だったの? 初々しいから付き合いたてかと思ったわよ」
ルーカが何かを言いかけた時、不意に横から声がかかる。
「あっ! スカーフ屋さん!?」
いつの間にか先程、ルーカへのプレゼントを買ったお店の前に来ていた。
正直、薄暗くなっていて気付かなかった。
「と言うか、小物屋よ」
「もう店じまいなんですか?」
「そうよ。この時間になったら食べ物の屋台以外は殆どお客さん入らないから」
「そっかぁ」
確かに見渡すと雑貨エリアは店じまいが済んでいたり、片付けをしている店が多い。
「あれ? お子さん、変わった洋服着ているわね」
「私たちの子供じゃないです! この子、迷子なんですよ」
「そうよね、言われてみれば、貴方たちの子供にしては大きすぎるものね。迷子かぁ……」
店主のお姉さんが、肩車されたピエトロをマジマジと見つめる。
「お姉さん、どうしたんですか?」
「これ、帝国の伝統柄ね」
「そうなんです! この子、帝国人みたいなんですよ! ってか、お姉さん凄いですね!」
「これでも小物屋ですからね。……ついさっき、似たような柄の服を着たカップルを見掛けたわよ。キョロキョロしていたから、声をかけたんだど、驚かせてしまったみたいで、あっちの方へ行っちゃったのよね」
指差した方は人混みを抜けると公園が有る方角だ。
「その人たちだ! ルーカ行こう! お姉さん、ありがとう!」
大きなヒントに思わず駆け出すが、ルーカは店主のお姉さんに何やら声をかけられていた。
何を話しているか、全然聞こえないけど、まぁ良いか。
急がないと。
「彼女、凄く良い子ね。ああいう子は手放しちゃダメよ」
「ホント、そうですね。困ったことに」




