第3章-24 近い近い近いってば!
第三章
二十四 近い近い近いってば!
「ルーカ!? どうしてここに?」
驚きを隠さずに問いただすが、ルーカは悪びれもせずにツカツカとテーブルに近づき、オレとイメルダさんに眩しすぎる笑顔を向けてくる。
「ああ、注意事項の確認が中心だし、僕がいなくてもロッソなら大丈夫そうだからさ」
「いやいや、右腕なんでしょ?」
「だからこその別行動って訳だよ」
「え~」
そういうもんなの?
だって、帝国側はロッソ一人になっちゃうけど良いの?
まぁ、前にロッソ自身も自分の方が強いとは言っていたし、王国側をある程度信用しているとも言っていたけどね。
「でも、ヴィオちゃんだって、流石に一人では出かけられないんだし、丁度良いでしょ? ねっ、イメルダさんもそう思いませんか?」
不信感丸出しの目で見つめるオレに、ルーカも弱いところを突いてくる。
しかも、イメルダさんの方へ向き直り、惜しみないイケメンスマイル。
一々眩しいんだよ。
「はい。仰る通りですわぁ」
「はっ! イメルダさんの目がハートに!?」
ヤバいよ、完全に魅了魔法にかかっているよ。
ルーカってば、騎士だなんて言っているけど、本当は魔法使いとかなんじゃ無いの?
それとも、イケメンは魔法をも超えるのか?
「ふっふっふ、僕、お姉様好きだからさ。相手にも伝わるのかなぁ?」
「ルーカ、止めて! 十年越しにイメルダさんと……」
おっといけない!
口外しないと約束したんだった。
「ああ、イメルダさんとパオロさんの事だよね?」
「げっ!? どうして?」
「だって、暫く前から声かけるタイミングを窺っていたから、粗方聞いてしまったよ。ゴメンね。でも、僕も口外はしないからさ」
「マジで頼むよ」
「勿論。じゃあ、話がまとまったところで、楽しくデートタイムと行きますかね」
当たり前のように手を差し出され、思わず掴みそうになると――
「お待ちください!」
「「え?」」
――先程まで目がハートになっていたイメルダさんが、オレとルーカの間に割って入る。
「イメルダさん!? まっ、まさか本当にルーカのことを気に入ってしまったんですか!? 止めた方が良いですよ?」
第一王子ネーロやロッソの話しぶりから、女癖が相当悪いことが窺えるし、
第四王妃様の大事なお姉さんに茨の道を歩ませるわけには行かない。
折角、大切な人との話も進展の兆しが見えたというのに。
「ヴィオ様ったら。イケメンに振り回されるのは大変。遠くで愛でるに限りますわ」
「うわぁ、大人の意見ですね」
何かご苦労をされたのだろうか、妙に言葉に力がある。
「もぅ、酷いなぁ。僕はいつでも本気なのに……って、話が逸れちゃったね。それで、イメルダさんは何を言おうとしていたの?」
「そうでしたわ。市場へ出かけるのでしたら、お二人の格好は目立ちすぎますわ」
「……確かに」
オレだってドレスこそ着ていないが、どう見ても貴族の令嬢には見える格好だし、ルーカも鎧じゃ無いけど、身なりからして騎士に見えるだろう。
このまま平民が集う市場に出かけたら、悪目立ちも良いところだ。
「じゃあ、あんまり目立たない服に着替えてこようかな?」
ルーカが呟くと、イメルダさんが掌を向けて、制止する。
「心配には及びません。この地域の服の方が目立たないでしょうし、こちらで用意いたしますわ」
そう言って――
――パチン!
指を鳴らす音が響くと、どこからともなくメイド達が現れた。
「げっ!」
こういう光景、もの凄く見覚えがあるんだけど……。
「それでは、この者たちが着替えを手伝わせて頂きますわ」
ぎゃー、やっぱり。
やっぱりだよ。
顔も似ているけど、やっぱり第四王妃様と姉妹なだけあるよ!
「うわぁっ! 変なところ掴まないで~」
「え? 何々? 見た~い」
「ルーカはこっちに来るな!」
「ほらほら、ルーカ様もこちらの部屋で着替えてくださいませ」
「はーい、じゃあ、ヴィオちゃん後でね」
半ば羽交い締めで連行されるオレに対して、ルーカは軽やかな足取りで着替え部屋へと入っていった。
は?
この差って何なの?
オレ、一応お姫様なんだけどな。
◆ ◆ ◆
――数十分後
「うわぁ、ヴィオちゃん、可愛いよ。どっからどう見ても村娘だね」
ルーカがオレを見て、手をパンと合わせて感心している。
「え? 褒めてる?」
「あはは、褒めてる、褒めてる。素朴な服装でも相変わらず可愛いよ。それに、三つ編みも似合ってるね」
「ホントかよ?」
近くの鏡でもう一度自分の姿を確認する。
服は素朴なワンピース、但し使っている生地は悪くないので、どちらかと言えば裕福な村人に見えるだろう。
髪は二つに分けた三つ編み。
そして、頭には帽子。
一応、変装だしね。
本来だったら、髪も紫だと分からないようにカツラを被った方がより目立たないと思うんだけど……。
イメルダさん曰く、このノルド村は紫の申し子を始め、青系の髪の人が他の地域より多いので、三つ編みして、帽子でも被っておけば、そこまで目立たないらしい。
「僕はどう? ちゃんと村人に見えるかな?」
「あれ? 意外と見えるね」
超絶イケメンのルーカは、何をしたって目立ってしまうと思ったけれど、意外にも村人の格好に違和感が無い。
オレと同じく、素朴なデザインだが割と良い生地が使われた服に、茶色い帽子。
「まぁ、元々村人だったしね」
「え?」
「さて、準備も出来たし、出発しますか」
もうちょっと詳しく聞きたかったんだけど、時計を見て、ルーカが話を切り上げる。
確かに、あんまりのんびりしていると会議も終わっちゃうよな。
「ヴィオ様、ルーカ様、治安は決して悪くはありませんが、お気を付けください」
イメルダさん達に見送られ、待ちに待った買い物タイムだ!
「ヴィオちゃん、お手をどうぞ」
宿を出て少し歩くと、スッと手を差し出される。
「え? 何だよ?」
「護衛は僕一人だし、ちゃんと手を繋いでいてね。あと、ヴィオちゃん隙だらけで直ぐにナンパとかされそうだから、僕と恋人って設定でよろしくね」
「こっ、恋人!?」
「そんな、赤くなんないでよ~」
「なっ、なってねぇよ!」
「あはは、真っ赤だよ」
ルーカが面白そうに微笑む。
恋人の設定って何だよ?
「急に恋人って言われても、どうしたら良いのか分かんないってば」
こっちは元々ただの男子高校生な訳だよ。
しかも、彼女とかとも縁遠い毎日を送っていたわけだよ。
気軽に恋人なんて単語を出されても困るだけなんだよ!
「そっかぁ」
「え?」
急に身体を道沿いにあった大きな木に押しつけられる。
オレを見下ろすルーカの瞳が怪しく光る。
「じゃあ、僕が教えてあげるよ」
宝石みたいな翡翠色の瞳が熱を帯び、こちらに迫ってくる。
近い近い近いってば!




